資本市場見通し

資本市場見通し

現在の投資環境は、世界金融危機後に投資家が慣れ親しんできたものとは大きく異なるレジーム(マクロ環境や投資の前提条件)を、引き続き反映しています。コロナ禍に生じた経済の歪み、地政学的な要因、サプライチェーンの再編、そして金融政策の大幅な転換によって引き起こされた変化は、一時的なものではなく、持続的なものであることが明らかになっています。この1年で見通しはより明確になった一方で、ある重要な事実が改めて浮き彫りになりました。それは、ゼロに近い金利水準、インフレ率の低い変動幅、そして恒常的に低い利回りからなる「かつての普通(old normal)」の世界は、少なくとも近い将来においては戻ってこないということです。その代わりに、現在は、インフレ率は以前より高い水準で推移し、マクロ環境の変動がより頻繁に起こり、世界金融危機後の長い景気拡大局面と比べて、資産クラスごとの期待リターンの差が縮小する世界へと移行しています。

当社の見通しは、安易な楽観に立つものではなく、建設的な評価に基づくものです。マクロ環境の構造的な変化は、これまで良好だった資産への依存よりも、規律を持ち将来を見据えたポートフォリオを有利にすると考えています。

当社の年次資本市場見通しでは、今後10年間の各市場における期待リターンの見通しを提示しています。昨年から変化しているのは、市場を取り巻くレジーム転換の方向性ではなく、その中身です。現在の経済成長は、テクノロジー分野を中心とした生産性の着実な改善や、インフラおよびエネルギー・システムへの継続的な投資を裏付けとして、より安定した基盤の上に形成されています。インフレ率はピークからは大きく低下したものの、過去の資本市場見通しで想定していた通り、依然として粘着性を示しています。その背景には、労働力不足が続いていることや、長年にわたるコモディティ分野への投資不足、そして脱グローバル化への移行といった構造的な要因があります。

同様に重要なのは、近年の金利正常化、地政学的な不確実性の高止まり、物的資源の制約、そして1990〜2019年期にかけてインフレを押し下げてきた構造要因の減衰といった、当社の長期的な見通しの前提となっている要因が今も変わらず続いている点です。実質金利は引き続き十分なプラス水準にあり、インフレリスクは下振れより上振れる可能性が高い状況が続いています。また、今後数年にかけて、市場の主役となる資産やセクターは入れ替わっていくと当社は考えています。

これまでも繰り返し指摘してきたように、投資家は「過去の勝者」を追いかける傾向があります。当社はこの行動を「FOMO(取り残されることへの恐怖)トラップ」と呼んでおり、乗り遅れることへの恐れから、直近の相場で成果を上げた資産に投資家が殺到してしまう心理を指しています。しかし、市場サイクルの実態を踏まえると、こうした行動には注意が必要です。というのも、市場で主役は、レジームが変われば入れ替わるからです。図1はこの点を明確に示しています。2000年代初頭には、不動産などのリアル・アセットや債券が高いリターンを示していました。しかし、その後の約15年間においては、株式やプライベート資産が市場を牽引してきました。

トータル・リターン(年率)

これまで高いリターンを上げてきた米国株式は、現在、バリュエーションが歴史的水準に近い高位にあります(図2)。しかし、その背景はとても複雑です。確かにテクノロジー主導の成長は実在していますが、資本コストの構造的な上昇に加え、依然として投入コストも高止まりしています。そのため、企業の利益率は今後拡大するより縮小する可能性が高いと考えています。

こうした背景を踏まえると、限られた分野に依存した米国株式市場から、より魅力的なバリュエーションを有し、分散効果の高い資産へのローテーションの意義は、2000年代初頭以来で最も高まっているといえます。その中で、リアル・アセットは特に有望な投資対象として位置づけられます。魅力的なバリュエーション、インフレとの強い連動性、供給制約のある分野における堅調なファンダメンタルズに加え、新たなレジームのテーマと整合的であることから、リアル・アセットは長期のポートフォリオにおいてより重要な役割を果たす可能性があります。インフラ株式および天然資源株式は中長期の投資サイクルと需給の引き締まりの恩恵を受けています。コモディティは、長年にわたり先行投資が行われなかった反動が期待されます。さらに、上場不動産は大きな調整を経たことで、期待リターンはよりバランスのとれた水準となり、利回りの改善も見られます。

図2
60/40 ポートフォリオの成長エンジンには失速の兆し

S&P 500 景気循環調整後株価収益率 vs 今後10年の実質リターン見通し

今後10年間に対する当社の見通しは建設的なものであり、過度に楽観視しているわけではありません。もっとも、リスクは依然として存在します。AI主導の生産性の向上が期待ほど進まない可能性や、逆に構造的に失業率が高まる結果を招く可能性もあります。また、供給面でのショックが再燃すれば、インフレが再び加速する恐れもあります。加えて、地政学的リスクの高まりにより、グローバルな貿易の流れが一段と混乱する可能性も否定できません。また、株式市場やプライベート市場におけるバリュエーションの調整が想定より早く進む可能性もあり、債券市場では、長期的な中立金利がより高い水準へ見直される、或いは、長らくタイトな状態が続いていたクレジットスプレッドが急速に拡大する可能性も考えられます。

それでもなお、現在のマクロ環境と市場の状況は過去10年以上で最も強力なローテーションの基盤を形成しています。将来の期待リターンは、モメンタムや指数上位銘柄への集中ではなく、出発点となるバリュエーション、キャッシュフロー、構造的な感応度(金利やインフレ、景気変動に対する体質的な影響の受けやすさ)によって左右される度合いが一段と高まっています。その結果、これからの10年はこれまでの10年とは本質的に異なる投資環境になると想定されます。投資家が懸念すべきは、前の10年を牽引した資産の再度の急伸を逃すことでは必ずしもありません。むしろ、当社がより大きなリスクと考えるのは、現在進行形で広がりつつある投資機会を見過ごしてしまうことです。

これからの10年は、指数上位銘柄への依存やモメンタムではなく、出発点となるバリュエーション、キャッシュフロー、そして構造的な要因がリターンを左右する中で、これからの10年はこれまでの10年とは大きく異なる展開となる可能性が高いと考えられます。

マクロ経済
Macroeconomics

今後10年間は、世界経済は緩やかであるものの、安定した成長を維持すると当社は予想しています。米国の実質GDP成長率は年平均2.1%、世界全体では年率3.6%程度で推移すると見込んでいます。また、生産性のトレンド成長率(一人当たりの生産性が長期的にどれだけ伸びるか)は1.8%と予測しており、前年の公表値から60bpsの上方修正となります。背景の一部には、AIの普及やデジタル・物理インフラへの継続的な投資があります。一方で、人口動態の悪化(労働力人口の成長率は前年推計から40bps低下し、年率0.3%を見込む)や、断続的に生じる供給面の制約が、こうした上昇分を相殺すると見られます。 

米国のインフレ率は、今後は年率平均3%程度で推移する見込みです。足元のピーク水準は下回るものの、前回の景気サイクルにおける平均1.6%を大きく上回り、FRBの長期インフレ目標をも大きく超える水準です。このような比較的高い水準のインフレ率は、労働市場や資材における構造的な供給制約や、世界貿易体制の分断化ならびに地政学的な摩擦を反映しています。


債券
Fixed income

金利は、過去10年と比べて相対的に高い水準で推移する可能性が高く、長期金利は、プラスの実質金利やインフレ期待の高まりを反映する局面が続くと見込まれます。2025年には、一時的に絶対利回りが低下したものの、金利の長期的な均衡水準は大きく上昇しており、過去10年間と比較して、投資家にとって長期債投資のリターンプロファイルはより魅力的になっています。 

米国債券は、年率4.2%と、従来予想の4.6%からは引き下げたものの、派手さはなくとも安定したリターンが見込まれます。クレジット資産については、良好な経済環境と企業のファンダメンタルズの恩恵を受けると考えられます。しかしながら、足元ではスプレッドがタイト化しており、また、景気循環に伴うボラティリティの高まりが想定されることから、リターンは主にインカム収益に依存し、価格上昇余地は限定的となるでしょう。


株式
Equities

米国株式の今後10年間のリターンは年率5.8%を見込んでおり、高水準のバリュエーション、トレンド成長率の鈍化、投入コストの上昇、そして構造的に高まった資本コストが上値を抑制する要因となっています。これに対し、米国以外の先進国株式では、より良好な投資機会があると考えており、相対的に魅力的なバリュエーションに加え、企業収益の成長には正常化の余地が残されていることから、期待リターンの見通しは前回予想と同水準の年率7%を維持しています。 

新興国株式は、地域やセクターによってファンダメンタルズのばらつきが大きいことから、引き続き選別的な投資機会となります。新興国株式の全体的なリターンの見通しは年率6.3%と、前年の予想と概ね同水準を維持しているものの、過去10年間の堅調なリターンを考慮すると、長期的な平均水準を下回る見通しです。


リアル・アセット
Real assets

単年の結果を過度に重視するべきではないものの、2025年は他の市場が堅調なリターンを示す局面においても、リアル・アセットが良好なパフォーマンスを発揮し得ることが改めて示された年となりました。2025年には、リアル・アセットの多くのカテゴリーが10%を超える上昇となり、現在においても、リアル・アセットは長期的に見て高い投資妙味を有する資産クラスです。

天然資源株式は年率8.5%のリターンが見込まれており、リアル・アセットの中でも最も高い期待リターンとなると予想しています。インフラ株式は7.9%、不動産株式は7.8%、コモディティは5.9%のリターンを見込んでおり、いずれも構造的な希少性、インフレ感応度、そして持続的な投資需要に支えられています。引き続きバリュエーションは魅力的な水準であり、ファンダメンタルズも堅調であるほか、伝統資産である広範な株式や債券との相関の低さが分散投資効果をもたらしています。


債券

2026年現在、過去15年超を振り返っても、債券は極めて魅力的な出発点を迎えています。長期にわたり、金融緩和の下で抑制されてきた利回りは、金融政策の正常化を受け、再び十分なインカムを創出する資産クラスへと回帰しています。今後10年間において、実質利回りの上昇とインフレ期待の安定に支えられ、米国債は年率で一桁台半ばのリターンをもたらす見込みです。利回りは、2023年〜2024年の高水準からはやや低下したものの、長期のフェア・バリューは依然としてコロナ前の水準を上回っており、前回のサイクルと比べて中立金利が構造的に高い水準となっていることを反映しています。

4.2% 米国債の10年間の年率期待リターン

社債市場は引き続き、健全なバランスシート、規律的な発行と良好な利払い余力の恩恵を受けています。一方で、クレジット市場全体に共通する最大の課題はバリュエーションです。スプレッドは依然として景気循環上で最も低い水準にあり、これは債券価格上昇の余地が限られていること、そしてマクロ経済的なショックに対する感応度が高まっていることを示唆しています。

投資適格債は年率4.8%と、前年の予想からはやや引き下げたものの、インカム主導の安定的なリターンが見込まれています。一方、ハイ・イールド債は年率平均5.8%のリターンが期待されるものの、スプレッドが低水準にあることに加え、デフォルト率が緩やかに上昇するとの見通しを踏まえ、前回予想をやや下回る水準としています。

ハイブリット証券は、高水準のインカムに加え、相対的に高い信用力、歴史的に低いデフォルト率を背景に、今後10年間において、債券の中で最も高いパフォーマンスが期待される資産になると考えています。ハイブリット証券の期待リターンは年率6.1%と、前回予想を据え置いています。

図3
スプレッドの縮小により価格上昇余地が限られる中、債券の見通しはインカムに左右される

年率期待リターンと過去10年間の年率リターンとの比較

株式

株式市場は10年以上にわたり力強いリターンを実現してきましたが、その多くは米国企業、特に一部の大手テック企業によって牽引されてきました。こうしたアウトパフォーマンスを支えてきた低金利環境、安定したインフレ、利益率の拡大、さらにはバリュエーション倍率の拡大といった要因は、今後も同様の規模で継続するとは考えていません。金利が構造的に高止まりし、インフレの変動性が高まる環境下では、企業収益の成長はこれまで以上に難しい局面に入るでしょう。

当社では、利益率の低下圧力、労働コストの上昇、そして資本コストの高止まりといった逆風の顕在化によって、米国株式のリターンは長期的な平均水準へと落ち着いていくと見ています。今後10年間の米国株式の期待リターンは、年率5.8%とし、前年の資本市場見通しから変更はありません。バリュエーションは依然として重要な懸念点です。利益成長が続く可能性はあるものの、現在の水準を踏まえると、バリュエーション倍率は今後、一定程度の調整局面に入る可能性が高いとみています。加えて、市場の集中度の高さも新たなリスク要因となっています。株式市場の成長を牽引する銘柄が、すでに将来の大幅な生産性向上を織り込んだ水準で評価されている、少数の企業に大きく依存しているためです。

米国以外の地域では、バリエーションがより魅力的であり、利益サイクルも過度に進んでいないことから、期待リターンとリスクのバランスは取りやすくなっていると考えています。米国以外の先進国株式は、年率平均7%と前年から据え置いており、これは出発点のバリュエーションが相対的に低いことに加え、資本財、素材、金融など、新たなレジームのテーマとの親和性が高いセクターへのエクスポージャーの恩恵を受けるためです。一方、新興国株式は選別が不可欠な投資対象であり、国・産業ごとの見極めが引き続き重要となります。年率平均6.3%というリターンの見通しは前年から変更ありません。

図4
PERの低下を背景に、米国の期待リターンは長期平均を下回る可能性

リアル・アセット

リアル・アセットは、構造的なマクロ経済の追い風に加え、魅力的なバリュエーションと高いインカム特性に支えられ、今後10年において最も魅力的な投資先の一つであると考えています。インフレの変動性や資源不足、そして地政学リスクが高止まりする環境下において、リアル・アセットは他の資産クラスでは代替しにくい分散投資効果を提供します。

上場不動産は調整局面を経て、利回りの水準が切りあがり、キャップレート・スプレッドも改善したことで、長期的な成長見通しに対する前提条件がより健全なものとなっています。高金利と厳格な信用環境を背景に、近年は新規供給が抑制されてきましたが、こうした状況が現在では需給の引き締まりを通じて、より強い価格決定力に繋がりつつあります。年率7.8%の期待リターンは、2025年の資本市場見通しから据え置いています。

インフラ株式の投資環境も同様に改善しており、期待リターンは7.6%から7.9%へ引き上げられました。インフラ株式は、AIや通信塔、データセンターなどのデジタルインフラ、交通インフラ、エネルギー・システムを重点分野とする、官民双方による中長期の投資サイクルが追い風となります。一般的に、インフラ株式はインフレに連動した価格決定力に加え、長期契約に裏付けられた安定的かつ長期のキャッシュフローを有している点が特徴です。

天然資源株式の期待リターンは、年率8.5%を見込んでおり、前年の想定からやや上方修正しています。背景には、資本規律の徹底や長年の投資不足によって供給が制約される一方で、金属やエネルギーへの需要が拡大している環境があります。こうした要因が中長期的に良好なファンダメンタルズを下支えしています。

図5
構造的な要因がリアル・アセットの相対的に優位なリターンを下支え

期待リターンと過去10年間のリターンの比較(年率)

コモディティは相対的に割高感あるバリュエーションからの出発となるため、今後10年間の期待リターンは年率5.9%と、主要なリアル・アセットの中では最も低い水準となっています。それでもなお、供給制約が構造化する一方で、電動化や再工業化、エネルギー転換政策といった長期的なトレンドに支えられ、需要が底堅く推移する環境下では、コモディティは下振れよりも上振れ余地が大きくなっています。

図6は、リアル・アセットと広範な株式市場とのバリュエーション水準を比較しています。ご覧の通り、足元では大型株式は様々な指標において極めて割高な水準で取引されている一方で、リアル・アセットの多くは相対的に妥当なバリュエーション水準にとどまっています。また、当社の見方では、天然資源株式のバリュエーションは今後10年にわたって見込まれる力強い成長をまだ十分に織り込んでいないと考えています。

図6
リアル・アセットのバリュエーションは広範な株式と比較し非常に魅力的

過去10年に対するバリュエーション・パーセンタイル

今後10年間の資本市場見通しの詳細

年率期待リターンと過去10年間の年率リターンの比較
株式市場の期待リターンの要因分解
予想される資産クラスの相関の詳細
レポートをダ‍ウ‍ン‍ロ‍ー‍ド
著者について
Jeffrey Palma ジェフリー・パルマは、シニア・バイス・プレジデントで、マルチアセット・ソリューション部門責任者。資産配分戦略とマクロ経済リサーチを統括。
John Muth ジョン・ムースは、シニア・バイス・プレジデントで、マクロ・ストラテジスト。コーヘン&スティアーズの投資委員会に対するグローバルなマクロ分析・予測の提供を担当。2016年に入社する以前は、オッペンハイマー・ファンズでグローバル・マルチアセット・グループのアナリストを務め、一連のトップダウン型資産配分ファンドのマクロ経済リサーチを実施。それ以前は、リッチモンド連邦準備銀行でリサーチ・アソシエイトを務めた。オックスフォード大学(ペンブルック・カレッジ)で修士号、ヴィラノバ大学で学士号を取得。ニューヨーク拠点。
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