実物インフラと上場インフラ株式:完全なポートフォリオの構築
実物インフラと上場インフラ株式:完全なポートフォリオの構築
実物インフラ投資に加えて上場インフラ株式への配分を検討する好機
要 旨
- 当社の分析では、上場インフラ株式と実物インフラは同程度のリターン、ボラティリティ、株式市場との相関および分散効果をもたらしてきたため、上場インフラ株式は実物インフラを補完する役割を果たすことができると考えます。
- 上場インフラ株式と実物インフラの両方への配分は、投資家の流動性、リスク、資産エクスポージャー、その他の選好に関するポートフォリオの最適化をサポートすると同時に、分散効果に加えてESG目標を補完する役割を果たすと考えます。
- 世界経済が高金利、高インフレ、低成長を特徴とする新たな局面に入った今、インフラへの資産配分は高い相対および絶対パフォーマンスをもたらすと考えます。
世界経済は高金利、高インフレ、低成長を特徴とする新たな局面に入っています。
このような環境下、インフラ資産は、上場インフラ株式および実物インフラのいずれにおいても、高い相対および絶対パフォーマンスを実現し得る資産クラスとして位置づけられると考えます。インフラ資産は (a) 規制や契約形態に守られた価格決定力、(b) 大きな営業レバレッジを伴う高い利益率、(c) 長期固定金利債務による強固なバランスシートを有しています。その結果、インフラ資産は株式類似のリターンを提供しながら、特にインフレ率が予想を上回る時に魅力的な下方抑制特性を発揮し、リターンを補完してきました(図1)。
図1
インフラ資産はインフレ率が予想を上回る時にアウトパフォーム
前年比インフレ・サプライズ1%当たり超過リターン(対長期平均)
(1978年1月~2022年9月)
しかし、機関投資家のインフラ資産への配分は、彼らの目標を下回る水準に留まっており、配分目標達成のために資金を迅速に投入することに苦心しているようです。プレキン社の調査によると、政府系ファンド、財団、公的年金およびその他の機関投資家は、配分目標の推定約70%しか資金を投入できていません(図2)。
図2
機関投資家のインフラ資産への配分目標と現状
この傾向の一因として、実物インフラ・ファンドが、大規模かつ複雑で多くの場合において規制された実物インフラへの投資機会を獲得および実行することが困難であるためと考えています。インフラ資産は世界経済の基盤であり、そのため大規模な投資案件の発掘、価値評価、組成、投資の実行は、他の資産クラスよりも難易度が高く、投資までにより長い期間を要します。
そのため、この資産クラスへの資金投入は競争が激しく、実物インフラ投資家の将来のリターンを希薄化させる可能性がある多額のドライパウダー(待機資金)が蓄積されています(図3)。このことは、実物インフラ企業が上場インフラ企業の一部または全部を買収して「非上場化」するトレンドが継続していることからも読み取ることができます。
図3
機関投資家によるドライパウダーの蓄積
実物インフラ・ファンドのドライパウダー(a) (10億米ドル)
上場インフラ株式は、インフラ資産へのエクスポージャーを求める投資家にとって魅力的な選択肢の一つであると考えています。しかし、多くの投資家が上場インフラ株式に対する実物インフラの利点について誤解を持ち続けていることが課題です。
例えば、実物インフラはより優れたリターン、低いボラティリティ、株式との低相関をもたらすという誤解があります。投資家の間で、実物インフラはより広範な投資ユニバースへのエクスポージャーを提供するとともに、より環境・社会・ガバナンス(ESG)原則に従って投資することができるという考え方もあります。
そうした認識は誤解であると考えます。上場インフラ株式はすべての属性にわたり実物インフラと遜色ありません。寧ろ、実物インフラと上場インフラ株式への配分は補完し合うとみています。
当社は、そうした誤解を払拭するために詳細な分析を行い、上場インフラ株式戦略と実物インフラ・ファンドを比較しました。当社は、投資家に正しい情報や知見およびポートフォリオ・ソリューションを提供するとともに、上場インフラ株式が実物インフラへの配分を補完する役割を果たす可能性について投資家が確信を得られるようにサポートしたいと考えています。
当社は、バーギス社のPrivate-Iプラットフォームから得たデータを用いて、実物インフラと上場インフラ株式の主要な特性を評価し、インフラ資産への投資に対するアプローチの類似点と相違点を定量化しました。投資家の皆様のポートフォリオ最適化および投資目的の達成のための一助となれば幸いです。
当社の結論:投資家は、上場インフラ株式と実物インフラの両方への配分を検討すべきと考えます。データによると、両者は同程度のリターンとボラティリティに加え、同程度のグローバル株式との相関を提供しています。また、実物インフラと上場インフラ株式の両方への配分は、投資家の資産配分目標の達成をサポートすると同時に、分散効果に加えてESG目標を補完する役割も果たすと考えます。
端的に言えば、上場インフラ株式と実物インフラの投資ユニバースは同様に定義されています。両者は、以下のように総じてインフラ資産を同様に分類し、共通の投資テーマを追求しています。(1) グローバルな経済活動を支える大規模な実物資産の所有者と運営者であり、(2) 参入障壁の高い事業において、規制ベース、コンセッション方式あるいは契約ベースの収益構造を有し、 (3) キャッシュフローは本質的に長期的に予測可能であり、(4) 投資家に高いインフレ感応度を提供することが可能なインフレとの連動性と、(5) 伝統的な株式市場と比較して魅力的な下値抑制特性を有しています。
さらに、上場インフラ株式と実物インフラの運用会社が投資対象とするセクターも広く類似しており、輸送、公益、コミュニケーション、エネルギー関連インフラへの投資が大半を占めています。また、主に企業規模、地域構成、セクター分散などに差がある場合、そうした違いが相互に補完し合うことで、実物インフラと上場インフラ株式の両方を活用する投資家に幅広い投資機会を提供するとみています。
例えば、大企業が上場市場を占める傾向がある一方、実物市場は中小の投資機会に重点を置く傾向があります。加えて、上場インフラ株式の運用マネージャーは、より分散されたポートフォリオを生み出すことができる一方、実物インフラの運用マネージャーは、業界で要求される投資の「チェックサイズ」(通常案件に投入する資本額の要件)のためリスクを集中させる傾向があります。また、広範な投資ユニバースの規模を考慮すると、一部の実物インフラの運用マネージャーは特定のセクター(再生可能エネルギーやデジタル・インフラなど)に特化しているため、投資家は特定のテーマに的を絞ったエクスポージャーを得ることができますが、一方でよりバランスのとれたアプローチを犠牲にしています。
分析に関するデータの入手方法
バーギス社は、30年以上の専門知識を持ち、グローバルで市場をリードするプライベート・キャピタル投資情報のプロバイダーであり、MSCIがその40%の株式を保有しています。またPrivate-Iは、競合プロバイダーより信頼性が高く、質の高いデータ・セットに柔軟にアクセスできる高度なリサーチ・ツールです。このデータ・ソースから取得したリターンは、実物インフラ・ファンドの投資家が享受したネット・リターンを示しており、リミテッド・パートナーシップ(LP)の財務諸表に基づき、バーギス社によって検証されたものです。2004年以降に組成された290の実物インフラ・ファンドの詳細情報が含まれています。他のデータ・セットでは、通常、実物インフラ・ファンドが生み出したリターンを推定するために、第三者による監査や鑑定に依拠するか、LPの運用実績ではなく、資産レベルの運用実績に重点を置いています。当社は、投資家が実際に享受した手数料控除後のネット・リターンを示す最良のデータをバーギス社が提供していると考えています。
投資家は、上場インフラ株式と実物インフラの両方への配分を検討すべきと考えます。データによると、両者は同程度のリターンとボラティリティ、グローバル株式との低相関を提供しています。
相関の詳細な考察
当社は、上場インフラ株式が実物インフラよりも株式との相関が高いという認識は大きな誤解であると考えています。実際、特に保有期間が長いほど、上場インフラ株式と実物インフラのリターンは相互の相関性が高まります。確かに、超短期の保有期間では上場インフラ株式とグローバル株式の相関の方が高いものの、保有期間がわずか3四半期を超えると、上場インフラ株式と実物インフラとの相関の方が上場インフラ株式と株式市場との相関よりも高くなっています(図4)。データによると、上場インフラ株式と実物インフラのリターンは、2年以上の保有期間において90%以上の相関を示しています。
図4
上場インフラ株式と実物インフラは長期的には高い相関
グローバル上場インフラ株式の保有期間と相関
また、当社の分析によると、上場インフラ株式と実物インフラは景気サイクルを通じて類似したリターン特性を示しています。さらに、ボラティリティは実物インフラ・ファンドの方が低いように見えますが、一般に引用される多くの実物インフラ・ファンドのインデックスにはバイアスが認められ、それが上場インフラ株式と実物インフラのボラティリティ特性の比較に影響を及ぼしています。一般に認められたボラティリティ調整を利用すると、上場インフラ株式と実物インフラは実際には同程度のボラティリティを示しています。これは、データが一見して示すように、実物インフラは上場インフラ株式よりもボラティリティが低く、パフォーマンスが良いという一部の投資家の認識とは対照的です。
長期的に見ると、上場インフラ株式に投資する投資家のネット・リターンは、歴史的に実物インフラと同水準でした。このことは、1年間のローリング・リターンでも、年別の内部収益率(IRR)を積み上げた累積リターンでも明らかです(図5)。注目すべきは、これらのリターンは低流動性によるディスカウントやレバレッジの差を考慮していない点です。実物インフラ・ファンドはレバレッジをより多く活用する傾向があり、ファンド投資の非流動性を考慮するとプレミアム・リターンを提供するはずですが、実際にはそうなっていません。
図5
上場インフラ株式のネット・リターンは実物インフラと同水準
ローリング・リターン(1年)
累積リターン
また、年別パフォーマンスについて、実物インフラの各年のIRRを同じ起算日と仮定して上場インフラ株式のベンチマークの年率リターンと比較しました。実物インフラのパフォーマンスはほぼ常に上場インフラ株式を上回ると一般的に誤解されていますが、実際にはほぼ同程度です。
年別リターンは、全期間のうち44%の年において上場インフラ株式の方が高いことが分かります(図6)。注目すべきは、これは実物市場におけるレバレッジと非流動性についての比較調整前のものであり、それらが有意なリターン・プレミアムを提供していると考えられることです。したがって、手数料とキャリード・インタレスト(成功報酬の一種)が、上場インフラ株式のベンチマークと比較して、長期的に実物インフラのネット・リターンを押し下げていると思われます。
図6
上場インフラ株式と実物インフラの年別パフォーマンスは同水準
実物インフラ vs. 上場インフラ株式(暦年別)
鑑定プロセスがボラティリティに影響
実物インフラと上場インフラ株式のボラティリティについてもさらなる分析が有益です。一見すると、上場インフラ株式のリターンは、実物インフラよりボラティリティが高いように見えます。しかし、プライベート・エクイティの四半期ごとのリターンは、もっぱら鑑定やその他の取引に基づかない評価手法によって決まっており、それが平滑化効果を生み、バイアスやその他のボラティリティ低減効果をもたらす可能性があります。
多くの実物インフラ・ファンドやインフラ・インデックスは、情報の不完全な類似売買やオークション価格、または異常値を除去する平滑化したDCF(ディスカウント・キャッシュフロー)プロセスに依拠して、各期の資産の「公正価値」を評価しています。実物インフラの評価分析を専門とするEDHECinfraは、直近のレポートにおいて、「それらを比較するために利用される鑑定報告や割引率は、市場価格を公正に表しておらず、端的かつ率直に言えば、間違っていると断定した」とまで述べています。
さらに、実物インフラのインデックスは、リターンやIRRを押し下げる手数料やキャピタル・コール(資金拠出要求)のような要素を捉えることができません。
鑑定作業は、通常、前期の価値を使用し、それを直近の市場情報に基づいて更新することによって行われます。すなわち、古い鑑定をベースとする当期の鑑定は、各期について前期の鑑定から切り離して個別に決定される最新の価格ではなく、過去の情報を取り入れています。
この方法は、分析にいかにバイアスがかかりうるかを示しています。より正確で最新と考える鑑定は、特定時点における資産の価値を表わすものです。上場インフラ株式は、公開市場で取引されるという定義上、継続的に透明性を持って価値評価が行われます。
実物インフラの評価プロセスがボラティリティをどのように低減させているかを示す指標の一つとして、実物インフラのリターンの時系列における自己相関が挙げられます。自己相関とは、連続する2つの時間軸の間で、同じ変数がどの程度相関しているかを示すものです。それは直近の実績値が現在の値にどの程度影響を及ぼしているかという疑問に答えます。バーギス社のデータ・セットを分析したところ、リターンの時系列に自己相関が見られました。しかし、自己相関は4四半期後には消滅するようです(図7)。
図7
実物インフラの鑑定価格の平滑化効果は時間の経過とともに消滅
実物インフラ(1)の自己相関
実物インフラと上場インフラ株式のリスク・リターン特性の計算方法
ポートフォリオの最も有用な統計的計算の多くは、プロの投資家に共通する最適化の対象であるリスク調整後リターンを計算するためのインプットとして、算術平均リターンを必要とします。算術平均リターンは、資産が固定投資期間にわたり獲得する可能性が最も高いリターンを示します。それは一般的に過去のサンプル期間すべてにわたる単純平均を用いて推定されます。上場インフラ株式と実物インフラの算術平均リターンは、それぞれ年率9.8%と9.4%と推定されます。
しかし、最終投資家は、複数の投資期間にわたり予想される年率リターンに高い関心があります。リターンは期間ごとにばらつきがあり、時間の経過とともに累積されるため、ボラティリティとも呼ばれるリターンのばらつきの度合いは、複利年率成長率、すなわち幾何平均リターンを推定するために必要なインプットです。幾何平均リターンは、算術平均リターンとボラティリティから推定することができます。累積リターンはボラティリティに関して非対称であるため、ボラティリティの高い投資ほど幾何平均リターンが低くなると予想されます。
報告された実物資産のボラティリティを用いて上場インフラ株式と実物インフラの算術平均リターンにボラティリティ調整を加えると、幾何平均リターンはそれぞれ9.0%と9.4%と推定されます。しかし、プライベート・エクイティにおいて観察された自己相関、報告バイアス、鑑定プロセスは、報告されたボラティリティはプライベート・エクイティ保有者が経験した真のリスクではないという高い確信度につながります。実物インフラに関する流動性調整後リターンの時系列は、15.3%のボラティリティを示しています。この数値を用いて実物インフラの幾何平均リターンを推定すると、8.2%となります。
これは、実物インフラと上場インフラ株式の実際のリスク・リターン特性が類似していることを示します。
このように、一般に認められた方法を用いて、この自己相関を調整することで、上場インフラ株式と実物インフラのリスク・リターン特性を比較することができます。その場合、両者のリスク・リターン特性には類似性が見られます(図8)。
図8
実物インフラと上場インフラ株式の実際のリスク・リターン特性は類似
ともに大規模な投資ユニバース
当社が見当違いだと考えるもうひとつの社会通念:実物インフラの投資ユニバースは上場インフラ株式よりも大きい
実際には両方とも大規模です。しかし、上場インフラ株式は過去20年にわたり明確に区別される資産クラスとして比較的新たに採用されたことから、一部の投資家は新しいほどユニバースが小さいと誤解しています。
一般に認められた上場インフラ株式のベンチマークに含まれる企業の総企業価値は6兆ドルを超えています。ベンチマーク構成企業は、様々なセクターに加え、先進国と新興国の両方の地域にわたります。重要なのは、より多くの企業が取引所に株式を上場するにつれて、投資ユニバースが拡大し続けていることです。市場参加者は、環境サービスなどインフラ企業の投資特性を有する新たなセクターも検討しています。
図9
大規模かつ多様な投資ユニバース6兆ドル
企業価値(兆ドル)
EDHECは最近、詳細な比較分析を行い、インフラ企業分類基準(TICS)を用いて実物インフラの投資ユニバースを調査しました。その結果、非上場インフラ企業の企業価値は総額3兆ドルに達すると結論づけました。
投資ユニバースの規模および実物インフラと上場インフラ株式の補完的な性質が注目すべき主な理由です。プレキン社によると、機関投資家がインフラ資産に配分する最大の理由はポートフォリオの分散です。
上場インフラ株式と実物インフラは、ともに地理的に分散されていますが、それぞれの集中度はわずかに異なるため、両者は補完的と考えることができます。EDHECは、実物インフラ資産の57%と30%がそれぞれ欧州と米州にあると計算しています。対して上場インフラ株式のインデックスでは、通常、北米に60%、アジアに20%です。上場インフラ株式と実物インフラへのバランスのとれた配分は、地理的分散の向上に役立ちます。
上場インフラ株式と実物インフラは、セクター別でも分散されています。上場インフラ株式が大企業に集中し、実物インフラが通常、中小企業へのエクスポージャーを提供するといった企業規模による集中度の差ばかりでなく、企業タイプによっても集中度に差があり、補完的な関係にあるとみています。上場インフラ株式は、ますます分散されたインフラ企業へのエクスポージャーを提供し、それがユニークなポートフォリオ・エクスポージャーを提供すると考えます。実物インフラは、通常、遥かに高い集中度を示しています。実際、実物インフラ投資戦略の半数近くは、再生可能エネルギーや電気通信などニッチな分野に投資対象を絞ったファンドです。
図10
実物インフラ・ファンドの半数近くは主に1つのセクターに集中
セクター別構成割合
また、上場企業は株式と債券の募集を通じて資本にアクセスできるため、資金調達面で優位性があり、大規模な成長プログラムを追求することができます。一方、実物インフラは資源に制約があります。
ESGの考慮も上場インフラ株式において不可欠
機関投資家の関心が高まっている分野であるESG投資の観点からももうひとつ誤解があります。誤解の中心にあるのは、一部の投資家はESGの考慮を非上場ポートフォリオに統合することがより有効と考えていると思われるという事実です。
その理由は、実物インフラ投資において、クリーン・エネルギーや持続可能な燃料への移行に特化したオーダーメイドの戦略が多いためです。実物インフラの直接所有は、ESGに関して、より強い企業支配力と影響力を投資家に与えるという認識もあります。
そのような認識は誤解であると考えます。他の分野と同様に、上場証券を通じたESG投資は実物投資を補完します。実際、上場市場を通じたESG投資には優位性があると考えます。
実物資産の保有には、上場証券のような流動性、透明性、ガバナンス構造がありません。注目すべきは、上場市場の投資家は、議決権行使を通じてベスト・プラクティスや経営戦略を形成することができるという点です。さらに、上場証券の所有者は、経営陣の方向性に反対する場合、保有株式を直ちに売却することができます。
上場市場は、届出が一般公開されるという性質上、メディアや監視団体、幅広い投資家による精査の対象にもなります。上場証券の所有者は、経営陣との直接対話から公開の意見表明や取締役選任への正式な反対まで、株主アクティビズムによるエンゲージメントを直ちに行うことができます。これはESGに関する戦略、ディスクロージャー、レーティングを改善するよう上場企業への圧力を強めます。
企業が長期的なリターンに関する投資家の見解に反対の立場をとる決定を下す場合、上場株式の所有者は、議決権を行使するとともに、遥かに容易に、かつ少ない摩擦と取引コストで保有株式を売却することができます。
上場インフラ株式の運用会社は、これまでも、そしてこれからも、資産配分に特定の価値観を反映させたいと考える顧客のために、ESGに配慮した投資オプションを生み出していくでしょう。ESGに重点を置く投資戦略を生み出すことは、実物市場に限られることではありません。
上場企業も変化する市場のファンダメンタルズに適応することができます。例えば、ミッドストリーム・エネルギー企業は、近年、脱炭素化のトレンドと取り組みを活用するため、200億ドル以上の資金を投資してきました。
運用マネージャー選定の重要性
最後に、当社の分析によると、運用マネージャーの選定は重要です。上場インフラ株式と実物インフラの両方で運用マネージャーによってリターンにばらつきがありますが、実物インフラの方がベストとワーストの運用マネージャー間の格差が開いています。正しいマネージャーを選定した場合のリターンは高いものの、マネージャーの選定に失敗した場合の損失は、特に実物ファンドで大きくなります(図11)。上場インフラ株式では運用マネージャー選定によるリターンのばらつきの幅が小さく、これは以下の理由によるものと思われます。(1) 実物インフラ・ファンドが、よりオーダーメイドでニッチ、かつ投資対象を絞ったアロケーション(輸送や再生可能エネルギーなど)を提供する一方で、上場インフラ株式運用では、インフラ資産に対してより一律な分散アプローチ(ベータ効果など)を採用する傾向があるという事実。(2) 多くの実物インフラ・ファンドに内在する大型資産への集中リスク。
足もとの投資環境において、インフラ資産は引き続き魅力的な投資機会を提供すると当社は考えています。上場インフラ株式と実物インフラの投資ユニバースは、類似した(潜在的に補完的な)リターン特性と本来的な事業特性を有していることから、投資家は上場市場と実物市場の両方を通じて、インフラ資産へのエクスポージャーを持つべきであると考えます。
図11
運用マネージャー選定の重要性は上場インフラ株式において低い
四分位内のばらつき(75-25パーセンタイル)
機関投資家の上場インフラ株式への配分方法
投資家は、特にインフレ率が高止まりすると予想されることを踏まえて、上場インフラ株式への配分を増やす中で、実物インフラと上場インフラ株式を補完的に利用しています。投資家は、両者を利用して、その目的に応じたオーダーメイドのポートフォリオを構築しています(下表を参照)。
機関投資家が上場インフラ株式の利用を拡大してきた中で、投資家の様々な目的に応じて多様なオーダーメイドの戦略が実行されています。これらの戦略として以下が挙げられます。
機関投資家が実物市場と上場市場の両方を活用して、インフラ・ポートフォリオを最適化し、リスク、リターン、手数料、流動性、投資期間、資産エクスポージャーに関する選好に応じてオーダーメイドのポートフォリオを構築する機会をますます捉えているという事実には胸が躍ります。しかし、これは、極めて少数の機関投資家が投資対象を実物市場のみに限定している広範な株式投資における長年の一般的な慣行をインフラ投資においても反映しているに過ぎないという点は指摘したいと思います。
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