米税制改革法案("Tax Cuts and Jobs Act")の成立により、今後10年間にわたり1.5兆米ドルの減税を行うことになり、既に健全な経済をさらに刺激し、総じてリートやその他実物資産投資の租税効率を向上させます。本稿では、米税制改革による米国の法人及び個人への影響について説明します。
(a) リート:不動産投資信託 (b) EBITDA:利払前・税引前・減価償却前利益 (c) EBIT:利払前・税引前利益 (d) MLP:マスター・リミテッド・パートナーシップ (e) RIC:規制投資会社
経済への影響
国際競争力の向上による長期的な恩恵:法人税の税率を21%に引き下げることによって、米国の税率は主要先進国のなかで最高水準から中間レンジに下がり、米国の国際競争力を向上させます。競争力の向上は米国における事業拡大を促し、企業が成長し、雇用を増やし、新たなビジネス・チャンスを追い求めるように後押しすると思われます。
小幅だが即効性のある刺激効果:企業と消費者は、2018年に国内総生産の1%に相当する2,000億米ドルの追加資金を手元に保持することになります。この資金は相対的に迅速に経済に流れ込む可能性があります。多くの労働者は源泉徴収税額が減少するため給与の手取額が直ちに増加し、それが消費の拡大を促す可能性があるからです。個人消費は米国経済の約70%を占めるため、消費のわずかな増加であっても、世界経済成長に連動する形で、米国景気拡大を一段と後押しする可能性があります。
健全な経済成長および低失業率の環境下での減税は、景気サイクル初期における減税より金額当たりの景気刺激効果が小さいと思われます。景気サイクル初期であれば、より大きな影響を与えることになったでしょう。税制改革は企業の設備投資のより大幅な拡大を促す一方、2018年の経済成長を0.3%加速させると見ます。コーヘン&スティアーズでは、2018年の米国の経済成長率をコンセンサスより高い2.7%と予想しています。
中小企業が雇用増加の鍵:中小企業は多くの場合、景気拡大期に新規雇用の大部分を占めますが、近年においては少し状況が異なっていました。いま税制改革が勢いを増すなか、中小企業の景況感が急速に高まったことに示されるように、中小企業の多くはパートナーシップや個人事業主に対する減税から著しい恩恵を受ける立場にあります。中小企業により有利な環境は、雇用増加と経済全体を押し上げる可能性があると考えています。
2017年12月15日現在。出所:全米独立企業連盟(NFIB)。 景況感はNFIBの中小企業楽観度指数を使用しています。同指数は、米国の中小企業に対する月次の景況感調査に基づきます。追加の開示事項については4ページをご覧ください。
市場はインフレ上昇に対して準備不足:食品とエネルギーを除くコア・インフレ率は、経済が改善しているにもかかわらず依然として低い水準にあります。多くのアナリストは今後2年間にわたり大きな変化を予想しておらず、それは成熟しつつある景気サイクルと財政刺激策の拡大に反すると考えます。すなわち、今後に起きうる緩やかなインフレ率の上昇でさえ、投資家が不意を突かれる可能性があります。既に過熱している経済をさらに刺激することは、特に海外の経済成長が加速している局面において、インフレ上昇の要因になります。実物資産、とりわけコモディティおよび資源株は、過去において、インフレ率の上昇局面や予想外に上昇する局面において堅調に推移しています。
金利上昇に向けて前進:景気拡大とインフレ上昇圧力は、FRBに市場予想を上回るペースでの利上げを正当化する根拠を与える可能性があります。これらの要因が合わさり、2018年に債券利回りを押し上げる可能性があります。コーヘン&スティアーズでは、2018年末時点における米国10年債利回りは、3.0%前後となると予想しています。
住宅市場に足かせ:基礎控除が2倍になることによって、項目別の控除をする米国の納税者が少なくなり、住宅を保有する税制上のインセンティブが低下すると予想されます。項目別の控除をする納税者の場合、新規ローンの最初の75万ドル(100万ドルから低下)に係る支払利息のみが控除対象となり、州・地方の固定資産税、所得税および売上税を併せた控除額に今や10万ドルの上限があります。金利上昇に伴い住宅ローン金利が上昇すると予想されるなか、税制上のインセンティブの低下は、特に高額物件市場や税率の高い国において、住宅価格を圧迫し、購買活動を先送りにする可能性があります。
リート
リートの配当に係る税率引き下げ:リートは税金をほとんど支払わないか、全く支払わないため、法人税の税率引き下げによる恩恵をあまり受けません。しかし、パススルー事業体の新たな所得控除はリートの配当所得に適用され、課税口座でリートを保有する米国の投資家には明白な利益をもたらします。従来、リートの配当1ドル当たり約60セントが通常の所得とみなされ、それ以外はキャピタル・ゲインや元本の払い戻しに分類されてきました。その配当所得には個人の限界税率(最上位の所得階層につき以前は39.6%)が適用されます。引き下げられた最高税率の37%とパススルー事業体の20%の所得控除を適用すると、高額所得者が支払う税率は29.6%となります。キャピタル・ゲインに係る税率は20%で変わらず、投資純益に係るメディケア・サーチャージも3.8%のままです。
規制投資会社(RIC)に関する法改正が必要:最終法案は、パススルー事業体の所得控除をRICに関する税法の規定に適用していません。その結果、米国籍オープンエンド型ファンドやクローズドエンド型ファンド、上場投資信託(ETF)、ユニット・インベストメント・トラストなどのRICを通じてリートを保有する米国の投資家は、リートの配当所得に20%の控除が認められません。
これは意図的なものではないと考えますが、変更するにはその他多くの問題を含む修正法案を必要とし、上院で60票の承認が必要です。業界団体である投資会社協会は、RICのリートを保有する投資家に控除を認める条項を修正法案に含めるように、議会に対するロビー活動を積極的に行う予定であり、この目的に対し超党派のサポートがあると考えています。法改正が行われない場合でも、RICファンドを保有する米国の投資家は、所得階層の引き下げによる低い税率を享受しますが、パススルー事業体の所得控除による追加の恩恵を受けられません。
税金の違いはわずかであり、米国議会が今から2018年末までの間に修正法案を承認すれば、問題になりません。さらに、リートに有利な環境と長期的に増加する税効果は、引き続きリートに対する投資家の関心を高めると考えられます。
景気拡大に伴うファンダメンタルズのさらなる強化:減税が経済成長を刺激し、より健全な企業顧客が設備投資を増やす可能性が高まるなか、リートは賃貸需要の増加と物件価格上昇の恩恵を受けると考えます。ホテルは出張や企業収益の改善に敏感で、最も直接的な恩恵を受ける業種の一つになると予想されます。オフィスも多くのテナントとなる企業が財務体質を強化し、成長意欲を高めることから、恩恵を受ける立場にあります。一方で、ヘルスケアやネット・リースなど相対的に景気感応度の低い不動産セクターは、金利上昇の可能性に直面している一方、ファンダメンタルズや成長率にそれほど恩恵は見られないと思われます。
住宅価格に対する逆風は賃貸住宅にプラスの影響:可処分所得の増加に加え、基礎控除の引き上げや住宅ローン利息と固定資産税の項目別控除に係る上限など、住宅保有へのインセンティブが低下するため、集合住宅や戸建住宅の賃貸需要は改善する可能性があると考えます。
即時償却は物件改修を促進しない可能性:一部のテナント企業は税制改革の結果として支出を加速させ、物件保有者に二次的な恩恵をもたらす可能性があります。例えば、通信塔リートは無線通信事業者による5G展開の加速による恩恵を受ける可能性があります。しかし、リート自体が物件改修の設備投資を加速させる可能性は低いと考えます。改修の判断は通常、税金によって左右されるより、賃貸需要、実現可能な収益率や市場競争環境によって決まるからです。
インフラ株とMLPs
MLPが受ける相対的な税効果の低下:法人税率の引き下げによってMLPが受ける税効果は、Cコープの形態をとるミッドストリーム企業と比べて小さいでしょう。また、MLPの分配金はほぼすべてが元本の払い戻しであり、所得として課税されない代わりに、投資家の取得原価を削減するため、パススルー事業体の20%の所得控除は、MLPを保有する大半の投資家にほとんど影響を与えないでしょう。
ミッドストリーム産業は、ジェネラル・パートナーとリミテッド・パートナーの間で外部運用の契約を結ぶ形態から、より簡素な形態に徐々に移行しており、多くの場合、Cコープの形態をとっています。法人税率の引き下げは、Cコープへ転換する魅力を高めると予想されます。この移行が加速することは、ミッドストリーム企業を保有する投資家にプラスの影響を与え、ミッドストリーム産業の自律性を高め、長期的にリターンの向上に資すると考えています。
Cコープ型ミッドストリーム・ファンドに関する税制改革:法人税率の引き下げのため、Cコープの形態をとるMLPファンドは、価格の上昇した持分に係る課税額が減少し、ファンドの純資産価値(NAV)から控除される金額を削減し、上昇相場においてリターンの足かせを和らげます。ただし、繰延税金資産から見込まれる利益が減少するため、下落相場における抵抗力は低下する可能性があります。加えて、Cコープ型ファンドは、損金算入できる利息と営業純損失の上限によってマイナスの影響を受けると思われます。トータル・リターンを重視する投資家の場合は、RICのミッドストリーム・ファンドは、相対的に税効果が高く、通常米国やカナダのミッドストリーム企業を含む幅広い投資ユニバースを有するため、引き続き一般的に優れた投資機会を提供していると考えます。
MLPを保有する米国以外の投資家は税負担が増大:新法は、売却損が生じた場合でも、米国以外の投資家によるMLP売却代金総額の10%を源泉徴収するようにブローカーに義務づけています。この源泉徴収は内国歳入庁(IRS)が新法の執行規則を策定するまで開始しませんが、外国人投資家、特に米国で納税申告を行う意思のない外国人投資家のMLPに対する関心を失わせる可能性があると予想されます。この新たな税負担を想定して、一部の米国以外の投資家はMLPを売却し、売却代金に源泉徴収税がかからないミッドストリームCコープを購入すると思われます。
貨物鉄道は税制改革にによる勝ち組の一つ:貨物鉄道会社はインフラ企業のなかで実効税率が最高水準であるため、減税によって利益が大幅に増加します。加えて、設備投資の全額費用化によって、鉄道会社は費用を全額償却し、税負担を一括で軽減することができます。こうした利点の多くは十分に認識されていますが、利益が実現するなかでさらに株価が上昇する余地があると見ています。
公益企業への影響は好悪混在:規制された公益企業は、通常、法人税の減税による利益を料金引き下げの形で顧客に還元するため、一般的に減税による利益があまり残りません。また、公益企業は過去において相対的に金利上昇の影響を受けやすく、FRBが利上げペースを速めるならば、圧力を受ける可能性があります。プラス面としては、公益企業は支払利息の損金算入に係る制限を免除されており、追加の減価償却から恩恵を受けると思われます。
コモディティ/天然資源株
エネルギー価格とエネルギー・サービス企業を下支え:石油は先進国の経済成長による影響を受けやすく、米国の景気拡大から恩恵を受ける可能性があります。石油輸出国機構(OPEC)が最近、減産合意の延長を決めたため、需要の改善が原油価格の下方リスクをさらに軽減し、エネルギー企業が長期的な投資判断を行う自信を強めると考えます。
金および穀物にマイナスの影響を与える可能性:景気拡大による金利上昇ペースが加速すれば、金やその他の貴金属に対する需要はマイナスの影響を受けると思われます。農業従事者が機器の性能を向上させるペースを速め、収穫率が上昇するならば、穀物価格は今後数年にわたり低下圧力を受ける可能性があります。
機器購入費用の償却が設備投資計画に影響する可能性は低い:石油や鉱業セクターが過去数年の厳しい低迷から抜け出すなか、企業は一般的に、減税ではなく需給要因に応じて、高リターンのプロジェクトにのみ投資するという規律を維持すると予想されます。多くの企業は減税を利用して株主への配当を増やすか、債務水準の高い企業の場合、債務の返済に充てると言及しています。
石油精製企業は勝ち組の可能性:世界全体の天然資源株ユニバースに含まれる多くの企業は米国以外の企業であり、景気拡大を通じて間接的にのみ減税の恩恵を受けます。直接的に恩恵を受けるのは、精製企業、開発・生産企業、鉄鋼・アルミニウム・メーカーおよび農業関連企業など、米国に多くの資産を保有している米国籍企業です。
バイオディーゼルの税額控除廃止:バイオディーゼル混合1ガロン当たり1ドルの税額控除は、新税法に含まれませんでした。税額控除がなければ、バイオディーゼルのマージンが悪化し、現在義務づけられている再生可能燃料基準を上回る需要を抑制する可能性があります。
次の政策:インフラ投資
税制改革が完了し、トランプ大統領は政策課題の次の優先事項として、インフラ投資法案の成立に目を向けることを示唆しています。インフラ投資は減税より大きな景気刺激効果が見込まれる一方、資産クラスとしてのインフラに対する投資家の関心も高まると考えます。
税制改革がお客様の投資に与え得る影響について追加のご質問等がありましたら、法務、税務または投資の専門家にご相談ください。
重要な開示事項
当資料は、情報提供を目的としたものであり、作成時のコーヘン&スティアーズ社の見解を反映しており、信頼できると考えられる情報源を元に作成しております。当資料中の記載内容及びデータの正確性を保証するものではありません。当資料中に記載されている見通しや見解はその実現性を保証するものではありません。当資料は投資の助言を目的としたものではなく、コーヘン&スティアーズ社や関連会社などにより提供される金融商品やサービスの営業用資料において、いかなる成果を保証するものではありません。
コーヘン&スティアーズ・ジャパン・エルエルシーは、金融商品取引業者として日本の金融庁及び関東財務局【関東財務局長(金商)第2857号】に登録しており、一般社団法人日本投資顧問業協会に加入しています。
コーヘン&スティアーズ・キャピタル・マネジメント・インクは、企業、公的機関、労働組合向けの年金制度や寄金、財団、投資信託会社などに資産運用サービスを提供する、投資顧問業の認可を受けている運用会社です。
Cohen & Steers UK Limitedは英国の金融行動監視機構(Financial Conduct Authority)より認可、及び監督を受けています。(登録番号458459)
コーヘン&スティアーズについて
コーヘン&スティアーズは専門性の高い資産クラスに特化したグローバルな資産運用会社です。1986年設立来、リートやインフラ株及び商品を含む実物資産運用におけるリーディング・カンパニーとして、お客様の資産運用に役立つ専門知識を深め、また日々革新の提唱に務めています。ニューヨークに本社、そしてロンドン、香港、東京及びシアトルに営業拠点を置き、世界中の様々な投資家にクライアント・サービスを提供しています。