ハイブリッド証券にとって金融危機以来の最悪の年に、このグローバル市場のあらゆる分野に投資価値があると見ています。10年物米国債利回りが3%を下回るなか、投資適格格付けのハイブリッド証券は平均利回りが6.1%と、ほとんどのハイブリッド証券発行体の健全なファンダメンタルズを背景に、過去の基準に照らして十分な対価を提供しています1。
ハイブリッド証券を今保有するべき3つの理由
1. リスクと対比して重要な価値:ハイブリッド証券市場全般にかかる価格低下圧力は総じて不当であり、長期投資家に優れた価値を創出していると考えています。
2. 高いインカム:ハイブリッド証券は投資適格債券のなかでも高いインカムを継続的に生み出している資産クラスの一つです。
3. 分散効果の見込み:ハイブリッド証券はハイ・イールド債市場とは著しく異なる特性を有し、投資家は高いインカムを維持しつつ、発行体や収益源の観点で幅広く分散させることが可能です。
2018年10-12月期に生じた市場の乱高下を見ると、投資家は経済の勢いが低下していると考えるかもしれません。経済成長や政治状況、米連邦準備制度理事会(FRB)の政策に関する懸念を受けて、投資家がリスクの高い資産を幅広く売却したことから、信用スプレッドは急速に拡大しています。
最近の下落は、2009年から毎年プラスのリターンをもたらしてきたハイブリッド証券の投資家を特に不安にさせています(図1)。今年は対照的に、ハイブリッド証券は高いインカムを生み出したものの、証券価格が8-10%下落していることから、トータル・リターンはマイナスになっています。注視すべき懸念材料はまだ残るものの、悪材料の多くは織り込み済みと考えています。すなわち、投資家が短期的なボラティリティを見過ごすことができる魅力的な投資機会があると言えます。
その理由を理解するために、ハイブリッド証券が下落した背景を探りましょう。
経済成長減速の見込み:米国企業の収益は、景気サイクル後期に講じられた異例の減税と規制緩和に押し上げられて、2018年に急加速しました。しかしながらその後、米中間の貿易戦争が過熱する様相を見せ、FRBが引き締めサイクル終盤の、より注視すべき段階に達しているなかで、これらの経済効果は薄れ始めています。より広範な世界経済の成長鈍化およびブレグジット(英国のEU離脱)など様々な政治状況の不透明感とともに、リスク資産は圧力を受けています。
ハイブリッド証券は、投資家のリスク許容度の低下による影響を特に受けており、信用スプレッドと劣後プレミアム(発行体が破産した場合に資産の回収がシニア債保有者の後になるリスクに対する追加利回り)の両方の拡大に対して敏感です。経済成長の減速が貸倒損失に影響する可能性があるなかで、ハイブリッド証券の多くの発行体が金融機関であるという事実も、ボラティリティを高める役割を果たしている可能性があります。
経済成長の鈍化は信用スプレッドの拡大を意味する可能性があるものの、必ずしも破産が急増するか、不良債権や不良投資資産がハイブリッド証券を発行している大手銀行や保険会社に重大な影響を与えることを意味するものではありません。これらの企業は長年にわたり増資を行っており、財務体質は金融危機前より遥かに健全であるため、市場環境が大きく悪化しても乗り切る態勢を有すると考えています。米国および欧州における銀行規制当局は、言うまでもなく、悲惨な経済シナリオを前提とする厳格なストレステストを用いて、両地域で評価対象となる各大手銀行に合格点を与えています。
より重大な疑問は、FRBがうまくソフトランディングを指揮し、経済が景気後退に陥る前に利上げを抑制することができるか否かでしょう。信用スプレッドが拡大し、FRBがバランスシートを縮小するなかで、金融状況は既にタイト化していることを考慮すると、FRBは経済が過熱するリスクを回避しつつ、3%または3%を下回る水準で利上げを停止する可能性があると考えています。
年末の需給圧力:ハイブリッド証券を巡る悲観心理は、ハイブリッド証券に多額の投資をしている上場ファンド(ETF)や投資信託からの大量の資金流出によって増幅されています。これらの解約の結果、額面25米ドルの個人投資家向けハイブリッド証券市場においても、無差別の売却が生じ、ハイブリッド証券の価格下落を加速しています。
資金流出の重要な要因は、ハイブリッド証券の年間リターンが10年ぶりのマイナスになるなかで、年末に近づき損失を計上する節税目的の売却にあると考えています。また、クレジット債特化型ではないファンドは、市場が堅調な局面で、ハイブリッド証券に一時的に投資する「訪問者」となり、高いインカムと歴史的に良好なトータル・リターンを捉えるものの、市場が軟調な局面では売却に転じる傾向があります。パフォーマンスを保護するため、またはバランスシートを良く見せるために、年末前に売却する場合があります。それと同時に、マーケット・メーカーは、年末にリスクを抑える傾向があり、多くの場合、流動性が低下するなかで価格の動きを増幅させます。これらの行動は、年が改まることが要因となり、1月1日からは一部の圧力が緩和される可能性があると考えられます。
ブレグジットを巡る不透明感:ブレグジットの期限である2019年3月29日が迫るなか、英国内の緊迫した政治状況は、英国議会が欧州連合(EU)との離脱合意案を承認するか否かについてに関する不透明感を高めています。その結果は経済に重大な影響を及ぼす可能性があり、多くの投資家はかなり流動的な状況のなかで警戒姿勢をとっています。
市場は目先、不安定な状態が続くと予想しています。しかし、多くの優良な欧州企業が発行したハイブリッド証券は、可能性が非常に低いと考えられる悲惨なシナリオを反映して、現在の利回りが7-9%です。英国と欧州の大手銀行は、金融危機後に厳格化された規制に応じて資本を増強しており、ハード・ブレグジット(合意なき離脱)でも悲惨な結果にはならないと見ています。
企業固有の問題:GEのシニア債格付けがシングルAに引き下げられたことや、カリフォルニアの山火事が一部の公益企業に与える影響に関する懸念は、ハイブリッド証券市場をさらに押し下げました。これらはアクティブ運用を必要とする複雑な状況ですが、こうした状況において非常に魅力的と考える選別的な投資機会を見出しています。
ハイブリッド証券を今保有するべき3つの理由
1. リスクと対比して重要な価値:ハイブリッド証券市場全般にわたる価格低下圧力は厳しく、総じて足元のリスク要因に基づき妥当と考える水準を上回っています。これはポートフォリオでリスクを増やしていることを意味するものではなく、むしろ、長期投資家に優れた価値があると見ています。信用スプレッドは今後数ヶ月にわたり不安定な状態が続くと予想しているため、ポートフォリオでは信用リスクに対してよりディフェンシブな姿勢を維持しています("クーポンのリセットが信用リスクの管理に重要な理由"コラムを参照)。
しかし、経済成長が著しい後退やそれが破産の大幅な増加に繋がらない限りは、現在のスプレッドは優れた価値を表すと考えています。
貿易問題やFRBの政策、その他ブレグジットなどの政治的イベントが目先の市場心理に大きな影響を与える可能性があるため、ボラティリティを高める要因は2019年も続く可能性があると見ています。しかし、2019年を通じて、企業の強固なファンダメンタルズを背景に、価格は幾分回復する可能性が高いと考えています。また、経済成長の鈍化を原因として米国債利回りが低水準にとどまるならば、インカムを追求する投資家を再びハイブリッド証券に惹きつける可能性があります。1990年に遡って見ると、ハイブリッド証券のリターンが2年連続でマイナスとなったのは、金融危機が生じた2007~2008年の時だけです。この一貫した実績はもっぱらハイブリッド証券の高水準且つ安定したインカムに起因すると考えています。
2. 高いインカム水準:欧州の投資適格未満の証券は7-9%の利回りを有する一方で、投資適格格付けの証券のみで構成されるハイブリッド証券指数の利回りは6.1%です。図3に示す通り、ハイブリッド証券のインカムは他の投資適格格付けの債券クラスと比較しても魅力的な水準にあると見ています。2018年12月11日時点で米国10年債利回りが2.9%であり、ハイブリッド証券は図2に示す通り323ベーシスポイントのスプレッドを有し、過去の平均値、特に金融危機前の平均値の225ベーシスポイントに比べ高い水準です。
3. 他の債券セクターとの分散効果:ハイブリッド証券は、高インカムという特徴があるため、ハイ・イールド債としばしば比較されるものの、違いがかなり多いことを投資家は認識するべきです。ハイ・イールド債市場は、エネルギーや基本素材などシクリカル(景気敏感)セクターへの集中度が高い傾向があります。対照的にハイブリッド証券は、通常、公益事業やリートなど、厳格な規制を受ける業種や相対的に安定したキャッシュフローを特徴とするセクターの企業によって発行されます。ハイ・イールド債は、投資家に対して、高いレバレッジや景気敏感度、小規模な営業基盤、短い営業実績などを埋め合わせる傾向がある一方、ハイブリッド証券は、一般的に投資適格格付けの発行体のなかで劣後性や配当リスクを埋め合わせます。
クーポンのリセットが信用リスクの管理に重要な理由
信用が悪化する環境下、ハイブリッド証券のクーポンがリセットされる構造は、多くの場合、信用リスク感応度を判断する上で重要な役割を果たします。
多くのハイブリッド証券は、通常、5~10年の一定期間経過後に、クーポンがLIBOR+400ベーシスポイントなど、指標金利に所定のスプレッドを加えた固定金利にリセットされる構造で発行されます。信用スプレッドの拡大に対抗する1つの方法は、新規発行に係る典型的なリセット金利より遥かに高いスプレッドでリセットされる証券を保有することです。
リセットされるスプレッドが十分に高ければ、証券がリセット時に償還されるため、リセット時までの利回りに基づく価格で取引される可能性が高いと合理的に想定することができます。リセット金利が低い場合、足元の利回りがリセット金利を超える前に信用スプレッドが拡大する余地が小さく、証券が償還される可能性は低下します。最終的に、市場は永続的に低い利回りを価格に織り込み始め、利回りを高めるために価格を押し下げる可能性があります。
信用スプレッドの変動が2019年初頭まで続くという予想に基づき、ポートフォリオでは、通常、類似する新発債に見られるスプレッドより遥かに拡大したスプレッド(400~600ベーシスポイント)にリセットされる証券を選好しています。この場合、スプレッドがさらに若干拡大しても、市場はまだ当該証券がリセット時に償還されると予想するため、証券価格を保護することに役立つ可能性があります。
まとめ
ハイブリッド証券市場における最近のボラティリティは、ハイブリッド証券が概ね投資適格格付けにもかかわらず、リスクがないわけではなく、価格が大きく乱高下する可能性があることを痛感させられます。しかし、短期的な変動は必ずしもファンダメンタルズの状態を正確に反映しない可能性があります。これが総じて現在の状況に当てはまると考えています。
現在の価格に織り込まれている相当程度のリスクに加え、高い利回りと分散効果を考慮すると、ハイブリッド証券は2019年に堅調に推移する位置づけにあると考えています。
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(1)2018年12月11日現在。出所:ICE BofAメリルリンチ。追加の開示事項については下記をご覧ください。
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