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リートに対する見解
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概要
2カ月前までは中国国内に限定されると見られた新型コロナウイルス感染症の流行が、今や米国やその他多くの国・地域にわたり一般市民の日常生活に影響を与えています。経済への突然かつ深刻なショックは、原油価格の急落によって増幅され、クレジット市場をひっ迫させています。
このような状況は、人々の予想よりも長く続き、金融情勢のひっ迫のリスクを高め、財務体質の弱い企業に影響を及ぼす可能性があります。
基本シナリオとして、米国経済は4-6月期に急速に縮小し、年後半にはいずれ回復すると予想しています。このシナリオは、現在の自粛措置が5月いっぱいまで続き、米連邦準備制度理事会(FRB)の市場への流動性供給、および大規模な財政刺激策に依存します。これらの条件の1つ以上が欠ければ、より著しい景気後退に陥る可能性があります。
要旨
- 景気後退リスクがリートに与える影響。市場が2月19日にピークをつけて以来、リートのパフォーマンスは、信用収縮リスクに対する懸念の高まりや不動産需要の急激な落ち込みに対する見方の広がりを背景に、広範な株式市場に劣後しています。一方、特に財務体質の強固なリートや混乱による影響が相対的に少ない不動産セクターは、概してアウトパフォームしています。
- 2008年とは異なる。現在のリートの負債比率は過去最低に近い水準にあり、財務体質が著しく強化されています。債務の満期が分散されているため、信用スプレッドが拡大している時期に借り換えを行う必要性は限定的です。また、世界各国の中央銀行は、金融システムを支えるために断固たる措置を講じ、金利の引き下げや流動性を供給しています。
- ポートフォリオの現状。ホテルや娯楽施設など景気感応度の高いセクターの比率を削減し、商業施設に対しても慎重な姿勢を維持しています。引き続き集合住宅や戸建住宅、テクノロジーおよび優位な位置づけにあるヘルスケア・リートを選好しています。
景気後退リスクがリートに与える影響
リートがディフェンシブ性を発揮できていない理由。賃貸借契約に基づく比較的安定的なキャッシュフローおよび強固な財務体質にもかかわらず、リートのパフォーマンスは、主に信用収縮リスクおよび不動産ファンダメンタルズの急激な悪化に対する懸念といった2つの要因を背景に、広範な株式市場に対して劣後しています。
リートは、旅行、観光、商業施設、高齢者住居、レストラン、ビジネス・イベントなど、ウイルスの感染拡大を抑えるための施策による直接的な影響を受けている多くの業種にスペースを提供しています。その結果、一部の物件保有者においては、利用が減少し、長期賃貸借契約にもかかわらず賃料の支払い遅延に見舞われるとの懸念が台頭しています。しかし、多くの不動産タイプ、特に住宅、データセンターおよび通信塔セクターは、混乱による影響は限定的であると想定されます。
ホテルおよび娯楽施設は最も困難な状況。企業は不要不急の出張をすべて停止し、今年前半に予定されていた大型会合は中止されており、多くのレストランは閉鎖するか、営業時間や座席数を制限しています。このように不透明感が高まるなか、ホテルを運営する企業は、もはや業績見通しを示すことが困難な状況にあります。
高齢者住居のファンダメンタルズは悪化の恐れ。これらの施設は、リスクが相対的に高い高齢者が入居しており、まさにその性質上、COVID-19に対して最も脆弱なセクターの一つです。米国の高齢者住居は、COVID-19による死亡率の上昇と隔離の増加による影響を受け、新たな入居を規制し、需要を鈍化させる可能性があります。
商業施設のテナントは危機前から低迷。多くの全国規模および地域型の商業施設は、一時的に店舗を閉鎖するか、営業時間を短縮しており、モール保有者が既に直面している供給過多、オンライン・ショッピングへの移行、デパート型ビジネス・モデルの構造的な悪化に加え、さらなる逆風に晒されています。現在の危機は、eコマースへの移行を加速させ、永続的な影響をもたらす可能性があります。ショッピング・センターについては、食料品店、薬局およびディスカウント・ストアは概ね営業を継続しており、ビジネスが拡大していることから、影響はそれほど深刻ではありません。
オフィスの賃貸借契約は鈍化。米国内の多くのオフィスは、企業が事業継続計画を発動していることから、現場の人員を最小限またはゼロにして営業しています。既存契約への影響は限定的であると考えられますが、新規の賃貸借契約は鈍化すると予想しています。足元の混乱は、一般的に中小企業を対象とし、賃貸借契約期間が遥かに短いコワーキングに重大なマイナスの影響を与える可能性があります。
ネット・リースがディフェンシブ性を発揮できない可能性。大半のネット・リース会社は、投資適格および非投資適格の格付を有するテナントに対する長期賃貸借契約に基づき、一棟貸のビルを保有しています。大半のテナント企業は、医療関連、オフィスや産業施設であるため、現在の危機による影響を概ね受けていませんが、レストラン、劇場、娯楽施設またはイベント会場など一般大衆が多く集まる事業は、売上損失の恐れがあり、リスクにさらされています。
住宅はより必要不可欠に。賃貸住宅は、相対的に健全で、経済が重大な失業率の上昇を伴う長期不況に陥らない限り、現在の危機から最も影響を受けづらいセクターであると考えられます。同様に、貸倉庫は短期的に影響を受けにくいと予想しています。
データセンターと通信塔は隔離環境においても外部との接続を提供。これらのセクターのリートは、企業のIT設備投資に関する意思決定の遅れからある程度影響を受ける可能性があります。しかし、在宅勤務、動画ストリーミング、オンライン・ショッピングなど在宅活動の増加は、データ・ストレージおよび処理能力の拡大に対する需要を直接促すと考えられます。
宅配のための物流施設。産業施設リートへの影響は様々で、貿易と生産の削減およびサプライチェーンの断絶に直面している一方、eコマースに関する物流能力の増強に対するニーズは増しています。
ヘルスケア(高齢者住居を除く)は低リスク。病院および医療オフィスビルは、危機を通じて強い需要が続くと考えられます。さらに、長期にわたる賃貸借契約期間は、短期的な景気変動による影響を大いに和らげることができると思われます。
2008年とは異なる
経済への深刻な打撃とクレジット市場のひっ迫は、一部の投資家に2008年を思い起こさせるかもしれませんが、当時とは異なり、現在のリートはかつてに比べ遥かに強固であると考える要因がいくつかあります。
リートの財務体質は概してかつてないほど強固。金融危機以降、多くのリートは、過去10年間にわたり財務体質を強化し、自己資本を調達して債務を返済しました。リートの平均負債比率は、2008年の63%と比べると、現在は過去最低水準に近い32%です(図2)。このため、企業は今回の嵐を乗り切ることができる強固な態勢にあると考えています。しかし、積極的な設備投資および外部成長機会(買収)は、状況が改善するまでは限定的となるでしょう。
債務満期の分散。世界金融危機時とは異なり、リートは債務の満期を適切に分散させており、2021年までに満期を迎える負債は総じて限られています。キャッシュフローが途絶する一部のセクター(商業施設、ホテル、娯楽施設)では、コベナンツ条項に抵触する可能性があり、その他のセクターでは、貸し手に一時的に制限の緩和を求める必要に迫られる可能性もあります。しかし、大半のセクターは十分な流動性を有すと考えています。
リートは低コストでの資金調達が可能。健全な財務体質および優良な物件とテナントを背景に、歴史的低水準にある資金調達コストは、リートに有利に働くと考えられます(図3)。
リート市場は景気感応度の高いセクターの構成比率が低下。過去10年間にわたる通信塔、データセンター、非伝統的な住居など新しい物件タイプの出現は、投資家に対して、データ・インフラに対する需要や5G無線ネットワークの登場などの構造的なテーマによってもたらされた従来とは異なる投資機会を提供してきました。そのため、現在の米国リート市場は構造的に景気感応度が低下しています(図4)。
中央銀行は断固たる措置を実施。2008年に講じられた追加緩和措置とは対照的に、FRBは、広がる危機に迅速に対応して、政策金利をゼロに引き下げ、7,000億ドルの債券購入を公約し、翌日物貸出を円滑にするため、短期社債市場に流動性を供給する貸付制度を制定しています。その他各国の中央銀行は、クレジット市場の突然のひっ迫に対して同様に大規模な対抗措置を講じています。
ポートフォリオの現状
相当程度の悲観的なニュースが織り込まれつつあるなか、すべてのポジションをディフェンシブな姿勢に移行することが妥当とは考えていません。しかし、低成長予想および急速に変化する相対バリュエーションを踏まえ、ポートフォリオを慎重に調整しています。
引き続き選好するセクター:
- 集合住宅:賃貸は多くの場合において、住宅購入よりも手頃な選択肢であることから、転居率の低下、安定した賃料と入居率を予想しています。
- 貸倉庫:これらの企業は、人々の生活の変化が需要を牽引し、景気感応度も低いことから、安定したキャッシュフローと強固な財務体質を有する傾向があります。
- ヘルスケア(選別的):病院と医療オフィスビルについては、必要不可欠なサービスを提供し、強い需要があると考えられることから、強気の見通しです。高度看護施設および軽度介護施設の保有・運営するリートを限定的に保有するスタンスです。
- テクノロジー・リート:データセンターは、足元の景気減速の影響をやや受けているものの、今後にわたり強い需要が続くと予想され、バリュエーションは妥当と見受けられます。通信塔は、バリュエーションがやや割高になってきているものの、引き続き長期的な成長が見込まれると考えています。
見方を変更しているセクター:
- 産業施設の削減:割高な相対バリュエーションおよび貿易途絶によるマイナス影響は、物流施設に対する長期的に強い需要を上回るとみています。
- ホテルおよび娯楽施設の削減:2020年に入り、2019年の軟調なパフォーマンスを受けた魅力的なバリュエーションに基づき、ホテルについて強気としていました。一方、現在は同セクターは今後しばらく重大な課題に直面すると考えています。
リスクが依然として残るセクター:
- 商業施設:同セクター内では、財務体質が極めて強固で、市場において強い立場にある企業を厳選し僅かに保有しています。
リートの投資家への示唆
この危機を辛抱強く乗り超えようとしている投資家にとって、リートの強固な財務体質、魅力的な配当および足元の割安なバリュエーションは、この危機の初期に軟調に推移した後に、同資産クラスの魅力的な投資機会をサポートする土台となる可能性があります。
今後数カ月で新規感染者数がピークに達し、金融・財政政策が有効に流動性を供給し、全体の需要に対する打撃を和らげると仮定するならば、経済は、過去に例を見ない金融緩和の状況下で明らかな繰延需要を受けて、今回のショックから抜け出すと予想しています。そうなれば、金融市場は迅速に反応する可能性があると予想しています。
歴史的な観点から見ると、これまで6回起きた10%以上の市場調整からの回復局面において、リートは緩和的な金融環境と再び加速する需要の恩恵を受け、平均して広範な株式市場より迅速かつ強力に回復しています。
現在は前例のない時期と理解しています。状況の変化に応じて、最新情報を提供してまいります。ご質問等がございましたら、担当者までご連絡ください。
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指数定義:
投資家は当資料に記載された指数に直接投資することはできません。指数の実績は手数料や諸経費等を控除したものではありません。ボラティリティやその他の特性が特定の投資とは異なるため、指数の比較には制約があります。
S&P500種指数は、米国株式市場の一般的なパフォーマンス指標として頻繁に利用される時価総額上位500銘柄の指数です。
FTSE NAREITオール・エクイティ・リート指数は、総資産の50%以上が実物不動産を担保とするモーゲージ以外の適格不動産資産で構成され、かつ最低規模及び流動性の基準を満たす全ての税制適格リートを含みます。
ICE BofA米国不動産指数は、ICE BofA米国社債指数のうち、米国の国内市場で公募発行された米ドル建ての投資適格格付を有するすべての不動産社債のパフォーマンスを計測する指数です。
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