商業用不動産に対する旺盛な需要と上場不動産会社の魅力的な価値が、この数四半期においてM&Aを活発化させています。継続する買収活動は当面、リートを後押しする可能性が高いと予想しています。
要旨
- 非上場ファンドからソブリン・ウェルス・ファンド(政府系投資ファンド)や上場会社に至る多様な投資家は、足元の株価に対して魅力的なプレミアムをつけた価格で上場リートを買収しています。
- 高い利回りや分散投資効果を求めて、非上場ファンドへの投資家の投資資金の流入が増大しており、上場不動産市場と現物不動産市場の間で生じている価値の乖離が、買収活動を促しています。
- リートの経営陣は、買収提案を促進しているバリュエーションの乖離を解消するための措置を講じる可能性があります。
非上場ファンドの資金流入
米国における不動産会社の合併・買収(M&A)活動が10年以上ぶりの高水準に達しているなか、欧州、オーストラリアおよびその他の市場でも買収案件が増加しています。保有物件の現物不動産市場における価値と比較して、リートが魅力的な価格で取引されていると見ており、リートを買収する非上場ファンドなどの投資家が増えています(図1)。
変化する買収の焦点:金融危機以降の景気回復局面では、投資家は主に業務の改善による収益拡大を期待して、破綻企業や経営不振企業を対象に買収してきました。しかし、景気回復とともに、物件の稼働率、賃料やキャッシュフローが改善するなか、買収しやすいターゲットがいなくなり、投資家は株主に株式の売却を促すために、より高い買収価格を提示せざるを得なくなりました。
現在、投資家は、経営改善や費用抑制を通じて強化されるコア型のポートフォリオの獲得や、管理が不十分で脆弱な立ち位置にある資産を立て直すことができるよりオボチュニスティックな戦略など幅広い機会を捉え、足元の価格に対して相当高いプレミアムを支払っています。最近の買収は、買収提案前の対象企業の株価に対して平均して21%のプレミアム価格で行われていますが、これは、新たな経営者の下でより多くの価値を買収先から引き出すことができるという信念に基づいています(a)。
2018年10月31日現在。 出所:ブルームバーグ、コーヘン&スティアーズ。
図1:上場不動産市場における最近のM&A活動
追加の開示事項については4ページをご覧ください。
(a)2018年10月31日までの12カ月間におけるすべての買収案件に関して、当初提案時の過去20日平均株価(終値)に対する平均プレミアム。
幅広い買収ターゲット:最近の買収は幅広いセクターおよび地域で生じています(図2)。
2018年10月31日現在。 出所:ブルームバーグ。
図2:過去12カ月以内に公表された主な買収案件
当資料中の過去のデータは、将来のいかなる成果を保証するものではありません。(a) 公表前の20日平均株価(終値)に対するプレミアム (b) 企業が売却を公表する前の20日平均株価(終値)に対するプレミアム追加の開示事項については本資料末尾をご覧ください。
M&Aを促す3つの要因
高まる需要:機関投資家の不動産に対する関心は、かつてないほど高まっていると見ています。29カ国の機関投資家を対象に行われた最近の調査によれば、不動産への資産配分目標は2017年の10.1%から今年には10.4%に上昇しており、来年は更に上昇すると予想されています。底堅い需要は、非上場ファンドが商業用不動産投資のために行う資金調達額の急増からも明らかです。市場調査会社のプレキンによれば、現在、非上場ファンドが不動産投資のために保有している待機資金は、2,940億米ドルと記録的な高水準に達しており(図3)、また、毎月新たな資金調達が行われています。
この「ドライ・パウダー(待機資金)」の積み上がりは、投資家のインカムやトータル・リターンへの追及、インフレ保護や分散投資へのニーズに大いに起因しています。投資家は上場リートにますます目を向けています。上場市場では、大規模に資金を投入することができ、保有資産の価値に対してディスカウント価格で取引されているリートを取得することができるからです。このような投資機会が存在する理由は何でしょうか。
2018年9月30日現在。 出所:プレキン。
図3:商業用不動産に投資する非上場ファンドの待機資金
待機資金(ドライ・パウダー)とは、非上場ファンドへの出資コミットメント額からジェネラル・パートナーが投資実行のために払込要求を行った金額を差し引いた金額をいいます。追加の開示事項については4ページをご覧ください。
足元の軟調なパフォーマンス:上場不動産市場は、過去において実物不動産市場を上回るパフォーマンスを収めてきましたが、米連邦準備制度理事会(FRB)が債券購入プログラムを縮小する計画を公表した2013年5月以降、実物不動産市場および広範な株式市場に対して出遅れています。量的緩和の終了が株式や債券よりも不動産に大きな影響を与える可能性があるという懸念を反映して、不動産証券は金利の動きや今後の金利見通しに対して異常に敏感になっており、リートを投資対象とする投資信託やETFからの資金流出に繋がっています。多くの場合、M&A活動は、リートの軟調なパフォーマンスを受けて、投資家が実物市場と上場市場との間における物件価格差に裁定機会を見出すことから生じています。
魅力的なNAV:不動産証券は保有する物件の純資産価値(NAV)に対してプレミアム価格またはディスカウント価格で取引されることがあります。現在、上場リート全体でNAVに対して5%のディスカウント価格で取引されています(図4)が、多くのリートはそれ以上の大幅なディスカウント価格で取引されています。これは、バリュエーションが過去平均と比べて上昇していると見受けられる市場においても、M&Aの機会があることを示唆しています。
2018年10月31日現在。 出所:コーヘン&スティアーズ。
図4:グローバル不動産証券のバリュエーション
地域別株価NAV倍率
純資産価値(NAV)は、企業の全資産の市場価値から負債を差し引いて計算しています。過去5年間のレンジは、コーヘン&スティアーズのバリュエーション基準を用いて計算しており、各月末のFTSE EPRA Nareit先進国不動産指数に基づきます。現在の数値は、コーヘン&スティアーズのバリュエーション基準を用いて計算しており、FTSE EPRA Nareit先進国不動産指数構成銘柄の97%に相当するコーヘン&スティアーズのユニバース構成銘柄に基づきます。インフラなどのセクターは、コーヘン&スティアーズのユニバースに含まれていますが、FTSE EPRA Nareit先進国不動産指数には含まれていません。指数定義及び追加情報については本資料末尾をご覧ください。
非上場ファンドによる買収におけるレバレッジの役割
非上場ファンドがレバレッジを利用することによって、上場リートの期待リターンを高められる可能性があることから、非上場ファンドにとって上場リートへの投資妙味がより一層増しています。最近上場リートを頻繁に買収している「コア・プラス」型非上場不動産ファンドは過去において、通常、資産を取得してから5~8年で売却し、その間は年率換算で8~11%の内部収益率(IRR)の獲得を目指してきました。非上場ファンドは、平均的な上場リートより高いレバレッジをとることによって、より高い資本収益率を創出することができ、それによって、株価に対して上場市場の投資家より高いプレミアムを支払いつつ、目標IRRの達成を期待することができます。また、非上場ファンドが上場リートをNAV以下の価格で買収できるならば、レバレッジによってリターンを更に強固にできる可能性があります。
投資家が上場リートをNAVと同程度またはNAV以下の価格で買収する機会があることが、上場市場と非上場市場の投資家による継続的な買収活動を促進しています。
M&Aが示唆するリートの価値
非上場ファンドが上場リートを高いプレミアム価格で買収していることは、現在のリートには保有する実物資産に裏付けられた投資価値があることを示唆しています。
景気サイクルの後期に突入するなか、不動産投資にコミットするために積み上がった多額な待機資金および豊富な買収機会は、上場リートのバリュエーションの下支えとなり、リート価格を実物不動産の価値に収束させる可能性があります。これがリートのキャッシュフロー成長率の改善と相まって、今後数年にわたりトータル・リターンを押し上げる可能性があります。一方で、上場市場と非上場市場の間でバリュエーションの乖離が持続するならば、リートの経営陣はこの乖離を解消するために、以下のような措置を講じる可能性があります。
- NAVに対するディスカウント価格で自社株買いを行う
- 保有物件をNAVまたはNAV以上の価格で売却して市場価値を実現し、その資金を再投資するか特別配当を支払う
- 企業全体を売却してNAVを完全に実現する
あまり一般的ではないものの、潜在力を引き出す強力な手段として、パフォーマンスが軟調なリートの経営幹部を入れ替えることも挙げられます。抵抗は避けられないものの、責任感のある取締役会は、長期的にパフォーマンスやバリュエーションの乖離を埋められなかった経営陣を入れ替えることが可能であり、実行する場合もあります。
アクティブ運用を通じた期待リターンの向上:様々な不動産セクターや地域に関する洞察を活用して、上場リートのアクティブ運用を行うファンド・マネージャーは、ファンダメンタルズが良好で、ディスカウント価格で取引されており、魅力的なリスク調整後リターンをもたらす可能性のある不動産証券を組み入れることによって、付加価値を生み出すことができます。こうした特性を有する企業は買収の対象になりやすいと見ています。
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指数定義:投資家は当資料に記載された指数に直接投資することはできません。指数の実績は手数料や諸経費等を控除したものではありません。FTSE EPRA Nareit先進国不動産指数は、時価総額加重トータル・リターン指数で、総売上高の50%以上が不動産関連事業から生じている先進国の企業で構成されています。
重要な開示事項
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