ボラティリティの管理:
インフラ株式に対する見解
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概要
COVID-19の突然かつ深刻な経済的ショックは、原油価格の急落によって増幅され、信用市場をひっ迫させています。これは人々の予想よりも遥かに長く続き、金融状況ひっ迫のリスクを高め、財務体質の脆弱な企業に影響を及ぼす可能性があります。
基本シナリオは次のとおりです。a) 米国経済は、4-6月期に急激な収縮を経験した後、7-9月期に緩やかに回復、b) ユーロ圏と日本は年前半を通じて停滞またはマイナス成長、c) 中国は新規感染者数の減少を受けて再加速、d) 世界経済は景気後退に陥るが、経済活動が軌道に戻るなかで年後半に急回復。
このシナリオは、現在の自粛措置が5月いっぱいまでの継続、中央銀行の市場への流動性供給、および大規模な財政刺激策に依存します。これらの条件の1つ以上が欠ければ、より顕著な景気後退に陥る可能性があります。
要約
- 景気後退リスクが上場インフラ株式に与える影響。上場インフラ株式の年初来のパフォーマンスは、輸送セクターとミッドストリーム・セクターが現在の環境において特に軟調であることから、広範なグローバル株式市場をやや上回る状況に留まっています。上述の一部セクターの成長は、マイナスの影響を受け、財務体質が精査される可能性もあると予想しています。通信塔や公益事業など他のインフラ・セクターは、相対的に影響を受けづらいと考えられます。
- 2008年とは異なる。インフラ企業は、財務体質が健全化し、規制環境が改善しており、経営を外部に委託し、より大きなレバレッジをかけて成長を促進する企業が大幅に減少していることから、過去10年間にわたりリスクが著しく低下しています。
- ポートフォリオの現状。ポートフォリオでは、エネルギー関連および輸送関連の銘柄を早くから削減し、景気感応度が相対的に低い企業を選好することにより、リスクを低減しています。長引く経済活動の低下による影響を最も受けづらいと考えられる企業を重視して、キャッシュフローが相対的に予測しやすく、強固な財務体質を有する時価総額の大きい優良企業の保有比率を引き上げています。
景気後退リスクが上場インフラ株式に与える影響
空港:運行計画が世界中で調整されており、航空会社は、今後数カ月にわたり大幅な減収が予想されます。空港運営会社は、発着料、停留料および小売販売(通常、総収益の25-50%を占有)の減収が予想されます。一部の地域では、政府が空港に着陸料や空港使用料の引き下げを求めています。財務体質の強さと流動性は企業によって著しく異なり、メキシコの空港運営会社などは、レバレッジが低いもしくは余剰資金を保有している一方、その他(特に欧州)の企業は、レバレッジが比較的高水準にあります。
有料道路:渡航制限および活動の鈍化は、有料道路に直接影響を与えています。政府による政策は、短期的に特定の企業にとって更なる重しとなる可能性があります。例えば、中国の政府は、道路、橋およびトンネルの通行料を凍結しています。財務状況は国や企業によって異なり、通行量にかかる長期的にマイナスの影響に耐え得る企業に注目を置いています。
鉄道:貨物鉄道運行会社は、経済活動の低下のため、輸送量の減少に苦慮しています。一部の北米企業では、鉄道による原油輸送も減少する可能性があります。また、COVID-19の拡大を抑制するための封鎖措置も、日本などその他の地域において旅客鉄道の輸送量にも影響を与えています。しかし、貨物鉄道と旅客鉄道は、ともに現在の相対的に強固な財務体質と流動性によって下支えされていると考えられます。
ミッドストリーム・エネルギー:原油価格の急落は、生産者に減産を余儀なくさせ、ミッドストリーム・エネルギーの処理量および契約/カウンターパーティ・リスクに関わる懸念を高めています。コモディティ価格の下落は、油井の近くに資産を保有し、集積・処理を行うミッドストリーム・エネルギー企業に最も大きな影響を与えています。特に、抽出コストが一般的に高いパーミアン盆地周辺に資産を保有する企業は甚大な影響を受けています。
通信塔:通信塔は、在宅勤務・学習など自粛措置の実施に伴いデータ利用が急増するため、底堅い需要が続くと考えられます。しかし、通信塔運営会社は、短期的に無線通信事業者による設備投資の意思決定が遅れることから、多少の影響を受ける可能性があると考えられます。
公益事業:景気に関わりなく、人々は暖房やシャワー、照明、テレビなどを使い続けます。水道、電力およびガス会社は、いずれもそのサービスに対してかなり安定した需要による恩恵を享受すると考えられます。一部のガス・電力会社にとって、使用料の変更にタイムラグが見込まれることから、足元のコモディティ価格の下落は、短期的にプラスとなる可能性さえあるとみています。
2008年とは異なる
健全な実体経済と緩和政策。短期的には大きな経済的な混乱を予測していますが、この減速は、景気過熱や金融引き締め政策など通常の景気後退要因が引き金ではありません。2008年に講じられた追加緩和措置とは対照的に、各国の中央銀行と政府は、マイナス影響を食い止めるために大胆な金融・財政措置を推し進めています。例えば、米連邦準備制度理事会(FRB)は、FFレートをゼロに引き下げ、7,000億ドルの債券購入を公約し、翌日物貸出を円滑にするため、短期社債市場に流動性を供給する貸出制度を制定しています。その他各国の中央銀行は、信用市場の突然のひっ迫に対して同様に大規模な対抗措置を講じています。
債務の削減と財務体質の強化。多くのインフラ企業は、過去10年間にわたり財務体質を著しく強化しており、総じて低迷を乗り切ることができるとみています。例えば、欧州の公益企業は、世界金融危機後に自己資本の増強を強いられました。同様に、原油価格が2015-2016年に暴落した後、ミッドストリーム企業は、強化した財務体質を維持し、事業成長に必要な資金調達の資本市場への依存度を低下させることに重点を置く、新しい業務・財務モデルを採用しました。
経営を外部委託する投資事業体の減少。一部の上場インフラ企業は、経営機能を外部委託してきた結果として、利益相反やガバナンスの問題、事業拡大のために債務への過剰な依存がしばしば生じていました。現在、インフラの保有/運営会社は、株主とより利益が一致する形で経営を行っており、また、より効率的な資本配分を行っています。
ポートフォリオの現状
- 景気感応度の相対的に低いセクターに注目:概して、この数週間はより保守的なアプローチをとり、景気感応度の高いセクターの保有を減らしています。
- 通信インフラの強気テーマは健在:通信塔運営会社は、予測しやすいキャッシュフロー特性(テナントとの長期契約は通常、更新率が98-99%)、高い参入障壁および明確な成長見込みがあります。
- 公益企業を選別的に追加投資:公益企業を選別的に追加投資しています。特に、相対的に高い成長と魅力的な環境特性から恩恵を受ける水道セクターを選好しています。電力セクターの保有比率を引き上げたものの、規制・政治リスクがあり、相対バリュエーションの魅力が低いため、同セクターのアンダーウェイトを維持しています。また、ガス配給セクターのアンダーウェイトも維持していますが、日本のガス会社は、利用者に課せられる料金が規制されており、料金の見直しは定期的にしか行われないため、足元の原料コストの急落を受けて利益率が上昇する可能性も考えられ、短期的に投資機会を見出しています。
- ミッドストリーム・セクターは厳しい状況が続くものの、エネルギー貯蔵に潜在的な投資機会:エネルギー価格の下落が続けば、パイプライン顧客の財務内容と信用力を悪化させるという見通しに基づき、ミッドストリーム・セクターの保有比率を引き下げてきました。エネルギーの厳しい需給バランスは、OPECプラスの交渉決裂に加え、COVID-19を要因とする経済活動の鈍化に起因する需要急減により、さらに悪化しています。そのため、財務体質が強固かつ十分な流動性を有する時価総額の大きい複合型ミッドストリーム・エネルギー企業を選好しています。川下分野の企業(精製関連会社や貯蔵会社)は、低いエネルギー価格から恩恵を受け、物価に連動する契約を締結することができます。多くのシェール盆地における原油生産は、現在の価格では採算が合わないため、引き続きカウンターパーティ信用リスクを注視しており、流動性に問題があり、債務借り換えリスクがあると考えられる企業の保有を最小限に抑えています。
- 経済活動の鈍化が長期化する可能性に鑑み、輸送インフラに対して慎重なスタンス:欧州の空港については、ファンダメンタルズの悪化および航空旅行者の減少による財務への影響に基づき、アンダーウェイトを維持しています。貨物鉄道は魅力的な長期投資機会と考えていますが、貨物輸送量が継続的に減少するという最新の予想を踏まえ、アンダーウェイトに移行し、日本の旅客鉄道の保有も同様に削減しています。また、港湾セクターのアンダーウェイトは維持しています。
上場インフラ株式の投資家への示唆
長期にわたり、上場インフラ株式はポートフォリオに分散効果をもたらしており、過去において、特に厳しい経済環境下で底も堅く推移しつつ、株式と同程度のリターンを生み出しています。インフラ企業のサービスに対する需要は多くのセクターにおいて非弾力的で、キャッシュフローは相対的に予測しやすく、配当利回りは魅力的です。
過去において、契約に基づく収益および非弾力的需要は、2008年の世界金融危機時のように経済が大きく圧迫される局面においてさえ、インフラ企業の相対的に安定したキャッシュフロー成長に繋がっています。
過去の推移を見ると、これまでに6回起きた10%以上の市場調整後の回復局面において、上場インフラ株式の3カ月と6カ月の平均絶対リターンは、概して堅調でした(図3)。
現在は前例のない時期と理解しており、状況の変化に応じて、最新情報を提供してまいります。ご質問等がございましたら、担当者までご連絡ください。
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指数定義:
投資家は当資料に記載された指数に直接投資することはできません。指数の実績は手数料や諸経費等を控除したものではありません。ボラティリティやその他の特性が特定の投資とは異なるため、指数の比較には制約があります。
ダウ・ジョーンズ・ブルックフィールド・インフラストラクチャー指数は、浮動株調整後の時価総額加重指数であり、インフラ事業からキャッシュフローの70%以上を生み出している世界中の企業のパフォーマンスを計測しています。
FTSE先進国コア・インフラストラクチャー50/50指数は、先進国のインフラ株及びインフラ関連株の時価総額加重指数です。構成銘柄の組入比率は、以下の3つの広範な産業セクターに応じて半年毎に調整されます。公益事業:50%、輸送:50%、パイプライン、衛星、通信塔を含むその他のセクター:20%。
MSCIワールド指数(ネット)は、先進国の大型株及び中型株のパフォーマンスを配当に係る源泉税控除後で計測する浮動株調整後指数です。S&P500種指数は、米国株式市場の一般的なパフォーマンス指標として頻繁に利用される時価総額上位500銘柄の指数です。
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