再生可能エネルギーへの転換がインフラ投資に与える影響
再生可能エネルギーへの転換がインフラ投資に与える影響
再生可能エネルギーへの転換は長期的に魅力的な投資機会を提供していますが、投資家はコモディティ価格の変動、安定的な送電網の整備および気候変動のリスクを考慮する必要があります。
要 旨
- 力強い追い風
再生可能エネルギーへの転換は、政策的・規制的な追い風、技術の進歩、消費者嗜好、環境的利点を背景に、順調に進展しています。 - 課題の存在
しかしながら、安定供給への懸念やサプライチェーンの制約を踏まえると、脱炭素への高い目標を達成することは容易ではなく、従来型エネルギーの活用は続く見通しです。 - 転換期における投資機会
電力会社や再生可能エネルギー企業は、世界における脱炭素化の流れに伴い、クリーン・エネルギーへの投資から直接的な恩恵を受けると同時に、ネット・ゼロ実現の遅れが従来のエネルギー・バリューチェーンに属する企業にも間接的にプラスの影響を与えると見ています。
脱炭素社会の到来
エネルギー転換(化石燃料から低炭素エネルギーに移行する世界の取り組み)は進んでいます。太陽光発電と風力発電は、わずか10年前にはゼロに等しかった状況から、今では世界の発電量の10%以上を占めるようになりました。この進展は、再生可能エネルギーのコスト低下と、脱炭素に向けた政策的・規制的支援によって促進されてきました。
脱炭素社会の実現に向けて、世界70カ国以上が「ネット・ゼロ」(温室効果ガスの排出量を実質ゼロにする取り組み)の誓約に署名しており、国連によると、これらの国は世界の排出量の約76%を占めています。
再生可能エネルギーの開発に対して、多額の税額控除を行う米国のインフレ削減法等のような政府の支援策は、再生可能エネルギーへの投資の下支えとなっています。
図1
再生可能エネルギーの高い費用対効果
2030年までの発電コスト予測 (米ドル/メガワット時)(1)
1) 現行法に基づくNextEra Energy Resourcesの試算(インフレ削減法(IRA)による予想される影響を含む) 2) ニア・ファーム型とは、蓄電池のバックアップにより、石炭、天然ガス、原子力などの化石燃料のように常時電力を供給できる状態に近いことを指します。ピーク時に化石燃料とほぼ同等の安定性を実現するための4時間バッテリーを搭載しており、ディスパッチ(出力制御)可能な発電源と接続した場合を想定。 3) 燃料費及び継続的な資本支出を含む1メガワット時あたりのオールイン・コスト 4) ガス価格4-5米ドル/百万Btuを想定した範囲 5) 既存の州や地域のCO2対策や大手電力会社の事業規約と整合性のある適度なCO2コスト
その結果、電力会社や再生可能エネルギー企業を中心に、エネルギー転換がもたらすビジネス機会から恩恵を受けるインフラ企業が増加する見通しです。
ネット・ゼロという高い目標は計画通りに実現しない可能性
現在、再生可能エネルギーは様々な追い風を受けていますが、送電網の安定性やサプライチェーンの構造的な課題を踏まえると、2050年にネット・ゼロを実現するという目標は、あまり現実的ではないと見ています。このエネルギー転換の遅れにより、従来型エネルギーの活用は長期化する見通しです。特に、天然ガスは今後も家庭用暖房および発電において極めて重要な役割を果たすと見ています。要するに、市場は従来型エネルギーが生み出すキャッシュフローの耐久性を過小評価している可能性があります。
図2
火力から再生可能エネルギーへの移行
米国の発電構成
従って、投資家は将来の再生可能エネルギーへの投資と、今後にかけて依然として重要な役割を果たす化石燃料を活用するインフラ企業を適切に評価することのバランスを考慮する必要があります。石油やガスなどの伝統的なエネルギー源は、今後数十年にわたり重要な役割を果たし続けると見ています。なぜなら、ネット・ゼロへの完全な移行は、様々な背景を踏まえると非現実的であると考えるからです。
再生可能エネルギーへの転換における課題
- 低水準で且つ予測不可能な設備利用率: 設備利用率とは、一定期間における発電設備の平均出力を指します。例えば、原子力発電はほぼ常時稼働しているため、設備利用率が高くなります(90%以上)。一方で、雲量や風量などの天候条件が再生可能エネルギーの設備利用率に影響を与えることは明白です。そのため、再生可能エネルギーは従来型発電よりも設備利用率が低い傾向にあり、加えて出力量の予測も困難です。低水準で且つ予測不可能な設備利用率により、発電の安定性は低下します。この問題は将来的には、長期間のエネルギー貯蔵技術の発展によって解決される可能性があるため、投資機会を慎重にモニタリングしています。
- 需給の不均衡: 輸送網の電化による電力需要の増加に伴い、従来型の発電は大幅に減少しています。地域によっては、電気自動車1台の増加が、送電網に住宅が2軒増加した場合の電力供給を必要とすることもあり得ます。電力会社は、脱炭素化と供給力の確保との間で、適切なバランスをとる必要があります。
図3
燃料別平均設備利用率
- 資源の確保: 銅、ポリシリコン、銀、亜鉛、リチウムなどの金属は、再生可能エネルギーや蓄電池設備には必要不可欠です。これらの希少資源は多くの場合、中国やロシアなど、地政学的に不安定な地域で採掘されています。ネット・ゼロの実現には、現在使用されているレアアースのおよそ26倍の量を採掘する必要があります。
- 政策的な支援の継続性: 政府は基本的に、再生可能エネルギーへの力強い支援を表明しています。しかし、将来的にはより消極的になる可能性があります。実際、トランプ前大統領が太陽光パネルの輸入にかけた高い関税を、バイデン大統領は維持しています。また欧州連合が、EUタクソノミー(持続可能な経済活動を分類する制度)に、ガスと原子力を含めるという方針転換を行ったことも確認されました。
- 土地利用: 風力発電や太陽光発電に最適な土地を見つけることが困難であるため、新たな施設を建設するための場所の確保も課題となっています。
- コスト上昇のリスク: 再生可能エネルギーによって発電された1メガワット時の電力は、化石燃料による発電よりも一般的に安価である一方、クリーン・エネルギーの大量導入には、より高いコストがかかる可能性があります。既存の施設にはすでに送電網が整備されていますが、通常、新規の発電施設は新たな送電網の整備が必要という点から、規模に関する課題が挙げられます。さらに再生可能エネルギーは、従来型発電に比べて発電頻度が劣るため、同じ水準の需要を支えるためには、より多くの総発電量(メガワット)が必要になります。エネルギー転換にかかるコストは、将来的には減少傾向になる可能性が高いですが、新施設を建設するための初期費用は、最終的には電力会社の顧客である利用者が負担することになります。
再生可能エネルギーへの転換の長期化は、低炭素社会の実現に向けた投資と、従来型エネルギー創出に必要なインフラの維持を両立しなければならないという、企業にとって継続的な課題をもたらすと見ています。
再生可能エネルギーは、石炭や天然ガスに比べ、一単位あたりの発電量において、少なくとも10倍の土地を必要とします。
図4
再生可能エネルギーへの転換期における両立
再生可能エネルギーへの転換期における投資機会
電力とミッドストリームの2つのサブ・セクターに、大きな投資機会があると見ています。
電力会社は、再生可能エネルギー発電の最大の事業者になるだけでなく、新しいエネルギー資源を利用するために送電網を整備する任務を担うことになります。エネルギーの転換や送電網の整備という構想は、同セクターにとって、大きな投資機会と高い収益力を生み出すと考えます。
実際、国際エネルギー機関(IEA)が発表した2022年の再生可能エネルギー発電量の5カ年予測では、2021年の予測よりも30%増加しています。
図5
大規模な再生可能エネルギー発電の導入―2027年の見通し
再生可能エネルギー発電の増加予測 (ギガワット) 2021‒2022
また、特定の電力会社は、既存の従来型施設の使用期間を延ばすことによって、利益を得ることが可能です。先進国における原子炉の再稼働は、従来型エネルギーがより長期的なソリューションの一部であることを示唆しています。具体的には、ドイツ、フランス、日本が原子力発電の使用期間を延ばすかどうか検討を続けています。また、米国のインフレ削減法には再生可能エネルギーだけではなく、原子力発電に対する税額控除も含まれていることにも注目しています。
今後、再生可能エネルギーの普及が進む状況にあっても、発電や家庭用暖房の両方で天然ガスの利用が長期に亘って継続することは明白であると考えます。実際、石炭と比べると、天然ガスはCO2排出量が50%近く少なくなります。
そのため、パイプラインのインフラ網を拡大するのに有利な立ち位置にミッドストリーム企業は立っており、安定的なキャッシュフローを創出する見込みです。加えて、同セクターは世界の脱炭素化に伴ういくつかの機会からも恩恵を受けると考えます。
図6
100万英国熱量単位(Btu)あたりのエネルギー消費に伴うCO2排出量
そのひとつは、バイオガスからつくられる再生可能天然ガス(RNG)の利用や、RNGと天然ガスのブレンドを活用することです。もうひとつは、パイプラインを使った水素の輸送です。ただし、水素輸送はまだ始まったばかりで、ミッドストリーム企業は低炭素燃料に対応するために、既存の資産を再利用する方法を検討する必要があります。
炭素の回収・有効利用・貯留(CCUS)は、世界の脱炭素化に伴い、ミッドストリーム企業が投資している技術の一例です。この技術は、排出される二酸化炭素を回収し、大気中に排出されないようにするものです。回収された二酸化炭素は、パイプラインで地中深くに貯蔵されたり、低炭素燃料として利用されたりします。クリーン・エネルギーやCCUSにいち早く取り組んだ一部のミッドストリーム企業は、エネルギー転換に伴う成長機会に参加すると同時に、既存の資産をベースにした力強いキャッシュフローを生み出す好位置にいると考えます。
最後に、再生可能エネルギーへの転換の遅れに加え、投資家は気候変動に伴うリスクと機会について、適切に把握する必要があると考えます。インフラ企業は、今後発生する災害に備えて、システムの強化や耐久化を図る必要があります。気候変動リスクを管理するうえで、アクティブ運用会社は最適な立場にあると考えており、資産保全のイニシアチブを既に行っている企業への投資を優先しています。
物理リスク
既存のインフラに対する物理リスクが増大しています。以下の事例では財務的な問題を引き起こすリスクと、それらがもたらす投資機会について言及しています。
最後に
世界は間違いなく低炭素社会に移行していますが、残る問題はそのペースです。
2050年のネット・ゼロ目標に対しては取り組みの進行が遅れており、それに伴い化石燃料を使用するインフラ資産の寿命は長期化すると考えています。とはいえ、様々な政策支援を受けて、再生可能エネルギーに対するモメンタムが高まっていることは明らかです。
図7
各国政府は再生可能エネルギーへの転換に注力
2020年以降の再生可能エネルギーへの転換に向けた世界の政府支援(セクター別、10億米ドル)
税制優遇措置、新技術、消費者の需要拡大は、いずれも再生可能エネルギーへの転換における力強い追い風となります。
政治家や財界リーダー、そして投資家が世界のエネルギー問題を解決するためには、従来型エネルギーと再生可能エネルギーが共存する必要があることを理解することが重要だと考えます。当社は、安価かつ潤沢な天然ガス、および再生可能エネルギーの普及が、世界のエネルギー供給の基盤になると見ています。
市場には、エネルギー転換がもたらす成長の恩恵を受ける再生可能エネルギー企業と、堅調で持続的なキャッシュフローを生み出す従来型エネルギー企業の両方に、活躍の場があると考えます。
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