第二次トランプ政権はリアル・アセットにどのような影響をもたらす可能性があるか
第二次トランプ政権はリアル・アセットにどのような影響をもたらす可能性があるか
市場の反応は、投資家がインフレ率の上昇、規制緩和、減税、そしてエネルギーやインフラなどの主要セクターで勝ち組と負け組が生じることを予想していることを示しています。
要 旨
- トランプ大統領の当選と共和党の連邦議会選勝利が注目される中、市場は投資家が減税策の延長、規制緩和、インフレ率上昇、それに伴う金利上昇を期待していることを示しています。
- 選挙後の米国リートの最初の動きは、金利上昇期待を反映して低調でありましたが、米国リートは、中長期的には金利変動以外の他の要因が作用するため、当社は依然として前向きな見通しを維持しています。
- トランプ次期大統領の従来型エネルギーおよび規制緩和を推進する政策により、インフラとエネルギー関連銘柄に注目が集まっており、当社は貨物鉄道、公益、港湾、ミッドストリームなどのセクターに注視しています。
米国の共和党が大統領選と連邦議会選を制したことを受けて、市場は、トランプ次期大統領の 2期目の政策プランがもたらし得る影響についてシグナルを発しており、その中にはリアル・アセットに固有の影響を及ぼすものがあると見ています。
1つ目として、投資家は、新政権の下での減税策の延長と規制緩和の可能性について楽観的な見方をしています。現に、主要株価指数は選挙結果を受けて上昇しています。選挙日の翌日に、S&P500種指数は2.4%高、ナスダック総合指数は2.8%高、そして新高値を付けたダウ工業株30種平均は3.5%高となりました。
2つ目として、インフレ率上昇と債務増加の見通しを背景に、市場は金利上昇を織り込んでいます。減税の可能性、保護主義的な性質が強い通商政策、移民制度改革といったトランプ次期大統領の政策は、通常はインフレ要因と見なされます。さらに、共和党が上院および(ほぼ確実視される)下院で過半数を確保することから、これらの政策変更はそれぞれ実現の可能性がより高くなっています。
見込まれる金利上昇に関しては、選挙後の債券売りにより米国10年債利回りは急伸し、また、5年債利回りの上昇はほぼブレークイーブン・インフレ率の上昇に起因します。
金利見通しは、選挙結果に対する期待と予想以上に好調な経済指標のいずれか、またはその両方を背景に、既に選挙日までに変化していたことに注目することが重要です。米連邦準備制度理事会(FRB)による9月の利下げ以降、米国10年債利回りは3.65%から4.25%を超える水準まで上昇し、利下げ後の利回り上昇幅としては1990年以降で最大となっています。
ただし、米国10年債利回りは、選挙日から3日後に選挙日の終値を小幅に上回る水準にとどまり、実質金利は低下しました。
米国リートや公益企業を含め、相対的に金利変動に敏感に反応するとされる株式セクターは、選挙日翌日に下落しましたが、その後は程度は異なれど反発しています。同時に、米ドルは騰勢を強め、関税引き上げの見通しに沿う展開となっています。
当社は、上記の政策変更により、現在既に生じているインフレ・トレンドがさらに勢いづくと考えており、これは市場の見方とも一致していると思われます。こうした状況は通常、リアル・アセットにとってプラスに作用します。
3つ目として、トランプ次期大統領が従来型エネルギーおよび規制緩和を推進する政策を採用するとみられるなか、一部のセクターで勝ち組と負け組が生じると考えられます。上記の政策に関わる観点からリアル・アセットの中で最も注視すべきセクターはインフラとエネルギーですが、他のセクターにも影響が及ぶと思われます。
市場の反応は、投資家がインフレ率の上昇、規制緩和、減税、そしてエネルギーやインフラなどの主要セクターで勝ち組と負け組が生じることを予想していることを示しています。
米国リートへの影響
選挙結果を受けてその直後に米国リートが下落したことは、様々な関連する状況を考慮して評価する必要があります。
まずは、タイミングとしてやや売りに押されやすい時期と重なったことが挙げられます。米国リートは2024年7-9月期に大幅上昇を遂げた後、10月に6ヶ月ぶりに下落に転じました(米国リートは7-9月期のトータルリターンが約17%に達した後、10月に3.6%下落)。
米国リートは選挙後に当初下落したものの、これはさほど驚くべきことではありません。近頃、同セクターは過去長期と比較し、金利の変動により敏感に反応しています。したがって、長期実質金利の上昇が同資産クラスのパフォーマンスの足かせとなりました。
実際、実質金利は現時点で9月の低水準を46bps上回っており、同期間に米国リートは5%下落しています。予想通り、選挙後に最も大幅に下落したのは、通信塔、貸倉庫、ヘルスケアなどの相対的に金利変動に敏感なセクターでした。しかしながら、米国リートの年初来のトータルリターンは今なお9%を超えています。
米国リートは、中長期的には金利変動以外の他の要因が作用するため、当社は依然として前向きな見通しを維持しています。
供給は鈍化しており、今後も当面は低水準が続くと見込んでいます。米国リートのバリュエーションは、広範な株式よりも魅力的です。貸し手が厳格化した融資基準を緩和し始めれば、商業用不動産は全体としてポジティブな影響を受ける可能性があります。さらに、インフレ期待は上昇しているものの、2024年7-9月期の決算から明らかなように、営業純利益の伸びは依然として底堅く、米国リートのファンダメンタルズは健全です。
直近数ヶ月間において、米国リートの発行する債券のクレジット・スプレッドは相当タイト化しており、これは融資基準の改善を示唆しています。米国不動産投資受託者協会(NCREIF)の測定に基づく米国リートの営業純利益の伸びは引き続き堅調に推移しており、前期(2024年7-9月期)は4.65%となっています(過去の平均は約2.75%)。
さらに、短期的には金利上昇により市場は不安定になる可能性がありますが、歴史的に見て、景気の先行きと雇用の伸びが米国リートに及ぼす影響は、金利上昇による影響よりも大きくなる傾向があります。また米国リートはその特性上、インフレに対するバッファーの役割を果たす可能性が高いと考えられます。
上場インフラ株
インフレ抑制法が縮小される可能性、そしてトランプ次期大統領が代替エネルギーよりも化石燃料を支持すると表明していることを踏まえると、第二次トランプ政権は、上場インフラ株に大きな影響をもたらすことが予想されます。
当社が特に注視しているセクターは以下の通りです。
公益:重要な変化としては、クリーン・エネルギー政策への積極的な支援が減る点と思われますが、共和党支持の州への恩恵と既存の共和党支持を受けてインフレ抑制法を構成する多くの要素は最終的には存続すると考えられます。しかし、連邦政府の巨額の財政赤字は、幾分かインフレ抑制法に基づく取り組みへの圧力となる可能性があると考えます。さらに、環境保護庁は、規制に対してこれまでと比較して緩和的なスタンスをとるようになると見込まれています。ただし、トランプ政権の1期目と同様に、民主党支持の州は、クリーン・エネルギーの目標追求への関与を強めるようになるとも予想されます。
貨物鉄道:新政権は法人税率の引き下げを模索する可能性があり、実現されれば特に貨物鉄道会社に恩恵がもたらされそうですが、引き下げ率はトランプ政権の1期目の減税・雇用法(トランプ減税)よりも小幅にとどまることが予想されます。大半の企業は法人税率の引き下げの恩恵を受けると思われますが、納税額が極めて大きいセクターの一つであることを考慮すると、同セクターは上場インフラ株の他のサブセクターよりも大きな恩恵を受け得るとみています。
ミッドストリーム:全体として、インフラ・プロジェクトと従来型のエネルギー・プロジェクトに対する支援が増えると予想され、可能性として掘削が増えてプロジェクトの承認が円滑化されると期待しています。
港湾:関税引き上げの可能性は、一部の港湾にリスクをもたらす可能性がある一方、好機が生じる港湾もあると見ています。関税引き上げ政策は、サプライチェーンの混乱とインフレ率の上昇を引き起こす可能性があり、その場合、多くのサブセクターや経済全体に影響が及ぶと思われます。
新体制下でのリアル・アセット
選挙結果によって、短期的に再評価が生じるとはいえ、過去のトレンドを上回る水準で推移するインフレ率と有利な需給ダイナミクスを特徴とする新たな市場体制において、リアル・アセットは優位な立ち位置にあるという当社の見解には変わりはありません。
リアル・アセットが他の資産クラスと比べて優位な立ち位置にあると考える理由は、4つあります。
- 分散効果:リアル・アセットは、株式60%、債券40%の60/40ポートフォリオに分散効果をもたらし、ポートフォリオ全体のリスクを軽減できます。リアル・アセットは、伝統的な資産である株式と債券とは異なるリターン特性を示す傾向があります。株式と債券は最近、相関性が高くなっていることから、今後、この傾向が一段と重要になってくるかもしれません。
- インフレがもたらす影響の緩和:リアル・アセット、天然資源株、コモディティ、インフラ株はこれまで、インフレに敏感に反応していました。インフレ・リスクは引き続き上昇するため、これらの資産は購買力を確保し、ポートフォリオの価値の維持に寄与する可能性があります。
- 魅力的なバリュエーション:他の資産クラスと比べて、リアル・アセットは現在、バリュエーションが魅力的な水準にあります。このため、とりわけ伝統的な資産の株式が歴史的に高いバリュエーション水準にある局面では、魅力的な投資の選択肢となります。
- 経済の転換点:経済は歴史的な転換点にあり、世界のサプライチェーンの分断、地政学的リスクに起因する不確実性の高まり、インフレ率の上昇と不安定化が予想されています。リアル・アセットは、こうした状況において安定性と成長の余地をもたらす上で有利な立場にあります。
指数定義 / 重要な開示事項
過去の実績は将来の投資収益や運用成果を保証するものではありません。上記に示された/言及された過去の傾向が将来も繰り返される保証はなく、そのような傾向がいつ始まるかを正確に予測する方法はありません。また、本コメンタリーに記載された市場予測が実現することを保証するものではありません。前述のコメンタリーに記載の見解や意見は発行年月日現在のものであり、予告なしに変更されることがあります。
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不動産証券への投資に関するリスク:不動産証券への投資に関するリスクは、不動産への直接投資に伴うものと同様であり、経済・法律・政治・技術の発展に起因する空室率の上昇や賃料の下落による不動産価値の低下、流動性の欠如、分散の制約、金利変動や市場の後退等特定の経済要因への感応等があります。
グローバル上場インフラ株への投資リスク:グローバル上場インフラ株への投資は、主にグローバル・インフラ企業を投資対象としない投資よりも、グローバル・インフラ企業に及ぶ経済または規制上の悪影響を受けやすくなる可能性があります。インフラ株の発行体は、様々な政府当局の規制を受ける可能性があり、顧客への請求料金に対する政府規制、業務上およびその他の事故、関税、ならびに税法、規制政策、および会計基準の変更の影響を受ける可能性があります。
先物取引は変動が大きくレバレッジが高く、流動性が低い場合があります。商品先物取引および商品先物のオプション取引への投資は、価格変動が大きく、急激で大幅な価格変動が発生することがあります。そのような投資は、多額の損失が生じる可能性があります。オプション戦略が成功する保証はありません。商品先物のオプション取引の使用は、リスク調整後のトータルリターンを高めることを目的としています。しかし、オプションを使用しても、相場下落からまったく保護されないか、部分的にしか保護されない場合があります。商品先物取引のリターンのパフォーマンスは、オプション売買の基礎となる商品や指数のパフォーマンスと一致しない場合があります。このベーシス・リスクにより全体のリターンが押し下げられる可能性があります。
天然資源株式の投資リスクは以下の通りです。天然資源会社の有価証券の市場価値は、自然界で発生する出来事、インフレ圧力、国際政治など多くの要因の影響を受ける場合があります。
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