上場リート投資に魅力的なエントリー・ポイントが到来
上場リート投資に魅力的なエントリー・ポイントが到来
上場リートは景気後退を織り込んだ可能性が高く、回復期を迎える見通し
要 旨
- 新たな市場環境
各国中央銀行による積極的な利上げ姿勢とそれに伴う景気後退への見通しを背景に、2022年は上場リートにとって非常に厳しい1年となりました。急速な価格調整を経て、これから先は同資産クラスにとって魅力的な投資環境を迎えつつあると考えます。 - 健全なファンダメンタルズ
資金調達コストが上昇し、経済成長も鈍化基調にあるものの、物件の新規供給が抑制された水準にあり、キャッシュフローが依然として健全であること等から、上場リートはこのような厳しい環境下においても相対的に優位な立ち位置にあると見ています。 - 上場リートへのエントリー・ポイント
上場リートは、当社が想定する足元から近い将来にかけての環境(経済成長率と実質金利がともに低下基調にある期間、利上げサイクルの終了期、そして景気サイクルの初期段階(景気回復期)への移行期)において、歴史的に良好なパフォーマンスを発揮してきました。
過去の類似した市場環境の分析から、上場リートへの魅力的なエントリー・ポイントが示唆されている可能性
投資家は上場リートについて、将来の見通しに対するネガティブな見方を既に織り込んでいると見ています。経済成長の鈍化とインフレの進行の組み合わせによってスタグフレーションが引き起こされ、上場リートにとって非常に厳しい市場環境となっています。
その結果、2022年の上場リートと実物不動産投資の間には、著しいパフォーマンスの差異が生じています。米国リート(FTSE Nareit オール・エクイティ・リート指数で計測)は、年初から9月末時点までで27.9%、11月末時点までで21%下落しているのに対し、米国実物不動産投資のパフォーマンス(NCREIF ODCE指数、四半期毎に計測)は、年初から9月までで13%上昇しています。
過去の経緯から、このようなパフォーマンスに差異のある状況が今後も継続することはないと考えています。実際、実物不動産投資のリターンは、我々の想定通り鈍化し始めています。実物不動産市場は、価格決定および取引のプロセスやスピードが上場市場と比較して緩慢なため、一般的に上場市場の価格のトレンドに遅行する傾向があります。実物不動産(NCREIF ODCE指数)の第3四半期のリターンは僅か0.5%で、第1四半期の7.4%、第2四半期の4.8%から大幅かつ継続して低下しています。これは1978年以来2番目に大きな低下幅となっています(図1)。
当社は投資家に対して、上場および実物不動産の両方に戦略的に資産配分するよう助言をしてきました。よって、二者択一を勧めているわけではなく、あくまでも足元の市場環境においては、実物不動産よりも上場リートをオーバーウエイトすべきであると考えます。我々は、今後12ヶ月にかけて、上場リートのパフォーマンスの回復を後押しする市場環境へと移行すると見ています。
まず、不動産のファンダメンタルズは歴史的に見ても強固であると考えています。高い物件稼働率等のデータが示すように、不動産の需給はひっ迫しています。景気後退の可能性を反映して、上場リートの収益は減速することが予想されますが、上場リートが生み出すキャッシュフローは、特に他の資産クラスと比較して、相対的に底堅いと見ています。
図1
2022年 実物不動産のリターンは減速基調
次に、上場リートは歴史的に、我々が現在直面しているようなインフレが高止まりする環境において、アウトパフォームしてきた実績があります。これは、利上げサイクルの終盤であり、実質金利と経済成長率がともに低下する時期でもあります。
景気サイクルの初期(景気回復期)において、上場リートは最も優れたリターンを創出してきた一方で、景気後退期においても、その後12ヶ月先の平均リターンは10.8%でした(図6)。そして今回の景気サイクルにおいては、景気後退による下落の大部分を我々は既に経験し終わっている可能性が高いと考えます。
上場リートの健全なファンダメンタルズ
上場リートのファンダメンタルズは減速基調にあるものの、引き続き底堅さを維持すると見ています。景気減速を背景に、我々は上場リートの2023年における成長率予測を引き下げました。しかしながら、上場リートは、新規物件供給が限定的な水準に留まるなか、良好な需給環境に支えられ、相対的に健全な状態で景気減速期を迎えていると考えます。
今回の景気サイクルがこれまでの景気後退期と大きく異なる点は、不動産供給量の減少がより長く続く可能性があることです。インフレ率はいずれ低下すると見ているものの、少なくとも2023年末までは高水準を維持すると予想しています。土地、資材、労働力のコスト上昇は、再取得コストの上昇につながり、新規物件開発は潜在的な利益を減少させ、物件の新規供給に対する経済的障壁を高めることから、既存物件にとっての潜在的競合を減少させる可能性があります(図2)。
図2
建設コストの上昇により、不動産供給の伸びが鈍化する可能性
建設コストの大幅な上昇が続いているため、不動産供給は長期的に低水準で推移する可能性
2022年の見通しにおいて、供給量の伸び率はさらに低下する可能性
2022年9月30日現在。出所:グリーンストリート、コーヘン&スティアーズ、ターナー。
過去の実績は将来の投資収益や運用成果を保証するものではありません。上記のデータは、コーヘン&スティアーズが運用・運用助言する特定の商品の運用成果を示すまたは保証するものではなく、将来の投資収益や運用成果を保証するものではありません。上記に示す過去のデータは、将来同様の動きが繰り返されることや、その動向の開始時期などを示唆、また保証するものではありません。指数定義、および追加の開示事項については、文末脚注をご覧ください。
(a) ターナー社の建設コスト指数は、全国ベースで考慮した労働賃金と生産性、資材価格、市場の競争状況などの要因によって決定されます。(b) 不動産供給成長率は、グリーンストリート社のカバレッジユニバースに含まれる全てのリート・セクターの年間供給成長率の平均値で表されます。(c) 長期平均は、1996年から2021年までのグリーンストリート社のカバレッジユニバースに含まれる全てのリート・セクターの年間供給成長率の平均を表しています。
また、上場リートの安定的で且つ予測可能なキャッシュフローは、他の資産クラスと比較してディフェンシブな役割を果たす可能性があります。上場リートは、物件の供給が限定的であること、既存の一定期間に亘る賃貸借期間に基づく収益構造であること、営業利益率が高いこと、労働集約性が低いこと等から、特に株式と比較して安定した収益を生み出す可能性があります。
インフレのピークアウト
FRB(米連邦準備制度理事会)はインフレ抑制のために、今までで最も積極的な金融引き締め策のひとつであろう利上げの実施を行ってきており、意図した効果を上げているように見受けられます。
労働市場は引き続き逼迫しており、資源も限られています。このため、インフレ率は高水準を維持する可能性がありますが、先行指標はインフレが6月にピークに達したことを示しています。賃貸住宅価格と住宅着工件数がともに下落している一方、貸出基準は厳しくなっています。また、一部の製造業の在庫水準は積み上がっており、需要過多による在庫不足の状況から供給超過に転じてきており、その結果企業の利益率の低下につながっています。
先物市場は、フェデラル・ファンド金利が2023年6月までに5%に近いターミナル・レートに到達することを示しています。さらに5年物ブレーク・イーブン・インフレ率(5年物物価連動債より算出)は、FRBが早期にインフレ抑制に成功すると市場参加者が予想していることを示唆しています(図3)。これは主に2つの観点から、上場リートにとって有利な環境であると考えます。
図3
インフレ率は上昇基調にあるも、先行きの予想は上昇率の緩和を示唆
2010年1月‒2022年12月
1つ目には、実質金利が低下しつつあるという点です。一般的に、スタグフレーションを示す低成長における金利上昇環境は、上場リートにとって逆風となります。経済成長率と金利の両方が低下している時期は、より停滞した環境となりますが、リートにとっては追い風となります。米国リートは、経済成長率が低下し、金利が上昇した期間において、平均して8.8%の下落となっている一方、経済成長率と金利がともに低下している期間では、平均して18.0%の上昇となっています(図4)。これは平均して、27%の変動幅があることを示しています。
図4
実質金利が低下する環境下において上場リートが広範な株式をアウトパフォーム
月次平均年率換算トータル・リターン 1990年2月-2022年9月
上場リートは、現在直面しているようなインフレが高止まりする環境下において、歴史的にアウトパフォーム
2つ目には、上場リートは利上げサイクルが終了した後に、顕著に良好なパフォーマンスを示してきたという点です。過去において、FRBの利上げペースが緩やかになり、利上げを終了した時点は、歴史的に重要な転換点となっています。FRBの利上げ終了後の6か月間において、上場リートは平均15.8%のリターンを実現しています(図5)。
投資家はすでに、この2つの力学が作用することを予期しているかもしれません。上場リート(FTSE Nareitオール・エクイティ・リート指数)は、10月の1か月間で3.4%上昇しました。その後、10月の消費者物価指数が7.7%に低下したとの報道を受け、11月10日に上場リートは1日で7%以上の上昇となりました。11月の消費者物価指数が前年同月比7.1%に低下したことを受けて、12月13日には再び1.4%の上昇となりました。本レポートの発行直前、12月13日時点までの第4四半期で上場リートは9.6%上昇しています。
しかし、当社のベース・シナリオに対するリスクの1つは、FRBがインフレへの対応が遅いと批判されるなかで信用を回復するために、より積極的な利上げを継続するという誤った判断をし、オーバーシュート(市場が過剰に反応し、行き過ぎた動きになること)する可能性があることです。もしそうなれば、利上げサイクルの終了は遅れ、景気減速の程度感がより大きくなる可能性があります。
図5
上場リートは利上げ終了後6か月で顕著に上昇(a)
上場リートと景気回復期
足元、景気後退に入っているか否かに関する議論が続いています。しかし、当社は、市場は予想以上に厳しい景気後退を織り込んでいると考えます。
過去の実績が将来の成果を保証するものではありませんが、このような背景から今回の景気後退は、これまでの景気後退の歴史に類似した展開を見せる可能性があると考えています。上場リートは歴史的に、景気後退後に顕著に良好なパフォーマンスを発揮してきました。
1990年まで遡って景気後退期を分析した結果、上場リートの最も良好なパフォーマンスは、景気サイクルの初期(景気回復期)の投資を通じて得られることがわかりました。しかしながら、景気後退期に投資を行った場合でも、平均で10.8%のリターンを生み出し、長期的な平均を上回っています(図6)。
景気後退期に投資を行った場合の上場リートのこの平均10.8%というリターンは、同時期の株式市場の4.5%というリターンを上回っており、そしてこのアウトパフォーマンスは、景気サイクルの初期に移行しても続きました。
実物不動産投資と上場リートを比較すると、景気サイクルの初期における上場リートの相対的なアウトパフォーマンスがより一層顕著に確認できます。米国実物不動産投資の12か月後のリターンは、景気後退後に11.8%の下落、その後の景気サイクルの初期に9.2%の上昇となっています。
上場および実物不動産市場の先行・遅行の動きを理解することで、不動産投資家は両資産クラスに異なるタイミングで戦術的に資産配分を行うことができると考えます。
図6
上場リートは景気後退の環境においてもプラスに転じる可能性
米国カンファレンス・ボード指標に基づく12か月後の平均トータル・リターン(a)
1990年1月‒2021年12月
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