上場リートは、最近の軟調なパフォーマンスを受けてバリュエーションが低下し、過去平均と比べてディスカウント価格で取引されています。その結果、買収活動がこの数ヵ月で活発化しており、今リートへの配分の引き上げを検討する好機が訪れているとの見方を強めています。
ディスカウント価格で取引されるリート
長期的には、実物不動産市場における物件の評価価値に収束する形で、上場リートと実物不動産は連動する傾向があります。短期的には、上場リートは、保有する物件の推定実物資産価値から債務を控除した純資産価値(NAV)に対して、プレミアム価格またはディスカウント価格で取引されることがあります。
上場リートのパフォーマンスが過去数年にわたり実物不動産および広範な株式市場に劣後してきたことで、UBSの推定によれば、米国リート価格がNAVに対して7.6%のディスカウント価格で取引されており、ほとんどの物件タイプの価格が過去5年間のレンジの下限近くを推移しています。
2018年5月31日現在。出所:UBS。
図1:米国リート価格のNAVに対するプレミアム/ディスカウントの推移
当資料中の過去のデータは、将来のいかなる成果を保証するものではありません。
株価NAV倍率は、株価純資産倍率(PBR)に類似するリートのバリュエーション指標です。純資産(簿価)は原価に基づき、物件価格の上昇や下落を反映していないため、リートでは、すべての保有資産の市場価値から債務を控除したNAV(純資産価値)を用いて、保有する物件の価値を導き出します。
非上場ファンドが上場市場に進出
上場リートがこのようにディスカウント価格で取引されているにもかかわらず、非上場不動産ファンドには引き続き大量の投資資金が流入しており、潜在的な投資需要を生み出しています。現在、非上場ファンドの運用会社が不動産投資のために保有している待機資金は、2,660億米ドルと記録的な高水準に達しており、2018年も引き続き非上場ファンドによる活発な資金調達が続いています。金利上昇に対する懸念が(特に2018年初め以降)リート価格の重しとなっているため、非上場ファンドが持続的にディスカウント価格で取引されている企業をターゲットにして、買収活動を活発化させています。
2018年5月31日現在。出所:プレキン、コーヘン&スティアーズ。
図2:クローズド・エンド型非上場不動産ファンドの待機資金
2007~2018年
待機資金(ドライ・パウダー)とは、非上場不動産ファンドへの出資コミットメントのうち、投資実行のためジェネラル・パートナーが払込要求を行っていない資金をいいます。
2018年にリートの非上場化や買収活動が増加しています。
事例:
Brookfield Property Partnersは、ショッピング・モールを保有するGGP (NYSE: GGP)を、現金と株式交換によって148億米ドル相当で買収し、GGPを非上場化することで合意しました。Brookfieldの最終提案は、GGPの株価に対して大幅なプレミアムをつけたものではありませんでしたが、GGPは、保有する最優良物件でさえ価値が低下しているなかで、Brookfieldの提案は正当であると言及しています。
図3: GGP
株価(米ドル)、2018年年初来
産業施設リートのPrologis (NYSE : PLD)は、DCT Industrial Trust (NYSE: DCT)を、発表時の株価に対して16%のプレミアムをつけた84億米ドル相当で、全額株式交換によって買収すると公表しました。既に世界最大の産業施設リートであるPrologisは、この取引によってPrologisは更なる財務レバレッジをかけることなく、今後数年間にわたり増益が見込めると期待しています。また、この取引は、依然として強い需要がある産業施設の下限価格の上昇を示唆するものと見ています。
図4: DCT
株価(米ドル)、2018年年初来
Gramercy Property Trust (NYSE: GPT)は、Blackstoneによって株価に対して15%のプレミアムをつけた76億米ドル相当で買収され、非上場化することで合意に達したと公表しました。同社は様々なタイプの物件を保有しており、そのほとんどが産業施設です。保有資産の多くは必ずしも優良な立地条件を有するものではないものの、この買収は、電子商取引が拡大し、小売業のトレンドが変化するなかで、産業施設に対する需要が増大していることをさらに裏付けるものと見ています。
図5:GPT
株価(米ドル)、2018年年初来
LaSalle Hotel Properties (NYSE: LHO)は、競合するPebblebrook Hotel Trust (NYSE: PEB)から買収提案を受け、直ちに買収提案を正式に求めるプロセスを開始しました。このプロセスを通して、BlackstoneがLHOを48億米ドル相当で買収し、非上場化することで合意しました。提案前の3月後半から5月末までの間に、LHOの株価は40%程度上昇しました。Blackstoneの買収提案は、ホテル・セクターの相対的に強固なファンダメンタルズと底堅い資本市場を反映していると見ています。ホテルやその他の賃貸借期間の短い物件は、米国や米国外の経済成長による恩恵を享受できると考えています。
2018年5月31日現在。出所:ブルームバーグ。
図6: LHO
株価(米ドル)、2018年年初来
当資料中の過去のデータは、将来のいかなる成果を保証するものではありません。
2018年5月31日現在。出所:UBS、コーヘン&スティアーズ。
図7:米国リートのNAVに対するプレミアム/ディスカウント及びリターン
当資料中の過去のデータは、将来のいかなる成果を保証するものではありません。上記の期間はUBSの株価NAV倍率を用いた月末データに基づきます。指数定義及び追加の開示事項については4ページをご覧ください。
示唆
非上場ファンドが大量の待機資金を保有しているなか、ディスカウント価格で取引されているリートは、非上場化や資産売却、自社株買いなどによって、保有資産の価値を実現する経営努力を加速させると予想しています。さらに、リートは過去において、NAVに対してディスカウント価格まで下落した後の12ヵ月間で、魅力的なリターンを生み出しています。非上場ファンドが引き続き上場リートを買収対象にしており、その過程で株価を押し上げることから、リートは2018年後半から2019年にかけて、これまでと同様に良好なパフォーマンスが期待されます。
その他のリサーチを読む
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