原子力エネルギーの再興:世界のエネル‍ギ‍ー構‍造を揺‍るが‍す変‍化

原子力エネルギーの再‍興:世‍界のエ‍ネル‍ギ‍ー構‍造を揺‍るがす変‍化

原子力エネルギーの再‍興:世‍界のエ‍ネル‍ギ‍ー構‍造を揺‍るがす変‍化

原子力エネルギーは、数十年の停滞を経て再び勢いを取り戻しつつあります。世界の電力需要が急増し、気候変動への取り組みが続くなか、原子力は信頼性の高いクリーンな電力源として、未来のエネルギー安全保障を支える重要な柱となりつつあります。

  • 世界はクリーンで信頼性の高いベースロード電源を追求
    従来の化石燃料によるエネルギー生産は予測可能性が高いものの、往々にして望ましくない温室効果ガスを排出します。再生可能エネルギーはよりクリーンである一方、発電が不安定で供給量が変動しやすいという課題があります。原子力はいずれの課題もクリアできるテクノロジーです。
  • 原子力政策を巡る機運が高まっている 
    国連気候変動枠組条約第28回締約国会議(COP28)は、各国連合の拡大を背景に、2050 年までに原子力発電容量を3倍にすると宣言しました。各国政府が信頼性の高いクリーンなベースロード電源を重視するなか、原子力拡大への前例のない規模の国際的な取り組みが示唆されています。
  • サプライチェーンのボトルネックと技術革新はリスクと同時に機会をもたらす
    ウランの転換や濃縮施設、特殊部品の深刻な不足は、短期的な課題であると同時に、原子力バリューチェーン全体における大きな投資機会を生み出しています。

原子力のグローバルな成長の初期段階

原子力発電が世界の発電量に占める割合は、米国などの市場で一定の底堅さを維持しているにもかかわらず、80年代のピーク時の17%から現在では約9%にまで低下しています(米国では、原子力発電が依然として発電量の約18%を占めています)。2011年の福島第一原子力発電所の大事故以降は、特に困難な状況が続きました。新たな原子炉の稼働は、世界的な原子炉の閉鎖をかろうじて相殺する程度にとどまり、原子力バリューチェーン全体における構造的な過少投資を招きました。米国ジョージア州に新設されたボーグル発電所の建設費の予算超過が注目を集めたことも、原子力発電の評判をさらに損ない、投資を遠ざける要因の一つとなりました。ボーグル発電所のプロジェクトは、総費用が当初の140億ドルから300億ドル超へと倍増したうえに、10年にわたる遅延も発生しました。これは、新たな原子力発電所の建設に対して公益企業や投資家が警戒感を強める財務リスクの典型例となっています。こうした予算管理の失敗は悪循環を生み出します。プロジェクト数が減少することで学習機会や規模の経済性が低下し、規制面の不確実性と建設経験の不足によって、将来の発電所建設のコストがさらに押し上げられる結果となります。

しかし、現在の状況は大きく異なる様相を呈しています。現在、世界で稼働している原子炉の数は約440基で、2030年までに約500基へ拡大すると予測されています。さらに、400基以上が様々な計画および開発段階にあります。こうした成長見通しは、原子力テクノロジーに対する信頼感が再び高まっていることだけでなく、大規模かつ徹底した脱炭素化を達成するには、再生可能エネルギーの本質的な不安定性を補完できる、出力調整可能なベースロード電源が必要であるという基本認識を反映しています。

図1
電力需要は増加基調:今後5年間で80年代と同水準にまで回復する見込み

年平均成長率(%)

4つのフェーズから成る原子力開発戦略

原子力拡大への道筋は、既存資産を最大限に活用しつつ、新規建築を通じて次世代の発電能力構築へとつなげる、現実的かつ段階的なアプローチによって切り開かれると考えています。

  1. 既存の原子炉の稼働年数を延長し、新設の発電所が稼働するまでの重要な「つなぎ」の供給能力を確保する(2022~2026年)。原子力発電所の稼働年数は、世界全体の中央値が32年であり、全体の66%の原子炉が31年を超えて稼働しています。そのため、稼働許認可の延長は、原子力供給能力を維持するための最も迅速かつ費用対効果の高い手段となっています。過去10年間、欧州や北米ではこれらの原子炉の廃炉が一般的となってきましたが、近年は多数の原子炉で稼働年数の延長契約が確認されており、当社はこの傾向が今後も続くと予想しています。
  2. かつて稼働を停止したものの、現在も稼働可能な施設を再稼働する(2024~2028年)。米国、日本、インドなどの国々には、過去に閉鎖されたものの、短中期的には安全に再稼働できる可能性のある原子炉が存在します。これらの原子炉は、新設に伴う長期的なタイムラインを必要とせず、比較的迅速に発電容量を回復する手段となり得ます。最近発表されたスリーマイル島原子力発電所の再稼働は、停滞していた発電能力をの「再起動」の好例です。
  3. 既存または過去に使用されていた原子力施設のブラウンフィールド開発(既存の敷地を活用し、新たな原子炉の建設等を行う開発)を進める(2026~2035年)。この手法は、既に整備されたインフラ、規制への精通、地域社会の受容といったメリットを享受でき、開発リスクを低減することができます。今後数年間で、既存の原子力発電所の敷地内における新規建設や開発計画の発表が始まると予想しています。
  4. 新規の大型原子炉、小型モジュール炉(SMR)、未来の新技術の導入(2030~2040年)。2020年代の終わりにかけて、原子力業界で新たな開発活動の波が訪れると我々は確信しています。これには、新たな大型原子力施設の開発と、新技術の拡張および導入が含まれます。こうした活動の多くは、プロジェクトの実現に向けて政府の支援や保証を必要とする可能性が高いと考えられます。
図2
原子力発電容量は2050年までに概ね倍増する見込み

地域別原子力発電容量、GW(電力)

成功のための重要な要素

原子力産業の成長軌道は、これまで拡大の制約要因となってきた3つの根本的な課題への対応にかかっています。

継続的な技術開発は引き続き最も重要です。従来型の原子炉設計は今後も重要な役割を担う見込みですが、先進的な原子炉のコンセプト(SMR、溶融塩原子炉、最終的には核融合など)は、原子力エネルギーの長期的な競争力にとって必要不可欠です。これらの先進的な設計の多くは、高純度低濃縮ウラン(HALEU)をはじめとして、異なるタイプの燃料を必要とし、燃料サプライチェーンに機会と課題の両方をもたらします。

規制の合理化も必要不可欠な推進要因の一つです。原子力の許認可プロセスは、特に米国の原子力規制委員会(NRC)の監督下にて歴史的に複雑で、時間を要するものでした。「原子力エネルギー革新・近代化法」によって策定が進められている「パート53」フレームワークは、厳格な安全性基準を維持しつつ、先進的な原子炉に対するより効率的な規制ルートの構築を目指しています。しかし、この「パート53」は依然として策定中であり、SMRのタイムリーな導入を実現するには、このフレームワークが極めて重要です。さらに、原子力設備の建設には長期間を要することを踏まえると、民間企業による大規模投資を促進するためには、政府の支援と投資が必要になると考えられます。

おそらく最も重要なことは、業界が数十年にわたる過少投資によって弱体化したサプライチェーンを再建する必要があるという点です。核燃料サイクルには、ウランの採掘、六フッ化ウラン(UF6)への転換、濃縮、燃料加工、発電、廃棄物管理といった複数の重要な工程が含まれます。それぞれの工程には、成長の妨げとなり得るボトルネックが存在しますが、同時に投資家にとっての投資機会をもたらす可能性もあります。

原子力産業の成長軌道は、これまで拡大の制約要因となってきた3つの根本的な課題への対応にかかっています。

今後、原子力産業は2030年代までにウランの構造的な供給不足に直面すると予想されています。これは、需要の伸びが既存および開発計画中の鉱山の生産量を上回るためです。この潜在的なウランの供給不足は、ウラン価格の上昇を促し、鉱業会社が恩恵を受ける一方で、公益企業にとってはコスト上昇圧力となる可能性があります。これに関しては、契約の仕組みも重要です。公益会社は通常、5~10年にわたる期間契約を通じてウランを確保しており、価格の安定性をある程度維持しつつ、長期的な供給の確実性も得ています。

核燃料サプライチェーンは脆弱性と投資機会の両方を示しています。採掘されたウランを濃縮燃料に転換する工程は顕著なボトルネックとなっており、多くの生産能力がロシアと中国に集中しています。地政学的緊張によって、敵対する可能性があるサプライヤーに過度に依存するリスクが高まっており、国内での供給能力の構築が喫緊の課題となっています。

原子炉で使用される低濃縮ウランは、サプライチェーンがある程度確立されていますが、多くの先進的な原子炉はウラン-235(U-235)同位体比5~20%に濃縮した高純度低濃縮ウラン(HALEU) を必要とします。現在、世界的にHALEU供給は極めて限られており、大規模な生産は主にロシアの企業によって支配されています。信頼性の高い国内HALEUサプライチェーンの構築は、典型的な「ニワトリが先か、卵が先か」という問題に直面しています。原子炉開発会社による確実な需要の保証がないまま多額の先行投資が必要とされる一方で、原子炉開発会社は、燃料供給が保証されない状態で開発にコミットすることを躊躇しています。

原子力産業の変革は、技術的な複雑性、国家安全保障上の配慮、そして厳格な規制体制により、限られた主要プレーヤーが支配する集中型の投資環境を生み出しています。この集中構造は、適切なポジションを確立している投資家にとって、リターンを高める可能性のある保護的な障壁を形成します。

ウラン生産者は、原子力発電所の運転延長、再稼働、新規建設による需要の増加に加え、数十年にわたる過少投資による供給制約が相まって、短期的にファンダメンタルズに追い風が吹くと見ています。こうした需給の不均衡はウラン価格の上昇を支える要因となっており、地政学的な要因も追い風となって、欧米の生産者はロシア産ウランへの依存度の低下による恩恵を受けています。新たなウラン開発が依然として限定的ななか、既存の生産者はこうした国内回帰(リショアリング)のトレンドの恩恵を享受しやすい立ち位置にあります。

図3
原子力バリューチェーン全体に投資機会が存在

原子力発電容量を拡大できる公益企業には、投資機会が存在すると見ています。特に、既存の原子力施設に関するノウハウや、ブラウンフィールド開発の可能性のある企業は魅力的と考えます。ハイパースケールのテクノロジー企業は、データセンター用の信頼性の高いカーボンフリー電源を追求する中で原子力への関心を強めており、かつてない需要の牽引要因となっています。原子力施設を有する公益企業は、運転延長による経済性の向上と、発電容量の増強による恩恵を受けるでしょう。

原子力分野の専門知識を有するエンジニアリング企業や建設会社は、業界が開発戦略を進める中で、プロジェクトの拡大による恩恵を受けます。原子力サービスは包括的な性質を持つため、高度な技術的要件や規制要件に対処できる企業にとって、ビジネス機会を生み出します。専門的なノウハウやセキュリティ・クリアランスの取得など、高い参入障壁が競争を制限し、市場での地位を守る要因となっています。

原子力機器メーカーは、厳格な要件と安全基準が反映された集中度の高い市場で事業を展開しており、ごく限られた企業のみが競争力を維持できます。この分野は、既存の原子力施設の保守管理ニーズと新規の建設需要の両方から恩恵を受けます。特殊な部品や原子炉システムは、技術的な専門知識によって持続可能な競争優位性が生まれる領域です。

2030年代半ばを見据えると、小型モジュール炉(SMR)の開発会社は最もリスクが高く、最も高い潜在リターンを秘めた分野となると見ています。SMR技術は依然として開発初期段階にあり、実用化までのタイムラインも不透明ですが、開発に成功した企業は、標準化された大規模生産によって大きな価値を獲得する可能性があります。ただし、投資家は、未検証の設計、規制上の不確実性、実証されていないコスト構造などのリスクを評価しなければなりません。

高い参入障壁が投資家にとって魅力的な機会を生み出す

原子力エネルギー分野は、投資家にとって魅力的なファンダメンタルズが重なり合う、稀有な投資機会を提供しています。現在、複数の面で同時に原子力エネルギーに対する機運が高まっています。世界中の政策立案者は、数十年にわたる反原子力の姿勢を転換しつつあり、ハイパースケールのテクノロジー企業は数十億ドル規模の電力購入契約を締結し、サプライチェーンの制約がポジションを確保している企業に価格決定力をもたらしています。

これは、遠い将来の転換点を見極めるといったような理論上の機会ではなく、既に進行中の変革であり、早期にポジションを取ることで大きな価値創出を享受できると当社は考えています。原子力エネルギー分野の集中度の高い構造、参入障壁の高さ、プロジェクト期間の長さは、新規参入を抑制し、既存企業に本質的な競争優位性をもたらします。

当社は、インフラ株式と天然資源株式投資におけるリーダーシップと経験に基づき、原子力バリューチェーン全体にわたる投資機会を積極的に検討しています。これは、今後数十年間で最も重要な産業変革の一つとなる可能性があると見ています。

レポートをダ‍ウ‍ン‍ロ‍ー‍ド
著者について
Tyler Rosenlicht タイラー・ローゼンリクトは、シニア・バイス・プレジデントで、グローバル・インフラ株式戦略チームのポートフォリオ・マネージャー兼天然資源株式戦略の統括責任者を務める。
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