米国地方銀行の動向

米国地方銀行の動向

今般発生した銀行破綻の背景

米国政府は、予想を上回る預金流出により流動性問題に直面したシリコンバレー銀行(SVB)およびシグネチャー銀行(シグネチャー)の経営破綻を受け、銀行業界におけるリスクの連鎖を食い止めるため、大規模な救済措置を講じることを発表しました。

当社は、政府による救済措置は、銀行の更なる取り付け騒ぎとそれに続く破綻を防ぐものであると考えています。

一方で、大口(そのため無保険)預金が圧倒的に多い、あるいは資金繰りの問題を抱えている預金者へのエクスポージャーが大きい地方銀行には、監視の目が向けられています。

今回最も注目されているのは、テクノロジーやライフサイエンス業界に特化した新興・中堅成長企業を顧客とする商業銀行であるSVBで発生した経営破綻です。SVBの預金の大部分を占める多くのテクノロジー系スタートアップ企業は、金利の上昇、不安定な上場・非上場市場、不透明かつ減速しているマクロ経済状況により、予想よりも早く手元資金が枯渇しました。総じて、スタートアップ企業が新たに資金を調達することが難しくなっています。

SVBは、当初1月に預金の流出が鈍化したことを報告していましたが、その後3月8日に2023年のガイダンスを更新し、当初の予想よりも預金動向が悪化していることを示しました。SVBは預金残高の減少を補うために、流動性改善を目的とした措置を講じることを発表しました。これには、実質的に売却可能(AFS)有価証券ポートフォリオ(米国債および政府機関債)の全てが含まれており、同行は、210億ドルの有価証券を売却。2023年第1四半期に18億ドルの税引き後損失が発生した結果、増資による資本調達が必要となりました。

資本調達は失敗に終わり、預金者は流動性の懸念を理由にSVBに預けている資金を引き出すよう促されました。その後、同行の株価(ナスダック: SIVB)は3月9日(木)に65%下落、翌日の市場前取引でさらに65%下落し、取引が停止されました。その後、金融規制当局がSVBを閉鎖し、預金を管理することを発表しました。

SVBの問題を受けて、米国の規制当局はシステミック・リスクを理由に介入し、3月12日にニューヨークを拠点とするシグネチャー銀行を閉鎖しました。同日、政府は市場の問題に対処するために一連の重要な救済措置を講じることを発表しました。

連邦政府が講じた措置は、さらなる銀行破綻を防ぐ可能性が高いものであると考えます。

米国政府が講じた救済措置の内容

米国政府は、連邦預金保険公社(FDIC)が保証していた25万ドル以下の預金だけでなく、SVBおよびシグネチャーのすべての預金を保証すると発表しました。両行とも、保険の対象にならない預金が相当量ありました。

また、連邦準備制度理事会(FRB)は、銀行やその他の金融機関が預金の払い戻しに応じるための新たな融資制度を設けると同時に、その融資の担保を時価ではなく額面で評価することを決定しました。

これにより、銀行はFRBから担保の額面額で借り入れが行えるようになるため、SVBの破綻の主因となった損失を実現せずに預金流出に対処できるようになります。潜在的な預金流出がどの程度になるかはまだ不透明です。とはいえ、預金流出の規模が銀行の流動性を上回るという連鎖を断ち切るためには、まず流出を食い止める必要があり、今回の措置で預金者の不安を鎮めることが重要です。

コーヘン&スティアーズのエクスポージャーおよび投資方針

コーヘン&スティアーズの運用する一部のポートフォリオにおいては、2022年12月31日時点(公開可能な最も直近の基準日)で、SVBおよびシグネチャーの証券に対して限定的なエクスポージャーがあります。

当社は、銀行破綻が顧客の保有資産に与える影響を精査しています。また、SVBやシグネチャーと類似した状況に直面する可能性のある発行体を特定するなど、リスクを精力的に分析・管理しています。当社は、資金調達状況、資本水準、投資ポートフォリオの規模、預貸率などの要素に基づき、保有するポートフォリオの分析を継続しています。また、商業用不動産ローン帳簿もモニタリングを行っていますが、現時点において、貸倒れは発生していないと認識しています。

FRBの金融引き締め政策により景気後退の潜在的な可能性があるなか、当社は過去数ヶ月間にわたって注力してきたクレジット・リスクを削減するスタンスを継続しています。

当社の戦略は分散されています。例えば、コーヘン&スティアーズ・ハイブリッド証券&インカム戦略(以下「ファンド」)は、2022年12月31日現在、125以上の異なる発行体が発行する300以上の証券を保有しています。当ファンドの発行体の90%以上は、発行体レベルで投資適格と評価されています。また、当ファンドは、地域的にも分散投資を行っているほか(約半分は米国外に投資)、保険会社、公益事業、通信事業、不動産など、銀行以外のセクターにも分散して投資しています。

広範な銀行セクターへの影響について

2023年3月13日現在、米国の銀行は、AFS証券および満期保有目的証券において6,200億ドルの未実現損失を有していると推定されます。FRBが週末に行った大規模な措置により、銀行がこれらの損失を確定させる可能性は低いと考えています。また、FRBの行動によって銀行システムに信頼がもたらされたことで、さらなる銀行の経営破綻も食い止められると思われます。

これらの措置はリスクの連鎖を食い止める可能性がある一方で、預金者がより資本力のある大手銀行に資金を移動させる可能性が懸念されることから、預金流出に直面する地方銀行が出てくることも想定されます。当社の運用チームは精力的にポートフォリオを管理していますが、リアルタイムで対応できる範囲には限りがあります。

当社はまた、SVBと他の米国の広範な銀行業界を区別することは重要であると考えています。他の銀行も流動性の問題に直面したり、資産の売却を余儀なくされたりする可能性はあるものの、SVBとシグネチャーの課題は、ほとんど個別要因であったと考えています。

SVBとシグネチャーの預金は大口預金が多く、そのため大半が無保険のものでした。さらに、SVBの顧客は、金融引き締め政策により予想以上の速さでキャッシュバーンが発生したハイテク関連産業に集中していました。直近、ハイテク関連産業(特に暗号市場)に特化した別の銀行であるシルバーゲート銀行が事業清算されたことで、ハイテク産業へのエクスポージャーが大きい銀行に対する市場の信頼はさらに損なわれていました。

SVBのベンチャーキャピタルの顧客が流動性を求めて預金を引き出したことから、同行は流動性需要に対応するため、保有する大量の有価証券の売却により損失を出すことを余儀なくされました。SVBがターム債に投資していたことで、金利上昇に伴いターム債が値下がりし(クレジットではなく金利の理由で値下がり)損失計上を余儀なくされ、より多くの資本が必要となったことで、同行の問題がより深刻になりました。今回のFRBの措置により、流動性不足に直面している他の銀行が今後直面するこの問題を最小限に抑えることができると思われます。

また、米国の広範な銀行業界において預金と資金調達は総じて、より多様化されています。SVBの預金とは対照的に、銀行業界全体では小規模なFDIC保険付き個人預金が預金の大半を占めています。個人預金はより粘着性があるため、銀行業界全体ではより固い資金として融資業務や運用に回すことが可能といえます。また、米国の大手銀行は規制も厳しく、一般的に、最低資本金や流動性カバレッジ比率が定められています。さらに、米国の大手銀行は、より多様なビジネスモデルを有しており、その基盤を強化して参りました。

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