最近のハイブリッド証券市場における償還と新規発行の動向が示唆すること
最近のハイブリッド証券市場における償還と新規発行の動向が示唆すること
市場の進化が上場ハイブリッド証券投資にリスクと機会の両方をもたらす
要 旨
- 2024年のハイブリッド証券市場では償還と新規発行が盛んに行われている一方、流動性が高くスプレッドがより魅力的なOTC市場での新規発行を選択する発行体が増えています。
- 額面25米ドルの上場ハイブリッド証券市場では供給の逼迫が証券価格の下支えとなるも、投資家にとっては再投資が課題となっています。
- アクティブ・マネージャーにとっては利回りの高い機関投資家向けOTC市場により大きな投資機会が存在し、ポートフォリオのポジションを戦略的、戦術的に管理することが可能です。これは、一般的に上場ハイブリッド証券市場のみに投資するパッシブETFファンドにはない優位性です。
縮小が進む額面25米ドルの上場ハイブリッド証券市場
ハイブリッド証券市場において、足元では新規発行のペースが加速しており、2024年初から直近4月までの新規発行総額は480億米ドルとなり、年間通して700~750億米ドルで推移してきた2022年と2023年の償還額を大きく上回るペースで新規発行が行われています。新規発行はスプレッドのタイト化に伴って増加しています。また、多くのクーポンがリセットする証券構造を有するハイブリッド証券のクーポンが8%~9.5%(担保付翌日物調達金利(SOFR)+300~400bps)と高いクーポン利率にリセットされるため、これらのハイブリッド証券を期限前繰上償還し、利回りが7%~7.5%程度に留まり、且つリセット・スプレッドも相対的に低いハイブリッド証券を新たに発行し、リファイナンスを行う発行体も出てきています。発行額自体は2022-2023年と比較すると大きいですが、今年に入って510億米ドルのハイブリッド証券が償還されたため、新規純発行額(償還額-新規発行額)はマイナス30億米ドルとなり、需給は依然として良好といえます(図1)。
さらに、額面25米ドルの上場ハイブリッド証券市場は顕著な縮小が観測されています。上場ハイブリッド証券は、2024年初来の新規発行額がわずか24億米ドルと極めて小さい一方、償還額は67億米ドルに上り(上場ハイブリッド証券全体の約4%に相当)、新規純発行額はマイナス43億米ドルとなりました。このようなトレンドは、償還額が新規発行額を37億米ドル上回った2023年から続いています。
償還額が新規発行額を上回る背景としては、バランスシートが改善したためリファイナンスすることなくハイブリッド証券を繰上償還したケースや、価格設定や流動性の観点から、OTC市場でのリファイナンスを選択したケースなどがあります。
図1
発行体はOTC市場での発行に移行
2024年のハイブリッド証券市場における新規発行および償還の動向(10億米ドル)
供給逼迫が価格の下支えとなる一方、再投資が課題
額面25米ドルの上場ハイブリッド証券市場では、償還額が新規発行額を上回っていることでスプレッドがタイト化していることが支えとなり直近数か月間に見られた金利上昇環境下においても同市場は堅調なプラスのトータル・リターンを創出しました。
ハイブリッド証券の投資家は、個別銘柄、或いはパッシブETFファンド(額面25米ドルの上場ハイブリッド証券のみに投資する傾向がある)への投資を通して上場市場に集中しており、今後も魅力的なインカムの獲得が見込まれます。ただし、保有するハイブリッド証券が額面価格に対してプレミアムで取引されている時に繰上償還されるとキャピタル・ロスが生じるリスクがある上、市場が縮小基調にあるなかスプレッドが比較的タイトな水準(投資妙味が小さいスプレッド水準)で取引されている別の上場ハイブリッド証券に再投資せざるを得なくなるかもしれません。
他方、投資家には、上場ハイブリッド証券とOTCハイブリッド証券の両方に投資するアクティブ運用のハイブリッド証券ファンドに資金をシフトする選択肢もあります。このようなファンドは、不本意な価格で繰上償還される可能性の高いハイブリッド証券への投資を避け、再投資リスクの効果的な管理を目指すことができます。これは賢明な選択と考えられます。なぜなら、OTCハイブリッド証券のスプレッドは全般に上場ハイブリッド証券よりも魅力的な水準にあり、新規発行もより旺盛かつ利回り水準がはるかに高く、リスクフリー・レートやシニア債利回りが上昇する環境下でも優れたトータル・リターンを提供できる可能性が高いからです。
OTCハイブリッド証券市場では、利回りが相対的に高いハイブリッド証券のリファイナンスも行われていますが、上場ハイブリッド証券市場とは異なり、2024年初来での新規発行額から償還額を差し引いた新規純発行額はプラス100億米ドルとなっており、純供給は増えています。OTCハイブリッド証券市場は拡大し続けており、グローバルのハイブリッド証券市場全体に占める割合は2012年の77%から、現在は84%に上昇しています。スプレッドは上場ハイブリッド証券と同様にタイト化してはいるものの、投資ユニバースが広いため、再投資リスクを管理する機会も数多くあります。OTCハイブリッド証券の投資家は、中長期的に優良な投資となる可能性の高い、魅力的な利回りおよびコール・プロテクションを提供する証券にアクセスできるのです。
図2
新規発行が低水準の上場ハイブリッド証券市場には再投資課題が存在
暦年別に見たハイブリッド証券の総発行額(10億米ドル)
足元において新規発行が増えていますが、その大半は機関投資家向けのOTC市場で行われています。
アクティブ運用の重要性
このようなハイブリッド証券市場においては、アクティブ運用、深く掘り下げた証券分析、そしてハイブリッド証券市場全体に広く分散されたポートフォリオを構築することが必要であると当社は考えます。ハイブリッド証券は、ニューヨーク証券取引所で取引される、個人投資家も多く参加する額面25米ドルの上場ハイブリッド証券市場と、主に機関投資家を対象とする額面1,000米ドルのOTCハイブリッド証券市場の2つの市場で取引されます。OTCハイブリッド証券は現在、グローバルで1兆1,000億米ドルに上るハイブリッド証券市場全体の84%を占めています(図3)。
OTC市場での発行を選択する企業が増えているため、上場ハイブリッド証券市場は、2012年の23%から、現在は16%にまで縮小しました。OTC市場は、米国外の発行体による発行も市場規模の拡大に貢献しているほか、偶発転換社債(CoCo債)といった比較的新しい種類のハイブリッド証券市場の発展もその成長を支えています。CoCo債は債券クラスの中でも利回りが極めて高く、OTC市場のみで発行されています。
アクティブ・マネージャーは通常、上場ハイブリッド証券とOTCハイブリッド証券の両方でポートフォリオを構築し、以下を提供する可能性を高めます。
- 優れたトータル・リターン:1997年以降、OTC市場は上場市場を年率で1.7%アウトパフォームしています(1)。
- 高い利回り:特定の種類や地域のハイブリッド証券は、平均を上回るインカム水準を提供することがあります。
- 金利感応度の低減:額面25米ドルのハイブリッド証券はその多くが固定利付であるのに対し、OTC市場で取引されるハイブリッド証券はほぼすべてにクーポンのリセット条項が付いており、結果としてデュレーションが短期化されます。
アクティブ・マネージャーは、超過収益(アルファ)の創出やリスクの抑制を目指して、様々な方法でハイブリッド証券を活用することが可能です。これは単一の銘柄やパッシブ運用の上場ハイブリッド証券ファンドにはない強みです。
(1) 2024年4月30日現在。インデックス設定以降のトータル・リターン。機関投資家向け市場のインデックス:ICE BofA U.S. Investment Grade Institutional Capital Securities Index。上場市場のインデックス:ICE BofA Core Fixed Rate Preferred Securities Index。投資家は当資料に記載された指数に直接投資することはできません。また、指数は運用報酬、諸費用、または税金を反映しておりません。指数の定義および追加開示情報については巻末の注記をご参照ください。
図3
投資ユニバースを広げることで利回りやトータル・リターンが高まる可能性
1兆1,000億米ドル規模のハイブリッド証券市場内訳
コーヘン&スティアーズのハイブリッド証券運用チーム
ハイブリッド証券は複雑な資産クラスですが、同市場の見極めに精通した専任のマネージャーはグローバルな市場環境の変化の中で効果的に超過収益を生み出すことが可能です。リサーチ主導によるアクティブ運用にグローバル市場へのアクセスの掛け合わせは、良好な運用成果の実現に向けた最良の方程式であると考えています。
コーヘン&スティアーズのハイブリッド証券戦略運用チームの5名のポートフォリオ・マネージャーは平均で22年の運用経験を有し、グローバルのハイブリッド証券市場のすべてにアクセスできます。この5名のポートフォリオ・マネージャーを支えるのが4名のアナリストからなるチームで、それぞれのアナリストが各業界内の広範なリソースに裏付けられた独自のリサーチを展開しています。その他、同運用チームでは、当社の不動産およびリアル・アセット投資の運用スペシャリストから成るグローバルなリサーチ体制も活用しています。
詳細については、コーヘン&スティアーズの担当者にご連絡ください。
指数定義/重要な開示事項
当社のファンドに投資する際は、事前にその目標、リスク、運用報酬および費用を入念にご確認ください。これらの情報を含む要約目論見書または目論見書は、cohenandsteers.comから入手ください。投資の際は、事前に要約目論見書および目論見書をご精読ください。
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ハイブリッド証券:上場:ICE BofA Fixed Rate Preferred Securities Indexは、米国市場で発行された米ドル建ての固定金利証券のパフォーマンスを計測。OTC市場:ICE BofA US IG Institutional Capital Securities Indexは、ICE BofA US Corporate Indexのサブセットで、固定金利から変動金利、永久コール可能証券、資本証券を含む米国市場で発行された米ドル建てOTC市場のハイブリッド証券のパフォーマンスを計測。CoCo債:Bloomberg Developed Market Contingent Capital Indexは、発行体 の規制資本比率やその他の明示的なソルベンシー•ベースのトリガーに基づく明示的な株式転換または評価損吸収メカニズムを持つ先進国市場のハイブリッド証券のパフォーマンスを計測。
投資家は当資料に記載された指数に直接投資することはできません。また、指数は運用報酬、諸費用、または税金を反映しておりません。ボラティリティやその他の特性が特定の投資とは異なるため、指数の比較には制約があります。
ハイブリッド証券への投資に関するリスク:投資は、いずれの市場においてもリスクを伴います。一般的に、ハイブリッド証券の投資リスクは債券の投資リスクと類似しており、信用リスクや金利リスクなどがあります。ほぼすべてのハイブリッド証券に発行体による繰上償還条項が付いているため、期限前償還リスクや再投資リスクも重要な検討事項になります。さらには、配当の繰延べや不払い、社債や弁済順位が上位にあるその他の債券に対する劣後構造、議決権が限定的であるためコーポレート•ガバナンス上のリスクが高いなど、株式に類似したリスクもあります。ハイブリッド証券に関連するリスクは、その他の投資に固有のリスクとは異なるものです。特に、仮に倒産した場合、ハイブリッド証券は普通株式には弁済順位が優先しますが、その他すべての企業債務に劣後します。企業の資本構造の中で社債はハイブリッド証券よりも弁済順位が上位に位置し、倒産した場合はハイブリッド証券に優先することを認識しておくことが重要です。ハイブリッド証券戦略では、投資適格未満の有価証券およびアドバイザーが投資適格未満と判断した未格付け有価証券に投資する場合があります。投資不適格証券または同等の未格付け証券は一般的に、高格付けの証券に比べ、価格の変動が大きく、元本を割り込むリスクがあり、また、経済や競合する業界の現実または事実上の悪条件の影響をより受けやすい可能性があります。
偶発転換社債証券(CoCo債):CoCo債は、損失を吸収する特性が組み込まれた債券またはハイブリッド証券で、例えば発行体の資本比率が一定の水準を下回った場合など、特定の状況下で、発行体の普通株式に強制転換されます。CoCo債が強制転換されるような状況下にある発行体では普通株式に配当が支払われない場合もあるため、そのようなCoCo債を保有する投資家はインカム利率がゼロになる可能性があるほか、転換によって弁済順位がさらに下がり、倒産時の投資家の立場が悪化する場合があります。そのような状況下で価値や元本の削減が行われるCoCo債もあります。また、CoCo債の多くはハイ•イールド債とみなされているため、投資適格未満の証券への投資リスクを伴います。
デュレーションリスク:デュレーションとは、固定利付証券またはハイブリッド証券の平均残存期間を数学的に計算したもので、金利(または利回り)の変動に対する証券の価格リスクの指標となります。デュレーションの長い証券は、デュレーションの短い証券に比べて、金利(または利回り)の変動に対してより敏感に反応する傾向があります。デュレーションは、満期までの期間に加え、金利の潜在的な変化、および証券のクーポン支払い、利回り、価格、額面、コール機能などを考慮する点で満期とは異なります。ファンドのデュレーションを調整するためには、様々な手法が用いられることがあります。有価証券のデュレーションは、市場要因や満期までの時間の変化によ り、時間の経過とともに変化することが予想されます。
コーヘン&スティアーズ•キャピタル•マネジメント•インク(コーヘン&スティアーズ)は登録投資顧問会社で、企業の退職年金制度、地方自治体や組合による退職年金制度、財団、基金、ミューチュアル•ファンドに対し、投資運用サービスを提供しています。コーヘン&スティアーズの米国登録オープン•エンド型ファンドは、Cohen & Steers Securities, LLCが販売し、米国居住者のみがご利用いただけます。