今後10年間にわたり、第五世代(5G)のネットワーク技術を装備した無線通信の適用がほぼ全ての経済セクターに甚大な影響を与え、通信インフラに多大な投資が必要になると予想されます。特に通信塔およびデータセンターの保有・運営会社は、5G関連の支出拡大による恩恵を享受し、経済を次のデジタル時代に移行させる重要な資産を提供すると考えています。
5Gの概要および5Gが経済を変容させる理由
第4世代移動通信システム(4G)が導入されたことで、スマートフォンが高速でウェブにアクセスできるようになり、無線データ通信量に急速に増加しました(図1)。それに対応して、無線通信事業者は、ネットワークにかかる負荷を軽減し、消費者の需要を満たすため、継続的に設備更新のために投資を行っています。これらの無線通信事業者は、引き続き4Gの対象範囲を拡大し、改良を加えながらも、将来を見据えて、5G通信網の整備を通じて更なるデータ通信速度の向上やその他の強化を図っており、一部の都市では今年から5Gの先行導入を始めています。
5G技術は、既存の4G通信網と共に、実質的にタイムラグをなくし、電力消費を劇的に軽減しつつ、有線の光ファイバー接続と同等のスピードを提供します。初期の5G対応のスマートフォンは、2G世代のフィーチャー・フォンの270倍、現行モデルの約3倍のデータを消費すると予想されています(図2)。
2019年6月30日現在。出所:シスコVNIモバイル・ビジュアル・ネットワーキング指数2017-2022年(2019年2月公表)、アメリカン・タワー(2019年6月)、エリクソン・モビリティ・レポート(2019年6月)、端末当たり平均利用量および過去のトレンドから予測される無線通信端末の普及拡大に基づくコーヘン&スティアーズの推定。
図1:無線データ消費量は2年毎に倍増
米国の年間無線通信データ量、1カ月当たりエクサバイト
2019年6月30日現在。出所:シスコVNIモバイル・ビジュアル・ネットワーキング指数2017-2022年(2019年2月公表)、アメリカン・タワー(2019年6月)、エリクソン・モビリティ・レポート(2019年6月)、過去のトレンドに基づき、各端末の新バージョン投入に伴う需要の段階的な変化を想定したコーヘン&スティアーズの予測。
図2:5Gスマートフォンはフィーチャー・フォンの270倍のデータを利用
端末別データ利用量、1カ月当たりメガバイト
5G通信網の配備は、従来型の大型の通信塔への投資ばかりでなく、人口密度の高い地域において通信容量を提供するために設置される、スモールセルと呼ばれる小型の基地局への投資を拡大する必要があると考えています。これらの小型の基地局は大型の通信塔や、信号機や街路灯、屋上など既存の構造物に設置することが可能で、光ファイバー地下ケーブルを通じてローカルのデータセンターに接続されます。
これらの通信網が一旦配備されると、既に実現化しつつある全く新しい商業用途への道が開かれるでしょう。
(1) 2019年6月28日現在。出所:インテル、スタティスタ、コーヘン&スティアーズ。自動運転車は通常の1日当たり走行距離である90マイルごとに4TBのデータを生み出し、現行モデルのスマートフォンは通常の1カ月当たり4GBのデータを利用すると仮定しています。 (2)「5Gがいかに製造業を変容させるか」、Kottasová, Ivana、CNNビジネス、2019年3月22日。
5Gの利用例
経済競争が5Gの緊急性を高める
無線データ通信を通じたコネクティビティの拡大はこれまで国の経済成長に貢献しており、その重要性は5Gへの移行に伴い更に高まると予想しています。世界有数の監査法人でコンサルタント会社のデロイトは、5G技術の早期導入と開発を先行して行った国は、10年以上にわたり世界をリードするGDP成長率を享受する可能性があると予測しました(1)。特に中国は、この可能性を認識し、早期に支配的な地位を確立するため積極的に動いてきました。
2015年から2018年の間、中国は米国を240億米ドル上回る資金を5G対応インフラに投資し、35万カ所に個別の通信塔施設を建設しました。これは同期間に米国で建設された施設の10倍以上に上ります。中国は現行の5年計画の下、5G関連だけで総額4,000億米ドルの投資を記録しており、それは国内のインフラ需要を満たすためのみならず、標準必須特許の開発のためにも行われており、5Gが世界中に拡大するなかで、市場でのリーダーシップを強化する可能性があります。
米国における相対的な投資不足は、このギャップを埋めるために投資を加速させる必要性を生じさせており、さもなければ、より長期にわたり持続する経済的影響を受ける可能性があります。コンサルタント大手アクセンチュアの推定によれば、今後、米国の無線通信会社は5G通信網の構築に約2,750億米ドルを投資し、それが300万人の新規雇用を生み出し、5,000億米ドルの追加経済効果をもたらすと予想されます(2)。
5Gインフラ・リートへの投資
4G後期の環境におけるデータ利用の急増および5Gへの差し迫った需要は、今後10年間にわたり通信インフラの能力を拡大するために多大な投資を必要とする可能性が高いと見ています。これを背景に、通信塔業界は直接的に恩恵を受ける立場にあると考えており、米国の上場会社は市場において支配的地位を占めています。加えて、有線・無線の両方によるデータ通信量の急増は、データセンターに対する持続的な需要の原動力になると予想しています。
不動産投資信託(リート)の形態をとり、データセンターおよび通信塔を保有・運営する上場会社は、上場インフラ株および不動産株の両方の投資ユニバースに含まれます。それらの過去10年間にわたるセクター構成比率は、米国リート市場の幅広い変化を反映しており、伝統的な不動産セクターとは大きく異なる新しい不動産タイプの占める割合が上昇しています。最初のデータセンター・リートであるDigital Realty Trustは2004年に上場しており、American Towerは2012年にリートに転換した最初の通信塔運営会社です。今日、通信塔リートおよびデータセンター・リートは、約1.1兆米ドルに上る時価総額を有する米国リート市場のほぼ4分の1を占めています。(図3)。
一方、通信インフラ(通信塔運営会社のみ)は上場インフラ株市場の約8%を占めています(3)。
2019年6月30日現在。出所:Nareit、FTSE、ブルームバーグ、コーヘン&スティアーズ。(a) 2012年は通信塔運営会社が初めてリートに転換した年で、Nareitがインフラを独立したリート・セクターとして分類した年です。(b) FTSEグローバル・コア・インフラストラクチャー50/50指数の銘柄データは2015年3月の開始時点のデータです。指数定義および追加の開示事項については最終ページをご覧ください。
図3:セクター構成比率および時価総額
5Gの中核
通信塔はほぼ全ての無線通信接続のための物理的な基盤です。通信塔運営会社は通常、鉄塔または柱を保有し、多くの場合、下部に一区画の土地を有し、地下に未使用の光ファイバー・ケーブルを備えています。無線通信事業者は通信塔のスペースを賃貸し、送信装置やアンテナなどの機器を設置します。通信塔運営会社は、これらの従来型の通信塔(マクロタワーとして知られます)に加え、到達範囲の狭く高周波の5Gシグナルに対応したスモールセル基地局を保有する場合があります。
企業例
- American Tower:2012年にリートに転換、時価総額はSimon Property Groupを抜いて世界最大のリートに。
- Crown Castle International:2014年にリートに転換、全米に約4万基の通信塔および6万マイルの光ファイバー網を保有。米国最大のスモールセル通信網運営会社。
- SBA Communications:全米50州、カナダ国内および中南米において通信塔資産を保有、2016年にリートとして登録。
テナント
- 無線通信事業者(Verizon、AT&T、Sprint、T-Mobile)
- 政府機関(警察、救急医療サービス)
- ブロードバンド・データ・プロバイダー/ケーブルテレビ会社
供給障壁:通信塔事業への新規参入には、現地の土地利用規制を始め、主に2つの障壁が妨げになっています。物件価値の保護を目的とする「景観法」に基づき、地方自治体は従来から新規の通信塔に反対する傾向があります。そのため、無線通信事業者は多くの場合、土地利用規制を巡って引き起こされる対立を回避するため、既存の通信塔に機器を設置しています。次に、通信塔の顧客は定着する傾向があり、機器を通信塔運営会社間で移動させることは稀です。そのため、既存の通信塔運営会社が操業している市場において、新規市場参入者が狙える見込み顧客は多くありません。
キャッシュフロー特性:通信塔の賃貸借契約は通常、10年から始まり、その後は5-7年ごとに解約が可能です。テナントは契約終了時に98-99%の割合で更新する傾向があり、その結果、資産保有者に比較的安定したキャッシュフローをもたらしています。また、賃貸借契約は一般的に物価に連動して賃料を毎年調整するエスカレーション条項を定めています。これらの要素が組み合わさって、これまで通信塔運営会社の概して安定した収益獲得に寄与してきました。
成長の原動力:データ利用の増加は既存ネットワーク・インフラの向上を必要とし、通信塔業界の成長を押し上げます。ブロードバンド移動通信の対象範囲を未提供地域に拡大することによって、この傾向を加速することが可能です。また、既存ネットワークに送信機器を追加して高密度化することによって、高周波の5G信号の伝送を可能にすることも通信塔の成長要因となります。通信塔運営会社の収益成長には、主に賃料引き上げ、コロケーション(共同設置)、既存リース契約の変更の3要素があります。
無線通信事業者の統合が通信塔運営会社に与える影響:通信塔運営会社の株価はこれまで、無線通信事業者同士の統合計画が報道されると敏感に反応してきました。SprintとT-Mobileの合併案やそれを背景とした余剰通信塔の賃貸借解約によるシナジー効果が、通信塔運営会社のバリュエーションに影響を与え得るとの懸念を生じさせています。より長期的に見れば、5G通信網構築の緊急性に加え、合併提案を受けた相手方が全国的に(特にマクロタワーが構造上最も効果的に送受信を支援する農村地域において)対象範囲の拡大を加速するという約束によって、5Gへの投資が促進され、通信塔運営会社のファンダメンタルズを更に下支える可能性があると考えています。
仮想化社会を支える物件所有者
データセンターは、データ保管やクラウド接続に不可欠のネットワーク機器やサーバーを設置するために設計された何列ものラックを備えており、厳重に保護された倉庫です。これらの施設は、バックアップ発電機、産業用空調設備や取引先およびサービス・プロバイダーに繋がる光ファイバー接続など最先端技術の装備を提供します。
企業例
- CyrusOne:2012年に設立、世界中に45のデータセンターを保有。
- Digital Realty:米国および欧州に200以上のデータセンターを保有。
- Equinix:コロケーション・サービスの世界的リーダー、五大陸にわたる24カ国に200以上のデータセンターを保有。
テナント
- クラウド・サービス関連(Amazon、IBM、Microsoft、Oracle)
- インターネット関連(eBay、Facebook、Google、Netflix)
- 金融サービス関連(JPMorgan Chase、Morgan Stanley)
- 通信関連(AT&T、CenturyLink、NTTコミュニケーションズ)
供給障壁:データセンターの外部構造は単純で容易に建設できるものの、冷房設備、発電機や配線接続などコストのかかる複雑な内部のインフラには多額の初期投資費用を伴い、運営に専門知識を要することが高い参入障壁となっています。
出所:シスコ・グローバル・クラウド指数、2016-2021年、2018年更新。
クラウドの拡大
データセンターからエンドユーザーまでの通信量全体に占めるクラウド経由のデータ通信量の割合は、2016年の88%から2021年までに95%に上昇すると予想されます。
キャッシュフロー特性:データセンターの賃貸借契約は通常、床面積に加えて電力消費量を基準としており、多くの場合、毎年賃料を引き上げます。賃貸借契約はテナントの規模に応じて5-10年にわたる傾向があり、複雑さと移転コストのためテナントの定着率は高い水準となっています。これまでは新規開発がデータセンターのキャッシュフロー成長の主な原動力となっており、多くの場合、施設の一部は建設完了前にテナントに約束されています。
成長の原動力:データセンターの成長は、主に企業がクラウド・ベースのプラットフォームや他の取引先に接続するニーズに支えられています。テナントは多くの場合、コロケーションを通じてネットワーク・エコシステムを形成しており、それを利用するテナントの増加に伴い、データセンターの価値が高められる可能 性があります。5Gが普及するにつれて、テナントはより広い地域(エンドユーザーや光ファイバー・インフラに近接する地域)にデータ保管を分散しようとするため、その結果として生じるネットワーク効果の価値はますます高まる可能性があると考えています。
競争力のある立地に建つデータセンターの一例として、Equinixがマイアミで運営するデータセンターのNAP of the Americasは、未使用の光ファイバー地下ケーブルおよび海底ケーブルの上陸地点に沿った理想的な場所にあります。データセンターは600以上の共同設置企業、125のネットワーク、125のクラウド・サービス・プロバイダー、40のコンテンツ・デジタル・メディア会社を抱えており、それらの相互接続がテナントの事業ニーズを強化しています。このようなコロケーション・モデルは、時間の経過とともにデータセンターの標準的な差別化要因となる可能性があり、良好な立地条件というプレミアムがデータセンターの相対的に高いバリュエーションを正当化すると考えています。
投資家への示唆
通信インフラ関連企業は、今後数年にわたり5G構築への潜在的に多大な投資を背景に、投資家に魅力的な長期投資機会をもたらすと考えています。通信塔やデータセンターといったセクターは今や上場市場の相当部分を占めるまでに成長しており、情報経済に関連する投資可能な実物資産の進化を際立たせています。
不動産証券のポートフォリオにおいては、情報技術、物流または人口動態といった長期テーマによる影響が強まっており、リート市場を景気サイクルに影響されにくい資産クラスに転換させる可能性があると考えています。そのため、特に経済成長の不透明感を増す環境下では、リートはポートフォリオに分散効果をもたらす可能性が高まると見ています。
同様に、インフラ株式のポートフォリオのなかでは、通信塔およびデータセンターは、景気サイクルや金利などのマクロ経済要因に対して相対的に低い感応度を示しつつ、相対的に魅力的なキャッシュフロー成長特性を提供しています。そのため、これらのセクターは分散されたインフラ株式戦略において特に魅力的かつ重要な要素になると考えています。
上記の内容は、レポートの一部をまとめたものです。
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(1)「5G:10年間にわたりリードする可能性」、デロイト、2018年。 (2)「5Gは地方都市がスマート・シティになることをいかに支援できるか」、アクセンチュア、2017年1月。(3) 出所:コーヘン&スティアーズ、FTSE。
指数定義
投資家は当資料に記載された指数に直接投資することはできません。指数の実績は手数料や諸経費等を控除したものではありません。
米国リート:FTSE Nareitオール・エクイティ・リート指数は、総資産の50%以上が実物不動産を担保とするモーゲージ以外の適格不動産資産で構成され、かつ最低規模及び流動性の基準を満たす全ての税制適格リートを含みます。
グローバル・インフラ株::FTSEグローバル・コア・インフラストラクチャー50/50指数は、世界中のインフラ株及びインフラ関連株の時価総額加重指数です。構成銘柄の組入比率は、以下の3つの広範な産業セクターに応じて半年毎に調整されます。公益事業:50%、輸送:50%、パイプライン、衛星、通信塔を含むその他のセクター:20%。
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