関税による不確実性が高まる環境下、リートは安全性の高い投資先となる可能性

 
  • 関税が米国リートに及ぼす影響は、広範な米国株式市場と比較して軽度にとどまる見通し
  • 米国リートのキャッシュフローの伸びは加速し、バリュエーションも歴史的に魅力的な水準を維持する見込み
  • 米国リートの中でもセクター間のリターンには大きなばらつきが生じていることから、アクティブ運用のマネージャーにとって優れた投資機会が存在

関税が及ぼす市場への圧力は、米国リートにどのような影響を及ぼす可能性があるでしょうか。最も逆風にさらされるのは、どの不動産セクターでしょうか。そして、ボラティリティが高まる環境下においてもリートの強固なファンダメンタルズが維持されるのはなぜでしょうか。

今月は、関税を取り巻く現在の環境下、リートが市場でどのような立ち位置にあるかを詳しく解説いたします。

1. 関税により不確実性が高まるなか、リートは安全性の高い投資先となる可能性

まず、関税によりS&P 500種指数の構成銘柄の収益は5~35%程減少する可能性があると推定される一方、米国リートは安全性の高い投資先となる可能性があります。

リートは国内事業が中心で、海外との取引が事業全体に占める割合はごくわずかです。最新の当社推計に基づくと、関税引き上げによるリートの収益への直接的なマイナスの影響は、1%以下にとどまるとみられます。

さらに市場でボラティリティが高まるなか、リートは賃料収入と高い利益率によって安定したキャッシュフローを維持しているため、ディフェンシブな特性を発揮する可能性があります。このような変動の少ない収益源は、高いリターンをもたらした実績があり、市場で不確実性が高まる時期において特に魅力的なものとなる可能性があります。

一方関税は、一部のセクターに対してより大きな影響をもたらす可能性があることを認識することが重要です。産業施設では、グローバル経済の低迷とサプライチェーンの混乱が逆風になる可能性があります。ショッピング・モールでは、小売テナントがコストの大幅増に直面し、利益率が圧迫される可能性があります。さらに、建設業者にとっては木材価格の上昇が重荷となる可能性がある一方、森林リートにとっては供給の減少と価格上昇が追い風となる可能性もあります。

図1
供給は鈍化しており、今後も低水準が維持される見込み

セクター別の建設着工件数と10年間の平均の比較(在庫に対する割合)(1)
2019年1月~2024年12月

長期的に関税は、リートにとって有利であると考えられる現在の需給環境を更に後押しする可能性があります。この背景として、建設費の増加により新規供給が制限され、開発の動きが低迷する期間が長期化する可能性がある点が挙げられます。供給の減少は通常、将来の賃料の伸びが加速する状況を生み出します。

2. リートのキャッシュフローの伸びとバリュエーションは歴史的に魅力的な水準

ご注目いただきたいもう1つのポイントは、リートの収益とバリュエーションに関する点です。配当可能資金(FAD:Funds Available for Distribution)の測定に基づくと、リートのキャッシュフローは大きな成長が見込まれる状況です。新規供給に関する課題が解消され、金利上昇の環境に適応した今、同資産クラスは転換点を迎えつつあります。

リートの収益は再加速すると見込まれ、2026年以降は平均を上回る成長を示すと予想されます。

上記の点を背景にリートの成長軌道が改善した場合、リート全体のキャッシュフローが改善することで市場全体に対するリートの競争力が増すと予想されます。

図2
収益成長率は底打ちし、再加速が見込まれる

米国リート(1)のFADの伸び率(%)

同時に、米国リートのバリュエーションは歴史的に見て投資妙味のある水準です。米国リートは2025年初、世界金融危機と新型コロナウイルス禍の時期を含めても、S&P 500種指数に対して史上最大に近い割安水準で取引されていました。

図3
米国リートは、株式に対して魅力的な割安水準で推移

4月末現在、米国リートは米国株式市場全体に対して約5.6%アウトパフォームしていますが、今後このバリュエーション格差がさらに縮小する余地が依然として大きいことに着目しています。

3. リートにおけるセクター毎のパフォーマンスのばらつきはアクティブ運用のマネージャーにとって優れた投資機会を創出

最後に、米国リートにおけるセクター間のパフォーマンスのばらつきは年初から4月末までの期間で既に大きく、パフォーマンス最上位のセクターと最下位のセクターの違いはは43%に達しています。通信塔を含むインフラストラクチャーは22%上昇し、最も良好なパフォーマンスを示しています。一方、パフォーマンスの最下位はホテル/リゾートで、20%超下落しています。

図4
米国リートにおけるセクター間のパフォーマンスはばらつきが大きい

このようなセクター間におけるパフォーマンスのばらつきは、リートにおいてアクティブ運用がふさわしいと考える主な根拠の1つです。これらの結果は、経済全体に関する当社の見通しと、キャッシュフローの観点からよりディフェンシブな特性を持つリートを選好する当社のスタンスと整合的です。

景気拡大の持続、緩やかな景気減速、或いは景気後退といった如何なる市場環境となった場合でも、リートは不確実性の高まる環境下を乗り切る上で有利な立ち位置にあると見ています。

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著者について
Mathew Kirschner, CFA マシュー・カーシュナーは、シニア・バイス・プレジデントで、米国不動産証券戦略のポートフォリオ・マネージャー。2004年に入社する以前は、アライアンス・バーンスタインで商品リサーチおよび開発を担当するアナリストとして従事。エモリー大学にて学士号を取得し、ニューヨーク大学スターン・スクール・オブ・ビジネスにてMBA(金融・会計専攻)を取得。ニューヨーク拠点。
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