2025年に向けた機関投⁠資⁠家によ⁠る不⁠動⁠産投⁠資の動⁠向

上場不動産証券および実物不動産の価格が再評価され、より多くの投資家が流動性を求める中、上場不動産証券に資産を配分する投資家が増加しています。

 
  • 最近発行された「2024年 機関投資家の不動産への資産配分モニター “2024 Institutional Real Estate Allocations Monitor”(1)」(以下「同レポート」)によると、機関投資家の不動産への資産配分目標は2013年以降、約200bps上昇している。
  • 過去12か月間において、機関投資家の不動産への投資が配分目標に対して配分超過から配分未達へとシフトしたが、これは株式や債券を含む上場市場のバリュエーションが上昇した一方で、実物不動産のバリュエーションが低下し、「デノミネーター・エフェクト(分母効果)」が起こったことが要因。
  • 流動性の確保が最大の原動力となり、上場不動産証券に資産を配分する機関投資家が増加している。

今月は、2025年に向けて機関投資家がどのように不動産ポートフォリオのポジションを構築するかについて考察します。

「不動産への資産配分目標」、「分母効果の反転」、および「上場不動産証券を不動産ポートフォリオに追加することで得られる効果」の3点についてお話させていただきます。

(1) コーネル大学とHodes Weill & Associatesが2024年6月から10月にかけて米州、EMEA、アジア太平洋地域で実施した、25か国の機関投資家186社から無記名で集められた調査が含まれます。同レポートは以下のリンクでもご確認いただけます。
https://www.hodesweill.com/real-estate-allocations-monitor

1. 不動産への資産配分目標が引き上げられている

これが私の注目している最初のポイントです。

不動産への資産配分目標は2013年以降約200bps上昇しており、これは不動産への資産配分が20%以上拡大したことを意味します。

図1
機関投資家は不動産への資産配分目標を20%拡大

資産配分目標(加重平均ベース)

Institutions have increased real estate target allocations by 20%

2024年の資産配分目標は10.8%ですが、2025年には0.1%下落して10.7%となると予想されます。不動産セクターに対する直近数年間における逆風により、投資家の同セクターに対する配分は概ね横ばいとなっています。

しかし、不動産は機関投資家のポートフォリオにおいて引き続き重要な配分先であり、投資家は一般的に不動産が次の経済サイクルにおいて良好なパフォーマンスを生み出し得ると期待しています。

2. デノミネーター・エフェクト(分母効果)

注目すべき二つ目のポイントとしては、いわゆる「分母効果」により、過去12か月間において不動産への投資が配分目標に対して配分超過から配分未達へとシフトしたという点です。

この分母効果とは、例えば株式や債券といった投資家のポートフォリオに含まれる他の資産クラスのバリュエーションが大きく低下することにより、実物不動産など特定の資産クラスのポートフォリオ全体に占める割合が増加して見えることを意味します。

この効果により、絶対価値がほとんど変わらない場合でも、ポートフォリオにおける実物不動産への配分が相対的に上昇する結果となります。

これは、2022年に実物不動産のバリュエーションが上昇した一方、株式や債券を含む上場証券のバリュエーションが低下した結果、実際に起こったことです。

このような背景により、不動産の平均資産配分は目標まで押し上げられ、約40%の機関投資家が配分超過の状態となったと回答しています。

図2
不動産への資産配分は目標を下回る水準で推移

上記の期間以前の8年間では、不動産への配分は平均で100bpsほど目標未達となっていました。

2023年にこの傾向は一時逆転し、2024年は上場証券のバリュエーションの上昇、実物不動産のバリュエーションの低下が続いています。2022年半ば以降、無負債実物不動産のバリュエーションを計算した場合、正味20~25%低下しています。

この結果、2024年の資産配分目標は横ばいであったものの、不動産への実際の配分は目標を0.6%下回る10.2%となりました。

約50%の機関投資家が2024年の不動産への投資は配分目標に対して未達であったと述べており、これに対して配分目標を超過したと回答した機関投資家は30%以下に留まりました。

3. 2025年の見通し

最後のポイントとしては、「実物不動産ポートフォリオに上場不動産証券を追加することによって受けられる恩恵」が挙げられます。

これまで以上に多くの機関投資家がこの恩恵について認識を深めてきていると思われます。同レポートでは、39%の機関投資家が上場不動産証券に投資しており、これは昨年から比較すると3%上昇しています。機関投資家全体としては39%ですが、この数値は投資家の属性によって大きく乖離があり、個人年金基金では上場不動産証券への投資が僅か10%に留まる一方、ソブリン・ウェルス・ファンドや国有企業では71%が投資している状況です。上場不動産証券が不動産ポートフォリオに占める割合は平均で11%となり、投資家属性の中でも保険会社が特に高く14%となっています。

上場不動産証券に投資する最大の理由は「流動性」で、同レポートによると67%を占め、昨年の46%から顕著に上昇しています。これは今年一部の実物不動産ファンドにおいてゲート条項(顧客のファンド解約に制限がかかる条項)が発動したことを背景に、流動性への関心が高まったことが背景と考えられます。

図3
上場不動産証券への投資の理由として「流動性」を挙げる機関投資家が増加

上場不動産証券をコア型不動産戦略の一部として投資しているケースが次に高く、47%となります。これまでにも述べさせていただいたように、上場不動産証券を一部組み入れることによりボラティリティの低下、リターンの強化、ポートフォリオ全体のドローダウンリスクを軽減させる効果があるため、これは納得のいく結果でしょう。

3番目の投資理由としては、ニッチな戦略へのアクセスが可能になるという点が挙げられており、28%を占めます。上場不動産証券の時価総額のうち約60%がデータセンター、通信塔、戸建住宅といった次世代の不動産タイプに投じられていることを考慮すると、この投資理由は過小評価されていると当社では考えます。

レポートをダ⁠ウ⁠ン⁠ロ⁠ー⁠ド
著者について
Rich Hill リッチ・ヒルは、シニア・バイス・プレジデントで、不動産戦略・調査部門責任者であり、上場不動産証券および実物不動産投資戦略における投資機会の特定や関連するテーマや戦略についての調査を統括。2022年に入社する以前は、モルガン・スタンレーのマネージング・ディレクターとして商業不動産リサーチ責任者を務め、上場不動産証券のリサーチ、商業用不動産デッド戦略、マクロ不動産リサーチなどを担当。それ以前はRBS証券でディレクター、バンク・オブ・アメリカでバイス・プレジデントとして従事。ジョージタウン大学で理学士号を取得。ニューヨーク拠点。
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