2025年における商業用不動産のリ⁠タ⁠ー⁠ンに影⁠響を与⁠え得⁠る要⁠因

 
  • リートのサブセクター間のリターンに格差が存在することを踏まえると、アクティブ運用が有効であると考えられます。
  • リートにとって、金利変動の背景は、その程度と同様に重要な意味を持ちます。
  • 投資家は、ディストレス状態がピークに達する前に商業用不動産へのエクスポージャーの構築を検討すべきです。

今月は、2025年の展望についてお話いたします。

まず、2024年における米国リートと実物不動産投資のパフォーマンスを簡単に振り返ってみましょう。

1. 2024年の米国リートおよび米国実物不動産投資のリターン

米国リートのリターンは、2023年のプラス11%に続いて、2024年はプラス4.9%となりました。

一見するとリターンは小幅であるかのように思われますが、9月半ばにはリターンは一時15%に達していました。

重要な点は、これは必ずしも予想外のことではないものの、米国リートが2023年10月の底入れ水準から目覚ましい回復を遂げているということです。

現在、米国リートは当時の最低水準を31%以上上回っています。2023年10月に底入れして以来、2回の大幅な上昇局面を経験しています。

最初の上昇局面は2023年10月から12月までの期間における26%の上昇であり、2回目は2024年4月から9月までの期間における28%の上昇です。

2024年のパフォーマンスでもう一つ注目すべき点は、米国リートのサブセクターのなかでパフォーマンス最上位(36%近い上昇)となった特殊用途セクターと、パフォーマンス最下位(18%近い下落)となった産業施設セクターとの間に大きな乖離が生じたことです。

米国上場リートは単一の資産と捉えられがちですが、実際には18種類もの異なるサブセクターの集合体であり、それぞれがその時々に異なる動きを見せます。2024年も例外ではありませんでした。 18のサブセクターのうち、10サブセクターがプラスとなり、このうち6サブセクターは20%以上のリターンを記録しました。

図1
2024年における米国リートのサブセクター別パフォーマンス

これに対して、商業用不動産をコア資産として保有する25のオープンエンド型ファンドで構成されるNCREIF ODCE指数で測定した実物不動産投資は、2024年第1四半期から第3四半期の3四半期間にかけて、3.2%のマイナスとなりました。

2024年9月末時点で、米国リートは年初来14%のプラスとなっていたことが注目されます。

米国リートが上昇した一方で米国実物不動産が下落したことは、特に驚くには値しません。

当社は以前から、上場リートは下落局面でも回復局面でも実物不動産投資の先行指標となっていると指摘してきました。

実際、下図に示す通り、過去8四半期間(2022年第3四半期~2024年第3四半期)に米国リートは米国実物不動産を52%以上アウトパフォームしています。

図2

実物商業用不動産に関して意外な点は、最も優れたパフォーマンスを示した不動産の種類かもしれません。

最もアウトパフォームしたのは屋外型ショッピングセンターで、レバレッジを考慮しないリターンは3.4%となり、これに産業用施設の1.1%、集合住宅の0.5%、オフィスの-10%弱が続きました。

このことは、前サイクルにおける勝ち組が次のサイクルでもまた勝ち組になるとは限らないことを示すシグナルであると考えられます。 以上がこれまでの動きです。次に、今後1年間の商業用不動産のリターンに影響をおよぼす可能性のある要因について考察します。

2. 2025年のリターンに影響をおよぼし得る要因

投資家は過去数年間を通じて、金利の上昇は上場リートにとって一様にマイナスに作用すると考えるようになったと思われます。

そうした考え方は間違っています。重要なのは金利変動の背景です。

最も厳しい状況は何かといえば、実質金利が上昇し、期待インフレ率が低下するケースです。

これはスタグフレーションと呼ばれ、FRBがインフレ抑制のために利上げを継続した2022年全体と2023年の大半においてそうした状況が続きました。そうした環境下で、上場リートは低迷しました。幸いにも、歴史的にスタグフレーションは稀にしか生じません。

図3
期待インフレ率と金利の局面別 パフォーマンス比較

一方、実質金利が上昇し、期待インフレ率が高止まりする環境は、上場リートにとって好ましいものとなります。

これは、そうした環境下では純営業収益(NOI)の伸び率が加速し、融資条件は緩和される結果、資金調達コストの上昇による影響が緩和されるためです。

結論として、当社は、金利が上昇した場合、NOI成長率が加速し、融資条件が緩和される限り、上場リートを含む商業用不動産の2025年のリターンはプラスとなる可能性があると考えます。

短期的に上場リートは実物不動産に比べて不安定な推移となる可能性もありますが、ファンダメンタルズがほぼ同等であることを考慮すれば、中期的に相関性はかなり高くなります。さらに、金利低下局面では、特にインフレ率も低下している場合、リートが堅調なパフォーマンスを示すことは言うまでもないでしょう。

最後に、今年の上場リートおよび実物不動産投資のリターン見通しについて解説します。

3. 2025年の不動産市場の見通し

実物商業用不動産のトータル・リターンは、既に底入れしたと考えています。レバレッジなしの価格は依然として低下していますが、インカムによるリターンで価格の低下分が相殺されています。もっとも、次の2つの理由から、V字型の回復は予想していません。第1に、世界金融危機後のような世界の中央銀行による救済措置は見込めません。

第2に、不動産の種類によって回復の道程はまちまちとなることが予想されます。

理由は異なりますが、今回の回復は1990年代前半に見られたパターンに似たものになると考えられます。このことは、コアファンドの手数料を除いたネット・リターンは1桁台前半になる可能性が高いことを示唆しています。

とは言え、不動産の種類や地域を厳選し、新たな資本を選別的に投資すれば、一般に言われているよりも優れたリターンを上げることが可能と考えます。

他方、米国上場リートのトータル・リターンは、利益と配当利回りに牽引されて指数レベルでは1ケタ台後半になると予想しています。 下図に示す通り、これは、過去30年間の平均年間リターンをわずかに下回る水準となります。

図4
米国リートの年間リターンと平均リターン(過去25年間)

しかし、これはアクティブ運用ファンドにとっては魅力的な市場環境です。

アクティブファンドは、2桁台前半までリターンを向上させることも可能と考えられます。経済的・地政学的不透明感を踏まえると、昨年12月に見られたような周期的な相場の下落を巧みに活用して投資することにより、さらにリターンを向上させることも可能でしょう。

機関投資家の場合、既存の実物商業用不動産ポートフォリオに上場リートを10%~30%組み入れることで、コア・ポートフォリオを強化することも可能と考えます。

これにより、リターンを改善し、ボラティリティを引き下げる一方で、非従来型の不動産タイプへのエクスポージャー(大半のコア・ポートフォリオでは組入比率が低位にとどまっています)を増やすことが可能になります。

最後に、当社の見通しに関連して寄せられる質問の一つに、商業用不動産証券市場にとっての苦境が強まっていることから、こうした市場へのエクスポージャーを高めるのは時期尚早ではないかというものがあります。

今後1年間、苦境が強まる可能性は高く、状況が好転するまでに一段と悪化する可能性があることは認識しているものの、上記の質問への答えは「ノー」です。

その理由は、デット証券市場の苦境は遅行指標であることにあります。

苦境の強まりは、試練の局面の最終段階に生じるものと当社では捉えています。受容の時です。

価格の透明性が限られているため、貸し手は、ディストレス市場下で不良債権を回収するためのディストレス物件の売却に消極的です。

他方、市場が安定している局面では、ディストレス物件の売却にはほとんど抵抗を感じません。2025年には、そうした状況が現実になると考えています。

レポートをダ⁠ウ⁠ン⁠ロ⁠ー⁠ド
著者について
Rich Hill リッチ・ヒルは、シニア・バイス・プレジデントで、不動産戦略・調査部門責任者であり、上場不動産証券および実物不動産投資戦略における投資機会の特定や関連するテーマや戦略についての調査を統括。2022年に入社する以前は、モルガン・スタンレーのマネージング・ディレクターとして商業不動産リサーチ責任者を務め、上場不動産証券のリサーチ、商業用不動産デッド戦略、マクロ不動産リサーチなどを担当。それ以前はRBS証券でディレクター、バンク・オブ・アメリカでバイス・プレジデントとして従事。ジョージタウン大学で理学士号を取得。ニューヨーク拠点。
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