新たな市場環境の中における上場不動産証券への投資機会
新たな市場環境の中における上場不動産証券への投資機会
利下げフェーズへの移行は上場不動産証券にとって有利に働くとの見方
グローバル金融危機(GFC)から10年以上にわたって長く続いた低インフレと緩和的な金融環境下では、株式投資やレバレッジに対する投資家のリスク許容度が高まり、分散投資は積極的に取り入れられませんでした。
また直近では、金利が「長期にわたって一定の高水準を維持する」環境が意識されるなか、投資家は資金を上場不動産証券に配分することに対して懸念を抱いてきました。実際のところ、GFC以来、不動産証券がこれほど投資対象として敬遠されたことはありませんでした。
しかし、これまでも当社は市場が投資環境の転換期にあると論じてきましたが、直近の市場のボラティリティの高まりは、この主張を裏付ける出来事であると考えています。
利上げサイクルは数か月前に終了し、また景気減速を示す経済指標が確認されたことで、米連邦準備制度理事会(FRB)の9月利下げの可能性が高まっています。グローバル経済は大半の市場関係者が予測したよりも底堅い成長を示しているものの減速傾向にあり、これは過去2年間の中央銀行による積極的な金融引き締めによる結果の現れです。
私たちが突入しつつある新たな市場環境において、分散投資はより重要となると予想され、投資家はポートフォリオにおいて、株式へのエクスポージャーを削減し、債券、実物資産および現金への配分を増やすべきと当社では考えています。足元において、市場環境は特に上場不動産証券にとって有利な環境に変わりつつあると確信しています。
新たな市場環境における上場不動産証券への投資機会:3つのポイント
第一に、利下げフェーズへの移行は上場不動産証券にとって有利に働くと当社では見ています。資金調達コストを決定する金利は、不動産の資産価値と上場不動産証券のリターンにとって重要な要素となります。金利低下は不動産企業の借り入れコストを低下させ、物件取得や開発案件の資金調達に関わるコストを抑え、物件の資産価値の下支えとなります。
特筆すべきは1990 年以降、米国上場リートは、景気が減速し、且つ金利が低下する局面(つまり現在私たちが突入しつつある市場環境と同様の局面)において、平均月次トータル・リターン(年率)は18.9% にも達したことです。対照的に、景気が減速する一方、金利は上昇する局面(足元で過ぎ行きつつある局面)における米国上場リートの平均月次トータル・リターン(年率)は、-11.7% でした。
また、金利低下により、他の債券や現金同等証券に対するリートの配当利回りの相対的な魅力度も高まります。このダイナミクスはリートの需要拡大および価格の上昇、ひいては投資家にとってトータル・リターン強化につながります。
第二に、上場不動産証券は特に株式や実物不動産に対しバリュエーションが相対的に魅力的である点が挙げられます。
株式は長きにわたって上場不動産証券をアウトパフォームしていますが、このトレンドは持続しないと考えています。過去長期の実績では、株価収益率ベースにおいて上場不動産証券は株式に対してややプレミアムで取引されていますが、足元では顕著なディスカウントで取引されています。これは稀なことであると言えます。
6 月30日現在、株価収益率ベースにおいて米国上場リートは米国株式に対して5.8倍のディスカウントで取引されています(過去長期平均では0.5 倍のプレミアム)。これは上場リートにとって非常に重要な先行指標となっており、過去のパフォーマンスは将来のリターンを保証するものではありませんが、米国上場リートの米国株式に対するディスカウント水準が現在の5.8 倍程度となった後の12 か月間の平均リターンは19.2% でした(同期間の米国株式の平均リターンは11. 0%)。
また、上場不動産証券は実物不動産に対しても魅力的と考えます。多くの市場関係者が米国の実物不動産のバリュエーションは底打ちしていると主張していますが、当社ではまだ下落余地があると考えています。一般的に、上場不動産証券市場は実物不動産市場に1 年先行して底打ちする傾向があります。上場不動産証券は2023 年後半に底打ちしたことから、実物不動産の価格は2024 年中もしくは2025年に入っても調整が続く可能性があると見ています。
第三に、上場リートは一般的にその信用力の高さから非常に魅力的な資金調達コストにて無担保債券市場にアクセスできることで、買収攻勢において優位な立ち位置にあると言えます。上場リートが買収側となるケースは買収される側となるケースより多くなっています。
足元における資本市場での動向を見ますと、上場リートの資本配分能力の堅調さが伺えます。最近の事例では、低温物流の世界最大級のオペレーターであるLineage による新規株式公開(I PO)に注目が集まりました。同IPO においてLineage は51億米ドルもの資金を調達し、2024 年最大規模のIPO を実現したと同時に、リートのI PO では過去最大規模となりました。
その他の資本市場における活動にも上場リートの堅調さを示す事例が多くあります。米国の集合住宅リートであるEquity Residential はブラックストーンの不動産ファンドから約10 億米ドルの集合住宅物件の購入に合意し、上場市場における実物資産への流動性供給能力を顕示しました。また、米国のヘルスケア・リートであるWelltower は 高齢者住宅における国内シェア拡大に向けて、50億米ドル規模の資産取得に乗り出しています。
上場不動産証券への資金配分拡大の機会
当社では今後、投資家による上場不動産証券への資金配分が見直されると予想しています。Lineage の I PO は今日の市場環境下における上場リートの力強さを示す強力な指標となっています。良好なファンダメンタルズ、魅力的なバリュエーション、目先訪れると予想される利下げ局面から恩恵を受ける可能性等により、上場不動産証券は魅力的な投資機会を提供します。
市場は新たな投資環境への移行を上場不動産証券の価格に織り込み始めています。米国上場リート市場は、米国の6 月の消費者物価指数(CP I)の低下を受けて7 月に7. 2% 上昇し、3 か月連続でプラスのリターンを創出しました。今月(本レポートが発行された8 月末時点)においても、S & P500 指数およびナスダック総合指数をアウトパフォームしています。不動産セクターは、S&P GICS の 11 業種において最も堅調なパフォーマンスを発揮しました。
投資家の皆様は、この新たな市場環境への移行フェーズにおいて、金融プロフェッショナルから助言を受けたうえで、ポートフォリオに上場不動産証券を組み入れることの戦略的アドバンテージを検討すべきであると当社は考えています。
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