資本市場見通し

資本市場見通し

今後10年間の資本市場に関する当社の見通しは、過去2年間に市場が時代の転換を迎えたことを反映しています。

10年を優に超えて続いたゼロに近い金利、低インフレ、安定した成長、長期の景気サイクルは過去のものとなりました。

それらに代わり、より高い水準で推移する長期金利、経済のボラティリティの増大、インフレの上振れリスク、地政学的な不確実性の高まり、資産価格の調整等が観測される時代に入っています。世界金融危機後の低金利・ゼロ金利の世界は、実に遠い過去のものとなったようです。

昨年、当社が最初の資本市場見通しを公表した時に今後10年について想定していた展望(経済成長の鈍化、インフレ率の上昇およびその変動幅の増大を特徴とするもの)は、概ね維持されています。長期予測を更新する際にはよくあることですが、資産市場全体で当社のリターン予想に大きな変化はありません。

昨年のこの時期には、これほど底堅い米国経済やこのような高い水準で長期金利が推移することを予測した市場関係者はほとんどいませんでした。恐らく最も重要なことに、インフレが大方の想定より根強いものであることも明らかになりました。これは今後数年間に予想すべきことを示唆していると考えられます。

現在、過去2年間に亘る中央銀行の積極的なインフレ抑制策を経て、利上げサイクルは終焉を迎えている可能性が高いと当社は考えています。中央銀行の政策に対する市場の期待は、2024年初頭から本稿執筆時点までの間に大きく変化しています。肝心なことは、利下げのタイミングや回数にかかわらず、以前の緩和的な水準に戻る可能性は極めて低いという点です。

昨年の当社の見解を繰り返すと、債券は現在、他の資産クラスに代わる投資先として、過去10年間の大半を通して見られた水準よりも高いリターンをもたらす可能性があると当社は考えています。それに比べて、株式のリターンは、割高なバリュエーション、成長の鈍化、資本コストの上昇に等により低下すると予想されます。

こうした環境はリアル・アセットにとって有利であると当社は考えています。バリュエーションの魅力は増しています。また、インフレ率低下に関する各社アナリストの見解が一貫して過度に楽観的であるのに対して、当社は今後、コモディティへの過少投資、労働市場の引き締まり、地政学的な不確実性の高まり、脱グローバル化等の要因から、インフレは一定の高水準を維持する可能性が高いと予想しています(図1)。

今日の投資家は、はるかに困難な投資環境に直面しています。より効率的なポートフォリオを構築する上で、株式や債券だけでなく、リアル・アセットにも分散投資を行うことがますます重要になると考えられます。

マクロ経済
Macroeconomics

米国の実質国内総生産(GDP)成長率は年平均1.6%、世界のGDP成長率は年平均3.1%と当社は予想しています。成長率はこれまでのところ金利上昇に対して底堅さを見せていますが、今後は減速すると予想されます。同時に、世界ではグローバル化がピークを過ぎ、相対的な地政学的安定が崩れ、量的緩和と中央銀行の緩和的姿勢が後退しています。その結果、トレンド・インフレ率は高い水準で推移し、マクロ経済のボラティリティが増大すると思われます。


債券
Fixed income

債券は、金利上昇に伴い資産の魅力が増大する新たなリターン・サイクルに入っています。一つの指標として、米国債に関する当社の見通しでは、今後10年間の年率期待リターンは3.9%(昨年と同水準)となっています。それに対して、過去10年間の年率リターンは1.7%に過ぎませんでした。


株式
Equities

米国株式は2023年に26.3%という目覚ましいリターンを記録し、バリュエーションがさらに切り上がりました。そのため、当社は10年間の見通しを(昨年の見通しの7.3%から)7.0%へ引き下げました。米国以外の市場は近年、米国のリターンを一貫して下回っていますが、バリュエーションの出発点がより魅力的である一方、収益性がより低水準で利益成長率が低いことら、今後はトータル・リターンにおいて米国と同程度になると予想されます。


リアル・アセット
Real assets

リアル・アセット、特に天然資源株とインフラ株は、インフレが進む環境下では有利であると当社は考えています。コモディティは、供給不足と生産コスト上昇の中で、リターンが大幅に改善すると考えられます。上場不動産と非上場不動産の先行/遅行関係(下落と回復の両方で上場不動産が非上場不動産に先行する)は、2023年の見通しに当社が加えた調整に明確に表れています。上場不動産証券の期待リターンは(2023年の11.4%から)小幅に低下し、非上場不動産投資のリターンは(市場が引き続き底値を試す中で)若干上昇しています。


図1
インフレ率はパンデミック前のトレンドを上回る水準を維持する見込み

2023年12月31日現在。出所:ブルームバーグ、コーヘン&スティアーズ。

2023年、当社は今後10年間のマクロ経済状況と金融市場環境の見通しに関する見解として、年次資本市場見通しの初版を公表しました。このプロセスは、経済状況と資産価格およびバリュエーションの出発点を考慮し、戦略的な運用期間において投資の意思決定に資する情報を提供することを目的としています。

以下の各セクションでは、当社が分析している様々な資産クラスの期待リターンの見通しについて詳しく説明します。

債券

金利とトレンド・インフレ率の高止まりを特徴とする新たな投資環境は、債券のリターンに複雑な影響を及ぼしています。米国債に投資する投資家にとっての朗報は、2022年と2023年の金利上昇を経てキャピタル・ロスが生じる可能性は目先において低く、直接利回りの上昇に伴って今後10年間は良好なリターン(3.9%)が期待できるという点です。

これは、10年物米国債利回りが3%を超えた月が3ヶ月しかなかった以前の投資環境(2012年~2021年)とは大きく異なります。パンデミック後の成長回復とインフレの再燃、FRB(および世界の他の中央銀行)による積極的な引き締め策を経て、短期金利は上昇し、2023年には5%に迫る勢いでした。

最近の市場では高金利サイクルが長期化するとの見方が優勢ですが、実質の中立金利は現在の水準よりも若干低く、今後数年の間にFRBが利下げに踏み切る可能性が高いと当社は考えています。金利調整のタイミングと回数をどう見るかにかかわらず、肝心な想定は、金利がパンデミック前の水準まで下がることはないと予想されることです。実のところ、当社の基本シナリオでは、今後10年間のフェデラル・ファンド金利の最終的な水準は3%程度と予想しています。

利回りの観点から見ると、社債市場も魅力的です。投資適格債とハイ・イールド債のリターン予想は昨年とほぼ同水準であり、これらの市場は米国債をアウトパフォームするとみられます。しかし、クレジットの観点からは、スプレッドの拡大、ひいては循環的なデフォルト増加の可能性等、成長が鈍化する環境ではいくらか短期的なリスクがあるという点に留意する必要があります。

2023年、ハイブリッド証券は、1-3月期において銀行セクターを巡る混乱が発生したにもかかわらず、8.2%のトータル・リターンとなり、好調なパフォーマンスを発揮した1年となりました。今後については、堅調なファンダメンタルズ、魅力的なバリュエーション、利上げサイクルの終焉など、ハイブリッド証券の期待リターンについて楽観的な見方を維持できる十分な理由があると考えられます。

図2
利回り上昇に伴い債券への期待値が改善

年率期待リターンと過去10年間の年率リターンの比較

株式

世界の株式市場は今後数年間、いくつかのリスク要因に直面します。一方では、特に米国において、実質成長とやや高水準のインフレ率により名目ベースで堅調な成長が実現し、現在の高水準から多少収益率が圧縮される可能性があるにせよ、トップラインの成長は下支えされる見込みです。

しかし、高金利環境では、2023年の好調なパフォーマンス(その大半はバリュエーション倍率の切り上がりによるもの)を考慮すると、バリュエーションの出発点はそれほど魅力的ではありません。これらを勘案すると、今後10年間の米国株式のリターンは7.0%と考えられます。これは昨年の当社の見通し(7.3%)をやや下回り、過去10年間の年率リターンである12.0%を大幅に下回る水準です。

米国以外の市場には、いくらか異なる要因があります。先進国株式については、労働年齢人口の伸び率の低下と相対的に低い生産性により、(米国と比較して)利益成長率のトレンドが鈍化すると予想されます。しかし、これらの市場では配当利回りが高く、バリュエーションの出発点も魅力的であることがリターンの下支えとなります。

そのため、先進国株式のトータル・リターンは米国と同程度になると予想されます。これは米国株式のリターンの方がはるかに高かった過去10年間とは対照的です(図3)。

新興国株式については、これまでに亘って継続的に先進国をアンダーパフォームしてきたにもかかわらず、構造的に低水準のROEが続き、中国の成長に逆風が生じる可能性があることから、今後も数年間は米国や他の先進国と比較してやや出遅れると当社は考えています。

図3
米国株式の期待リターンはもはや並外れてはいない

2023年12月31日現在。出所:リフィニティブ・データストリーム、ブルームバーグ、コーヘン&スティアーズ。
過去の実績は将来の投資収益や運用成果を保証するものではありません。予測は本質的に限定的なものです。市場予測が実現することを保証するものではありません。

リアル・アセット

当社では、根強いインフレや従来型ポートフォリオからの分散性の向上等のいくつかの重要な柱に支えられ、リアル・アセットにとって有利な投資環境が訪れると見込んでいます。また、リアル・アセットのバリエーションは魅力的であると引き続き考えています。バリュエーション倍率の切り上がりに依拠しなくても、リアル・アセットは事業成長と収益性によって堅調なリターンを実現できると考えられます。

さらに、世界は賃金の低下、コモディティへの過剰投資、低インフレ、相対的な地政学的安定などの要因によって特徴付けられた「潤沢な時代」から一変しています。今や「欠乏」を特徴とする時代であり、インフレ率の上昇や賃金上昇圧力が生じている上、グローバル化がピークを過ぎ、地政学的な不確実性も高まっています。このような環境は、リアル・アセットの価格上昇を後押しする可能性が高いと考えます(図4)。

図4
マクロ経済環境の転換が進行中

2024年3月31日現在。コーヘン&スティアーズの見解と予想に基づく。
見解や意見は発行日時点のものであり、予告なしに変更されることがあります。また、本資料に記載された市場予測が実現することを保証するものではありません。

米国上場リートについては、今後10年間の年率リターンは8.0%と予想され、これは昨年の当社の予想をわずかに下回る水準です。グローバル上場リートは、2023年のパフォーマンスの低迷を経て配当利回りがやや上昇し、バリュエーションが改善していることから、昨年の当社の予想と同程度のリターン予想(8.1%)としています。

上場不動産と(コアの)非上場不動産のリターンは、これらの資産クラスの類似性を反映して、長期的には同様の水準となる傾向があります。しかし、2022年の上場市場の大幅な落ち込みは、非上場市場とは非常に対照的でした。非上場市場は、開示結果における資産のバリュエーションの遅延性から、実際にはプラスのリターンを記録しました。2023年にはこうした傾向が逆転し、上場市場は(とりわけ第4四半期に)上昇しましたが、非上場市場のリターンはマイナスでした。そのため、今後は非上場市場で昨年の水準をいくらか上回るリターン(7.3%)が予想されます。

グローバル上場インフラ株の期待トータル・リターンも7.8%と魅力的です。

コモディティ価格は、近年の供給側への過小投資、エネルギー転換への投資、世界の地政学的情勢など、長期的な環境によって支えられると当社は予想しています。コモディティのリターンについては、金利水準の上昇に伴って担保の期待リターンも高まりますが、ロール・イールドが下押し要因となって若干相殺されます。

天然資源株の堅調なリターン(今後10年間で8.8%)は、コモディティ価格に加え、現在の魅力的なバリュエーション水準、およびフリー・キャッシュフローの非常に高い成長率によって支えられると考えられます。

図5
新たな投資環境下でリアル・アセットのリターンは向上する見込み

年率期待リターンと過去10年間の年率リターンの比較


2023年12月31日現在。出所:リフィニティブ・データストリーム、ブルームバーグ、コーヘン&スティアーズ。

10年間にわたる資本市場見通しの詳細

年率期待リターンと過去10年間の年率リターンの比較


過去の実績は将来の投資収益や運用成果を保証するものではありません。予測は本質的に限定的なものです。市場予測が実現することを保証するものではありません。(1)2014年~2023年のパフォーマンス(2014年1月1日~2023年12月31日)は、以下の指標に基づいています。債券:現金:ブルームバーグ・バークレイズ米国長期国債/クレジット指数。インフレ連動債:米国インフレ連動国債指数。米国債:ブルームバーグ・バークレイズ米国債7~10年指数。社債:ブルームバーグ・バークレイズ米国総合社債指数。ハイ・イールド債:ブルームバーグ・バークレイズ米国投資適格社債指数。ハイブリッド証券:ICE BofA固定金利ハイブリッド証券指数。長期米国債:ブルームバーグ・バークレイズ長期米国債指数。長期社債:ブルームバーグ・バークレイズ長期米国債指数。米国株式:S&P 500トータル・リターン指数。グローバル株式:MSCI ACWIトータル・リターン。北米を除く先進国:MSCI EAFEトータル・リターン指数。新興国:MSCI新興国トータル・リターン指数。リアル・アセット:米国リート:FTSENareitエクイティ・リート指数。グローバル・リート:FTSE EPRA Nareit先進国不動産指数。インフラ:2015年3月31日までUBSグローバル50/50インフラ&公益事業指数(ネット)、その後はFTSEグローバル・コア・インフラ50/50(税控除後)指数。天然資源株:S&Pグローバル天然資源株指数。コモディティ:ブルームバーグ・コモディティ・トータル・リターン指数。非上場不動産:NCREIF ODCE指数。ボラティリティは標準偏差で表されています。これは過去のリターンのボラティリティを示す統計的な指標であり、数値が大きいほどリスクが高くなります。

予想される資産クラス間の相関の詳細


予測は本質的に限定的なものです。市場予測が実現することを保証するものではありません。相関係数は月次データに基づき、2つの資産のリターンが共に変動する度合いを示しています。値の範囲は-1.0(完全な逆相関)~1.0(完全な同期)です。
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著者について
Jeffrey Palma ジェフリー・パルマは、シニア・バイス・プレジデントで、マルチアセット・ソリューション部門責任者。資産配分戦略とマクロ経済リサーチを統括。2021年に入社する以前は、ステート・ストリート・グローバル・アドバイザーズでマネージング・ディレクターを務め、投資戦略と戦略的資産配分、およびポートフォリオの構築と実施を担当する20名のチームを率いた。それ以前は、GEアセット・マネジメントで戦術的資産配分の責任者、UBSインベストメント・バンクでグローバル株式戦略の責任者を務めた。サクレッド・ハート大学で経営学博士号(ファイナンス)、コロンビア大学で経営学修士号、ラトガース大学で学士号を取得。ニューヨーク拠点。
John Muth ジョン・ムースは、バイス・プレジデントで、マクロ・ストラテジスト。コーヘン&スティアーズの投資委員会に対するグローバルなマクロ分析・予測の提供を担当。2016年に入社する以前は、オッペンハイマー・ファンズでグローバル・マルチアセット・グループのアナリストを務め、一連のトップダウン型資産配分ファンドのマクロ経済リサーチを実施。それ以前は、リッチモンド連邦準備銀行でリサーチ・アソシエイトを務めた。オックスフォード大学(ペンブルック・カレッジ)で修士号、ヴィラノバ大学で学士号を取得。ニューヨーク拠点。
Joseph Handelman コーヘン&スティアーズのリアル・アセット・マルチ戦略のマネージング・アナリスト。ポートフォリオ・ソリューション部門責任者を兼務。20年の投資運用経験を持つ。2016年にコーヘン&スティアーズに入社する以前は、J.P.モルガン・アセット・マネジメントでエンダウメント&財団グループのポートフォリオ構築・リスク管理担当グローバル責任者を歴任。それ以前は、クレディ・スイスでクオンツ・リサーチャー兼ストラテジストを務めた。ニューヨーク大学で経営学修士号、タフツ大学で学士号を取得。ニューヨーク拠点。
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