魅力的な利回りと規制強化がハイブリッド証券市場に対するポジティブな見方を後押し
魅力的な利回りと規制強化がハイブリッド証券市場に対するポジティブな見方を後押し
ハイブリッド証券は、魅力的なバリュエーション水準および高金利環境下で優位性を発揮し得る証券構造等により、良好な相対パフォーマンスが期待できると考えています。発行体のファンダメンタルズは総じて健全であり、今後の銀行規制強化の動きはクレジットにとって追い風となる可能性があります。
要 旨
- 高インカム、クーポンのリセット構造、大幅なディスカウント価格が魅力的な投資機会を創出
投資適格の格付を有し、7∼9%の高いインカム水準、クーポンがリセットされる証券構造、そして額面価格に対する大幅なディスカウント水準を背景に、ハイブリッド証券は、金利が長期に亘って一定の高水準を維持する環境において魅力的な投資機会を提供すると考えます。 - 銀行の業績や財務状況および新たな規制は投資家に明瞭性を提供
3月のボラティリティの上昇を経て、直近の決算やストレステストの結果は、銀行セクターの健全性を示唆しています。一方で、昨今の規制強化の動きは今後数年間にわたり同セクターのクレジットを下支えする可能性があると見ています。 - 利上げサイクルの終焉が近づいていることは、債券投資の追い風となる可能性
FRB は当面、政策金利を一定の高水準に維持すると予想されるものの、インフレおよび経済成長は鈍化基調にあります。利上げサイクル終了後、ハイブリッド証券は力強いパフォーマンスを発揮する傾向があります。
高インカム、クーポンのリセット構造、大幅なディスカウント
主に投資適格企業が発行するクレジットの質が高いハイブリッド証券は、現在、投資適格社債を大幅に上回る7∼9%の利回りを提供しています(図1)。また、ハイブリッド証券市場全体の8割以上を占める機関投資家向け(OTC)証券や偶発転換社債(CoCo債)証券の利回りは、一般的に、上場市場の証券よりもはるかに高い水準です。このような背景もあり、足元ではOTC証券の方により多くの魅力的な投資機会を見出しています。
また、永久固定利付証券が大部分を占める上場市場の銘柄とは対照的に、クーポンが固定金利からリセットされる構造を有する証券が多くを占める点も選好する理由の一つです。OTC市場のハイブリッド証券はクーポンが定期的にリセットされるため、証券がコール日にコールされなければ、時間が経過するだけで(金利が長期に亘って高水準を維持すれば)投資家が得られるインカムは大幅に増加することが予想されます(3頁、図2)。
図1
歴史的に非常に高いハイブリッド証券のインカム水準
最終終利回りの推移 (%)
2014年1月~2023年10月
OTC市場で取引されるハイブリッド証券のリセット・スプレッドのほとんどは、250∼400bpsのレンジの水準にあります。その多くは担保付翌日物調達金利(SOFR)のような短期金利でリセットされますが、中には米国5年物債のような長期金利でリセットされるものもあります。2023年10月31日現在、SOFRは5.4%、米国5年物債の利回りは4.8%です。つまり、今日リセットされる証券は7.5~10.0%の利回りを提供することになり、総じて現在のインカム水準よりもはるかに高い水準となります。そのため、短期的に見るとリセットまでの期間が相対的に短い証券への投資は特に有効なインフレ対策となり得ます。
発行体はまた、リセット日に証券を額面価格で償還する権利も持っています。しかし、リセットまでの期間が短い証券の多くは現在、額面に対してディスカウント価格で取引されているため、償還は結果的にこれらの証券のトータル・リターンを増加させることになります。また、仮に証券がコールされた場合は、投資家はその償還資金でより利回りの高い証券に投資することが可能です。
ハイ・イールド債やレバレッジド・ローン(変動金利ローンやバンクローンとしても知られる)は、ハイブリッド証券と同様に相対的に金利感応度が低いこともあり、直近において相対的に好調なパフォーマンスを発揮しています。変動金利商品は、金利上昇環境下で投資家に利益をもたらしてきました。しかし、ハイ・イールド債やレバレッジド・ローンは、税引前利回りがハイブリッド証券よりも高い一方で、(市場全体で見た場合)実質的な投資の質(投資対象のクレジットの質)はハイブリッド証券と比較すると大幅に低いものになります。例えば、ハイ・イールド債市場の平均格付けはB+で、格付機関からは「投機性が高い」と評されています。
図2
高金利環境においてクーポンのリセット構造は有利
近い将来にクーポンがリセットされるハイブリッド証券の例
スプレッドが示すハイブリッド証券の価値
図3は、OTC市場のハイブリッド証券、投資適格社債、ハイ・イールド債のオプション調整後スプレッド(米国債との比較)を示しています。このように、投資適格社債とハイ・イールド債のスプレッドは現在、過去の平均値に近いか、それを下回っています。これは、国債金利の上昇に伴う債券利回りの上昇を反映していると思われます。また、現在の景気減速がリセッションにつながる可能性は低いとの市場の見方も反映しています。
これに比べ、ハイブリッド証券指数のスプレッドは、年初に大幅に拡大した後、依然として過去平均を大きく上回っています。この価格設定を考慮すると、ハイブリッド証券は投資適格債やハイ・イールド債よりも魅力的な相対価値を有すると当社は見ています。そのため、金利上昇やクレジット環境の悪化による潜在的な下振れを吸収できる可能性は、ハイブリッド証券の方が相対的に大きいと考えます。
図3
ハイブリッド証券はハイ・イールド債と比べて魅力的な水準
オプション調整後スプレッド
2014年1月~2023年10月
額面価格に対する大幅なディスカウントは、キャピタルゲインの可能性を示唆
過去18∼24ヵ月の金利動向は、債券市場全体に、額面価格に対するディスカウントをもたらしました。ハイブリッド証券は3月の最安値から幾分か反発したものの、依然として大幅なディスカウントで取引されています(図4)。
歴史的に、OTC市場とCoCo債市場はともに額面価格に対してややプレミアムで取引されてきましたが、上場市場は若干のディスカウントで取引されてきました。現在の価格は(魅力的なインカム水準に加え)、ハイブリッド証券に潜在的なキャピタルゲインの機会を与えるものであると考えます。FRBの政策がより明確になることで、平均値への回帰が起こる可能性があると考えます。
図4
ハイブリッド証券は額面価格に対して大幅なディスカウント水準
市場別過去の平均価格
(2003年3月~2023年10月)
ハイブリッド証券市場の各資産クラスは、額面価格に対して平均11~20%のディスカウントと、歴史的に稀に見るディスカウント水準で取引されています。
銀行の業績や財務状況および新規制がもたらす明瞭性
過去数四半期の銀行セクターの決算は、同セクターに対する投資家の懸念を和らげる内容となっています。当社の見解では、最近の銀行破綻は、ファンダメンタルズにおける特異な問題に起因したものと考えています。破綻した米国の地方銀行は大幅な預金流出に見舞われ、投資家は資金調達の安定性に対して不安感を募らせました。しかし、資金調達圧力は和らいでおり、預金流出は今年第1四半期がピークで、その後は安定しています。銀行セクターの課題は依然として存在しており、銘柄選択が重要となります。そのため、当社では米国銀行のポジショニングは、主に大手行と(比率はより小さいものの)スーパー地銀(資産規模5,000億米ドル以上)を選好しています。
今年、ほぼすべての銀行が、内部留保、自社株買いの減少、バランスシートの最適化を通じて資本を増強しました(図5)。銀行が資本要件の引き上げ、規制の強化、マクロ的な不確実性に備える中、資本増強は今後も続くと予想されます。一部の銀行では、有価証券ポートフォリオに多額の含み損を抱えるなど、自己資本の改善についてのストーリーは不明瞭であり、当社の銘柄選択ではこの点を考慮しています。
図5
銀行の資本水準は2008年の約2倍を維持
主要銀行のコア資本比率
2008年6月~2023年6月
銀行セクターの預金流出は安定していますが、資金調達の競争が激化しており、高い資金調達コストがその代償となっています。そのため、純利息マージンとして知られる資産利回りと資金調達コストのスプレッドが圧迫されています。強固な資金調達力、きめ細かな預金基盤、低い預貸率を持つ銀行は、純利息マージンがより弾力的であると見ています。
クレジットの質は、幾分か低下したとはいえ、健全な状態が続いており、一部の商業用不動産(CRE)ポートフォリオを除くあらゆる分野で、貸出金償却額は長期平均を下回っています。銀行は景気減速に備え、貸出基準を厳格化し、将来の貸倒に備えて積極的に引当金を積み立てています。
FRBのストレステストは、銀行が十分な自己資本を持ち、深刻な経済環境下でも融資可能であることを確認するため、銀行の財務耐性を評価するものです。
地域金融機関は、大手銀行よりもCREローンへのエクスポージャーが高い傾向があります。当社は、これらのCREエクスポージャーを資本水準との関連で検討し、CRE貸出残高の一部に対する引当金、CREの構成(例えば、当社は、CRE貸出のほとんどの分野は、オフィスよりもはるかに健全なファンダメンタルズを有するとみる)や負債比率、満期スケジュールなどのリスク軽減要因に留意しています。
大手のクレジットの質の高い銀行を選好することに加え、保険会社や、公益事業会社、電気通信会社などの非金融会社をも選好しています。前述したように、クーポンがリセットされる構造を持つものも、金利上昇環境において有利に働くと見て選好しています。
ストレステストの結果、銀行部門の財務耐性の強さを再確認
米連邦準備制度理事会(FRB)が毎年実施している銀行ストレステストの最新の結果は、銀行システムが強固であることを裏付けています。ストレステストは、仮想的な経済環境下で大手銀行がどのようなパフォーマンスを示すかを評価するものです。テストされた全ての銀行は、世界的に深刻な景気後退というモデル化されたシナリオにおいて、最低必要資本比率を大幅に上回る自己資本比率を維持する結果となっています。
著しく不利なシナリオの下では、テスト対象となった23行の自己資本比率(CET1)は、2022年第4四半期の実績値12.4%から最低9.9%まで低下し、その後2年間の予測期間終了時には10.5%まで上昇しました。今年のテストで露呈した2.5%ポイントの低下幅は、2022年第4四半期の低下幅である2.7%ポイントより小さくなりました(ただし、近年の総合的な低下幅に匹敵する水準)。
銀行の自己資本規制の強化が信用力をさらに下支え
ハイブリッド証券最大の発行体である銀行は、厳格な安全性・健全性要件によって厳しく規制された企業です。世界金融危機(GFC)後、こうした要件は大幅に強化され、市場では13年間、特筆すべき大きなデフォルトは発生しませんでした。残念ながら、この要件は米国で2018年に議会で可決された規制緩和の影響を受けて緩和され、今年の米国の地方銀行破綻に直接影響を与えました(同様に、投資銀行業務を厳しく制限していたグラス・スティーガル法も、GFCに先行して1999年に廃止されました)。しかし、規制は再び大幅に強化される見通しであり、その結果、デフォルト率が非常に低い期間が再び長期に亘って続くと予想されます。
7月下旬、米国の銀行規制当局は、銀行システムの弾力性を高めるための規制案を発表しました。2028年までに段階的に導入されるこの措置は、国際協定であるバーゼルIIIの最終段階として以前から計画されていたものを実施するもので、今年前半に発生した銀行混乱を受けた重要な変更も含まれています(図6)。
この計画では、資本要件が引き上げられ、より厳格化された基準が広範な銀行に適用されることになります。当該措置の1つには、リスク加重資産算出のための内部モデルから、「標準化された」手法への移行があります。これにより、銀行によって異なるものの、必要資本が5~20%増加することになります。また、総資産1,000億ドル以上の全ての銀行に対し、特定の有価証券の未実現評価損益を自己資本比率に含めることを義務付けています。実際、これまでの時価評価規制の緩和(2018年の規制緩和令に由来)によって、有価証券の時価評価が行われなかったため、金利が上昇するにつれて大きな資本の穴が形成されることとなり、今年初めの銀行破綻に多大な影響を与えました。
今回の規制案の全面実施には時間を要すると思われますが、追加的な措置は、GFC後の長年にわたる厳しい規制要件のように、銀行のハイブリッド証券保有者(および債権者全般)にとって大きな追い風となり得ると考えられます。
図6
新たな規制要件は発行体の信用を更に強化
銀行規制案
利上げサイクルの終焉が近づいていることは強気材料に
インフレと経済成長が鈍化し、金融政策が抑制的な領域にあることから、FRBが過去40年間で最も積極的な利上げサイクルの終わり、もしくはその付近にいる可能性が高くなっています。歴史的に、利上げが停止すると、長短金利はその後の数四半期にわたって低下する傾向があり、債券市場、特にハイブリッド証券が好調なパフォーマンスを示す要因となります(図7)。なぜなら、利上げサイクルの終わりはインフレ率の低下と関連しているからです。さらに、成長率は通常減速するため、投資家はFRBが次に打つ手は利下げだろうと予想します。
もちろん、サイクルは様々であり、当社は、足元のサイクルでは、短期金利は緩やかに低下する可能性があると考えています。これは、インフレがコントロール不能ではないものの、依然として「粘着性」があり、当面の間FRBの目標である2%を上回る水準を維持する可能性があると考えるからです。さらに、ここ数四半期における中央銀行の積極的な引き締めは、景気後退につながる可能性があります。したがって、質の高い債券を保有し、クレジットにはやや慎重になることが賢明だと考えています。
上述の通り、当社は、クーポンがリセットされる際に金利上昇の恩恵を受けることが可能な、優れたリセット構造を有するハイブリッド証券を選好しています。短期的には、金利が高止まりしているため、コール日までの期間が相対的に短い証券(変動金利銘柄を含む)が最も有利に働く可能性があります。しかし、コール日までの期間が相対的に長い(デュレーションの長い)証券が、中期的には最も強力なトータル・リターンをもたらす可能性があると考えています。
図7
利上げサイクル後に特に力強いリターンを発揮する傾向
12ヵ月ローリングリターンと利上げ終了後12ヵ月リターン(%)
1990年1月~2023年10月
指数定義/ 重要な開示事項
投資家は当資料に記載された指数に直接投資することはできません。指数の実績は手数料や諸経費等を控除したものではありません。ボラティリティやその他の特性が特定の投資とは異なるため、指数の比較には制約があります。
米ドル建てOTC ハイブリッド証券:ICE BofA US IG Institutional Capital Securities Index は、ICE BofA US Corporate Index のサブセットで、固定金利から変動金利、永久コール可能証券、資本証券を含む米国市場で発行された米ドル建てOTC 市場のハイブリッド証券のパフォーマンスを計測。
米ドル建て上場ハイブリッド証券:ICE BofA Fixed Rate Preferred Securities Index は、米国市場で発行された米ドル建ての固定金利証券のパフォーマンスを計測。
CoCo債: Bloomberg Developed Market USD Contingent Capital Index。ICE BofA Contingent Capital Index は、米国およびユーロ債市場で公募された米ドル建ての投資適格および投資適格以下のコンティンジェント・キャピタル証券で、最終満期までの残存期間が1 ヶ月以上、発行時点で満期まで18 ヶ月以上のもののパフォーマンスを計測。Bloomberg Developed Market USD Contingent Capital Index は、発行体の規制資本比率やその他の明示的なソルベンシー・ベースのトリガーに基づく明示的な株式転換または評価損吸収メカニズムを持つ先進国市場のハイブリッド証券のパフォーマンスを計測。
米国社債:ICE BofA Corporate Master Index は、米国市場で発行された米ドル建ての投資適格社債のパフォーマンスを継続。
米国ハイ・イールド債:ICE BofA High Yield Master Index (格付: B+ ) は、米国市場で発行された米ドル建ての投資適格未満の社債のパフォーマンスを計測。
米国10債:The 10-year Treasury note は、米国政府が発行する10 年満期の国債。
過去の実績は将来の投資収益や運用成果を保証するものではありません。本資料に記載された見解や意見は発表日現在のものであり、予告なしに変更されることがあります。また、本資料に記載された市場予測が実現することを保証するものではありません。本資料は、特定の時点での市場環境に関するものであり、投資アドバイスとして依拠すべきではありません。また、特定の証券や投資の売買を推奨するものではなく、いかなる投資のパフォーマンスも予測または描写するものではありません。
当資料は、情報提供を目的としたものであり、作成時のコーヘン&スティアーズ社の見解を反映しており、信頼できると考えられる情報源を元に作成しております。当資料中に記載されている見通しや見解はその実現性を保証するものではありません。当資料は投資の助言を目的としたものではなく、コーヘン&スティアーズ社や関連会社などにより提供される金融商品やサービスのいかなる成果を保証するものではありません。
ハイブリッド証券への投資に関するリスク:ハイブリッド証券戦略への投資は、投資した元本全額を失う可能性があるなど、投資リスクを伴います。これらの有価証券の価値は、他の投資と同様に、急激かつ予測不可能に大きく変動する可能性があります。当社のハイブリッド証券戦略は、投資適格未満の有価証券およびアドバイザーが投資適格未満と判断した未格付け有価証券に投資する場合があります。投資不適格証券または同等の未格付け証券は一般的に、高格付けの証券に比べ、価格の変動が大きく、元本を割り込むリスクがあり、また、経済や競合する業界の現実または事実上の悪条件の影響をより受けやすい可能性があります。当戦略のベンチマークには、投資適格未満の有価証券は含まれていません。
デュレーションリスク:デュレーションとは、固定利付証券またはハイブリッド証券の平均残存期間を数学的に計算したもので、金利(または利回り)の変動に対する証券の価格リスクの指標となります。デュレーションの長い証券は、デュレーションの短い証券に比べて、金利(または利回り)の変動に対してより敏感に反応する傾向があります。デュレーションは、満期までの期間に加え、金利の潜在的な変化、および証券のクーポン支払い、利回り、価格、額面、コール機能などを考慮する点で満期とは異なります。ファンドのデュレーションを調整するためには、様々な手法が用いられることがあります。有価証券のデュレーションは、市場要因や満期までの時間の変化により、時間の経過とともに変化することが予想されます。
コーヘン&スティアーズ・ジャパン株式会社は、投資運用業及び投資助言・代理業者として関東財務局に登録されています。(関東財務局長(金商)第3157 号)