資本市場見通し

資本市場見通し

本稿は年次で公表している当社の資本市場見通しの第三版であり、今後10年間のマクロ経済状況と金融市場見通しに関する当社の見解がまとめられています。投資家の皆様が戦略的な時間軸におけるアプローチを検討する際にお役立ていただければ幸いです。当社は、現在の経済環境、資産価格および足元のバリュエーションを調査し、リターン、ボラティリティ、相関性に関する基本予測を作成しています。

金利上昇と根強いインフレが観測された2年間を経て、市場は新たなパラダイムに対応し始めています。本稿は、底堅い経済成長が続くものの、長期金利の上昇見通しを受けてバリュエーションの正常化が進むとの見方を反映したものとなっています。

まずは、過去10年間について考察してみましょう。グローバル株式の年率トータル・リターンはおよそ10%に達し、米国株式についてははトータル・リターンは12%超となりました。S&P500種指数は、2023年-2024年は暦年ベースでそれぞれおよそ25%も上昇し、バリュエーションはドットコム・バブル以来の高水準に達しつつあります。さらに、株式と債券の相関は、1990年初頭以来の高水準となっています。足元の市場環境は、運勢の逆転を示唆しています。

今後10年間については、経済の変動幅増大、地政学的不確実性の高まり、一定の高水準で推移する(正常化された)金利に特徴づけられた市場環境となる可能性が高いと考えています。これらの逆風は、テクノロジー主導の生産性向上に加えて、持続的なインフラ投資や貿易パターンの変化によりもたされ得る機会に牽引された経済成長によって緩和される可能性があります。

金利に関する当社の見解は、こうした世界の経済成長見通しと、依然として目標水準を上回るインフレ率が観測されていることを総合的に勘案したものとなっています。

賃金上昇、脱グローバル化、地政学的摩擦、コモディティ価格のさらなる上昇等を背景に、根強いインフレが続くと見ています。こうした状況を踏まえて、当社の見通しでは、フェデラル・ファンド(FF)金利の誘導目標を3.25%、米国10年債利回りの「適正値」を約4.5%と想定しています。

当社は、金利上昇は広範な市場における期待リターンを押し上げる重要な役割を果たすと考えています。過去のデータは、出発点のバリュエーションがその後のパフォーマンスに大きな影響をもたらすことを示しています。

したがって、米国株式のバリュエーションが切り下がる一方、債券は起点となる利回りが高いことがパフォーマンスの支えになると見ています。これに対して、リアル・アセットは一定期間のアンダーパフォーマンスを経て妥当な価格水準に達したように見受けられ、大幅なリターンの改善が見込める状況にあると判断しています。

当社の資本市場見通しにおいて過去2年間にわたり言及してきたように、ポートフォリオ構築では幅広く分散投資を行うことでより高いリターンを得られると当社は考えています。投資家は、最近の高いパフォーマンスを発揮している資産クラスに引き寄せられる傾向がありますが、より長期的な視野に立った見解を重要視しています。

低金利、安定したインフレ率、一貫して堅調な株価パフォーマンスに特徴づけられた期間に限定された投資経験を有する投資家が多いことを踏まえると、現在の市場を牽引している資産クラスが魅力的に映ることは理解できます。ただ、当社は経験上、過去のパフォーナンスのみに基づいてポートフォリオを構築すると、進化する市場環境の中ではリターンが標準以下にとどまり、機会損失が生じ得ることを認識しています。

図2
インフレ率はトレンドを上回る水準を維持する見込み
マクロ経済
Macroeconomics

米国の実質国内総生産(GDP)成長率は年平均1.9%、世界のGDP成長率は年平均3.4%を予想しています。新興国市場は、今後数年間、引き続き米国以外の先進国をアンダーパフォームする見通しです。世界の経済成長は、4%を上回る成長を続ける主要新興国、インフラおよび防衛関連の新規投資活動の恩恵を受ける米国以外の先進国、人工知能(AI)および規制緩和により生産性が向上している米国によって下支えされると見ています。


債券
Fixed income

米連邦準備制度理事会(FRB)が積極的に利上げを行った過去数年を経て、金利は2024年のピークから低下しています。出発点の利回りが高いことが、今後10年間の債券リターンを支える要因となると思われます。米国債に関する当社の見通しでは、今後10年間の年率期待リターンは平均4.6% で、前回予想の3.9%から上方修正しています。

歴史的に見てスプレッドがタイト化しているなか、投資適格社債とハイブリッド証券の年率期待リターンはそれぞれ5.1%、6.1%となっています。概して、当社は米国債券全体の長期リターン予想を4.3%から4.8%に引き上げています。


株式
Equities

米国株式は2年連続で25%を超えるトータル・リターンを記録し、バリュエーションは2000年代直前に見られた高水準まで上昇しました。そのため、当社は今後10年間の米国株式の期待リターンを5.8%へ引き下げました。

バリュエーションは今後10年間で切り下がり、先進国、新興国共に米国株式をアウトパフォームし、米国とのパフォーマンス格差は縮小し始めると考えています。


リアル・アセット
Real assets

リアル・アセットの各カテゴリーのバリュエーションはいずれも、妥当または魅力的な水準となっています。当社は、高金利環境下における不動産のファンダメンタルズ改善を背景に、米国リートとグローバル・リートの平均期待リターンをいずれも7.8%と予想しています。グローバル上場インフラ株の期待リターンは7.6%となっています。

世界の経済成長により天然資源株のリターンが押し上げられ、平均期待リターンは8.4%に達すると見込んでいます。コモディティの期待リターンは5.9%としています。


以下の分析では、これらの期待リターンとその裏付けとなる主な前提事項について詳しく説明します。

債券

金利の出発点が切り上がったことで、債券のリターンにプラスに作用する素地が整っています。フェデラル・ファンド(FF)金利誘導目標については中立金利を3.25%と当社は見ており、今後10年間の米国債の期待リターンは4.6%と、出発時点の利回りとほぼ同水準と予想しています。

4.6% 米国債の10年間の年率期待リターン

企業寄りの政策環境と全般的に良好な企業環境を背景に、社債市場の出発点のバリュエーションが魅力的となっています。当社は、今後10年間の期待リターンについては、投資適格社債は平均5.1%、ハイ・イールド債は平均6.1%と予想しています。足元の利回りがより魅力的な水準となっていることに基づいて、これらのリターン予想は昨年よりやや引き上げております。スプレッドの動きが非線形的であり、出発点がタイトな水準にあることから、今後10年間においては、デフォルト・リスクの上昇を反映してスプレッドは断続的に拡大する可能性があると見ています。ただし、サイクルを通してのフェア・バリューのスプレッドは、現在の水準からそれほど乖離していないと考えられます。

クレジット・スプレッドの縮小と魅力的なバリュエーションを背景に、昨年はハイブリッド証券が債券市場のパフォーマンスを牽引しました。今後についても、ハイブリッド証券は引き続き優位な立ち位置にあり、投資適格債は6~8%と魅力的な利回りを提供すると考えられます。昨年のスプレッド縮小を考慮し、当社はハイブリッド証券のリターンの長期予想を6.4%から6.1%にやや引き下げています。クレジット・スプレッドは歴史的に見てタイトな水準にあるとは言え、金融セクターの強固なファンダメンタルズ(特に銀行の記録的な資本水準と堅調な業績)が安定した基盤を提供していると考えます。

図3
出発点の高い利回り水準が債券のパフォーマンスを下支え

年率期待リターンと過去10年間の年率リターンの比較

株式

米国以外の株式が米国株式をアウトパフォームするにつれ、世界の株式市場は今後10年間にかけて一定の水準に収斂していく可能性があると思われます。米国では、良好な名目成長率を反映して収益拡大が持続する見込みですが、利益率の圧迫が利益の足かせになりかねません。しかし、より重要なこととして、PERが若干低下していることから、リターンは年間5.8%と比較的小幅にとどまる可能性が高く、過去10年間に達成した12.5%から大きく低下することになるでしょう。投資家は、実現トータル·リターンに貢献するのは利益成長と配当利回りのみとなることを想定すべきでしょう。

米国以外の先進国市場が置かれている状況は異なっています。これらの市場は、労働年齢人口の減少と生産性低下という逆風にさらされているものの、配当利回りの上昇やより魅力的なバリュエーションを背景に米国株式よりも優位な立ち位置にあり、これまでのアンダーパフォーマンスから形勢は一変しています。米国以外の先進国株式市場では、今後10年間の年率期待リターンが平均7.0%に達する可能性があると当社は考えています。

新興国市場は、今後数年間、引き続き米国以外の先進国市場をアンダーパフォームする見通しです。GDPと利益率は力強い成長を見せているものの、長期的には配当利回りの低下と若干の株式希薄化が将来の予想リターンを圧迫する要因となる可能性が高いでしょう。そうした状況とはいえ、今後10年間に新興国株式市場の米国株式とのパフォーマンス格差は縮小していき、年率期待リターンは平均6.3%に達すると見込んでいます。ただし、格差縮小は、主として米国市場のリターン低下によるものとなる見通しです。

図4
米国以外の株式市場の米国市場とのパフォーマンス格差が縮小する見通し

リアル・アセット

前述のように、当社では、マクロ経済の変動性の高まりとインフレ率の高止まりという経済環境を見込んでいます。(特にインフレ率上昇に寄与する)これらの要因は総じて、長期的にリアル・アセットのリターンを下支えする要因になる見通しです。

リアル・アセットのカテゴリー全体については、特に構造的な過小投資に人口増加、エネルギー転換、技術進歩を背景とした需要の急増が重なる市場において、需給の不均衡により投資機会が生じると当社は予想しています。仮に株価収益倍率(PER)が切り上がることはないとしても、足元のバリュエーションは妥当な水準にあると見ています。リアル・アセット間で格差が生じると思われるものの、インフレ率が今後10年間にわたり予想外に下振れた場合、世界金融危機後の大部分の期間と比べて、今後のリターン環境はかなり好ましいものになると見込んでいます。

天然資源株は期待リターンが8.4%と最も高く、コモディティ価格の堅調さ、足元のバリュエーション、フリーキャッシュフローの好調な伸びに支えられています。グローバル上場リートと米国上場リートの年率リターンはそれに近い水準で、いずれも7.8%と予想しています。世界の不動産のバリュエーションは見直されており、パフォーマンスは改善し続けています。グローバル上場インフラ株の期待リターンは7.6%と見込んでいます。インフラ株のリターンは、出発点の魅力的なバリュエーションや産業の電化の進展、データセンターの急成長に部分的によってもたらされる成長余地、ならびに不安定なマクロ経済環境下でのディフェンシブな特性に下支えされています。

コモディティの今後10年間の年率期待リターンは平均5.9%であり、複数の長期的な構造要因により下支えされています。コモディティの多くのセクターで見られる近年の過小投資に起因する供給の制約は、エネルギー転換への取り組みと地政学的動向の変化による需要面での圧力の高まりと並行して生じています。金の期待リターンは3%と、当社の長期インフレ見通しに沿った水準となっています。

長期見通しは明るいものの、投資家はエネルギー市場の供給過剰の可能性、中国の不動産市場の低迷、欧州の不動産市場に影響を与え得る地政学的緊張など、セクター固有の課題に留意する必要があります。しかし、特にリアル·アセットのユニバース全体にわたる魅力的なバリュエーションと力強い長期的な成長要因を踏まえると、これらのリスクは長期的な投資期間を通じて限定的な範疇に留まる可能性が高いと考えます。

図5
魅力的なバリュエーションの出発点と長期的な成長要因の恩恵を受けるリアル・アセット

年率期待リターンと過去10年間の年率リターンの比較

過去の運用成績は、将来の成果を保証するものではありません。予測は本質的に限定的なものです。市場予測が実現することを保証するものではありません。

10年間にわたる資本市場見通しの詳細

年率期待リターンと過去10年間の年率リターンの比較
予想される資産クラス間の相関の詳細
レポートをダ⁠ウ⁠ン⁠ロ⁠ー⁠ド
著者について
Jeffrey Palma ジェフリー・パルマは、シニア・バイス・プレジデントで、マルチアセット・ソリューション部門責任者。資産配分戦略とマクロ経済リサーチを統括。
John Muth ジョン・ムースは、シニア・バイス・プレジデントで、マクロ・ストラテジスト。コーヘン&スティアーズの投資委員会に対するグローバルなマクロ分析・予測の提供を担当。2016年に入社する以前は、オッペンハイマー・ファンズでグローバル・マルチアセット・グループのアナリストを務め、一連のトップダウン型資産配分ファンドのマクロ経済リサーチを実施。それ以前は、リッチモンド連邦準備銀行でリサーチ・アソシエイトを務めた。オックスフォード大学(ペンブルック・カレッジ)で修士号、ヴィラノバ大学で学士号を取得。ニューヨーク拠点。
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