欠乏の時代における実物資産の投資機会

欠乏の時代における実物資産の投資機会

欠乏の時代における実物資産の投資機会

  • メガトレンドがコモディティ市場に影響をおよぼしている
    中長期的なトレンドにより多くの天然資源が不足し始めており、今後数年間にわたり多くのコモディティの価格が上昇する可能性があります。
  • アクティブ運用マネージャーにとっての超過収益の創出機会が出現
    天然資源全体の需給バランスの崩れにより、コモディティおよび金属、エネルギー、農業生産者には勝者と敗者が生み出されています。
  • 実物資産への戦略的配分の必要性
    天然資源株とコモディティは、単独投資であれマルチ戦略による投資であれ、分散型ポートフォリオにおいて戦略的に配分すべき資産クラスであると当社は考えています。

メガトレンドにより再形成されるコモディティ需要

歴史的にコモディティ需要は、人口動態と経済成長との相関を有してきました。非常に強い中長期的トレンドが世界的にコモディティに対する需要を高めていることから、この相関関係はますます高まっています。

グリーン・エネルギーへの移行

まだ初期段階ではありますが、世界的な二酸化炭素(CO2)排出量削減への取り組みは、再生可能エネルギーおよびエネルギー効率の高い技術の急速な普及を後押ししています(図1)。国際エネルギー機関(IEA)と国際通貨基金(IMF)の共同分析では、クリーン・エネルギーとエネルギー・インフラへの年間投資総額は10年後までに3倍以上になり、世界のGDP成長率を年間0.4%ポイント上乗せすると推定されています。

グリーン・エネルギー/脱炭素への移行は、ベースメタル、貴金属、農産物(バイオ燃料の原料となる砂糖、トウモロコシ、大豆など)を含む多くの原材料の需要を加速させてきましたが、こうした動きは今後も継続すると思われます。たとえば、電気自動車(EV)に使われる銅の量は、従来の自動車の3倍にもなります。世界がEVを採用し、送電線や風力タービンなど、エネルギー転換を促進するものに投資するにつれて、コモディティ需要も大きな恩恵を受けると予想されます。

もちろん、エネルギーの話題は代替エネルギーに限った話ではありません。当社が最近発表したレポート(“エネルギー転換”から“エネルギー追加”への移行は不可欠)で推論したように、経済成長により、総エネルギー需要は数十年に亘って増加し続けるでしょう。これは、従来型のエネルギー・バリューチェーンにも恩恵を与えるとみられます。

図1
クリーン・エネルギーへの投資は急増する見通し

カーボン排出量削減のための世界の年間推定支出額(兆米ドル、2019年時点ドルベース)


2021年10月31日現在。出所:国際エネルギー機関「2050年までにネットゼロ:世界のエネルギーセクターのロードマップ」。
本資料は、資料に記載の市場予測が実現することを保証するものではありません。その他の開示事項については巻末の注記をご参照ください。

世界的な中間層の増加

国連の推計によれば、今後6年間だけでも世界の人口は約5億人増加し、84億人(2050年には97億人)に達するとされています。

人口増加と都市化は長い間、資源の消費を牽引してきました。2030年までに、これまでの10年間よりも7億人も多くの人々が都市部で暮らすようになるため、人類の必要とする資源はさらに増加すると見込まれます。

さらに重要なのは、世界的な中間層(「中間消費者層」とも言われる)の急速な拡大です。中間層はすでに世界最大の消費グループであり、世界経済の3分の1を占めています。2030年までに、世界の中間層は48億人に達すると予想されています。この層の購買力は年間62兆ドルにまで上昇すると予想され、消費、ひいては天然資源の需要に大きな影響を与えるでしょう(図2)。

この成長の大半は、一人当たりのエネルギーおよび原材料の消費量が先進国よりも著しく低い発展途上国で起きています。IEAによると、現在の一人当たりのエネルギー消費量は高所得国で56,469kWhであるのに対し、中低所得国では6,658kWhとなっています。富の増大に伴い拡大する中間層は、より多くの食料、エネルギー、その他多くの生活必需品を必要とするようになるでしょう。

図2
世界的な中間層の拡大が消費拡大を牽引

人口と消費支出の増加予測


2023年11月30日現在。出所:ブルッキングス研究所、コーヘン&スティアーズの分析。
ここでいう中間層とは、一人当たり所得が、低所得国では1日11~50ドル(2011年購買力平価ベース)、高所得国では1日51~110ドルの世帯を指します。本資料は記載された予測が実現することを保証するものではありません。その他の開示事項については巻末の注記をご参照ください。

様々な構造的要因によりコモディティ供給の伸びが抑制される可能性

これからの10年は、(余剰供給が続いた結果)コモディティ価格が比較的低位で推移した過去10年間とは明らかに異なるものになると考えています。現在、多くのコモディティの在庫はそれぞれの長期平均を下回っており、多くのコモディティの供給は、今後も構造的な制約を受けると思われます。


当社は、持続的な需要と、抑制的な供給の組み合わせが、コモディティ価格の上昇をもたらすと考えています。

アクティブ運用マネージャーによる超過収益の創出機会

エネルギー

エネルギー効率化が加速し、110カ国にわたるネット・ゼロ・カーボン・エミッションの取り組みが定着しても、発展途上国における人口増加と所得の増加により、世界のエネルギー消費は数十年に亘って拡大し続ける見込みです。エネルギー市場に占める代替エネルギーのシェアは大幅に拡大すると予想されますが、同時に化石燃料の需要も大幅に増加するはずです(図3)。

世界のエネルギー市場では、石炭とバイオマスの需要が大幅に減少すると思われます。原油需要は2020年代まで伸び、2030年代には頭打ちとなり、緩やかに減少すると予想します。その後の成長は、天然ガス、原子力、風力、太陽光、水素などの再生可能エネルギーからもたらされると考えています。

資源株の分野では、エネルギー企業には次の4つの結果が想定されます。(1)新エネルギー体制に順応して成長する伝統的エネルギー事業、(2)廃れていく伝統的エネルギー事業、(3)将来成長の牽引役となる代替エネルギー事業、(4)過剰期待に応えられない代替エネルギー事業。

図3
世界のエネルギー需要は伝統的エネルギーと再生可能エネルギーの両方を必要とする

世界のエネルギー消費の構成と推定成長率


2023年11月30日現在。出所:米国エネルギー情報局。
当資料に掲載されたいかなるデータも、その正確性に関して表明や保証を行うものではなく、またいかなる予測や意見も、その実現を保証するものではありません。比率は四捨五入の関係で一致しない場合があります。その他の開示事項については巻末の注記をご参照ください。
金属

金属需要は、工業化と都市化をめぐる世界的な動向によって着実に伸びてきました。前回のスーパーサイクルは、中国の急速な工業化、都市化、資本形成によってもたらされました。

インドなど他の多くの大規模な新興国は、依然として経済発展の初期段階にあり、金属への需要が高まっています。

金属需要は、エネルギー転換のニーズによってさらに高まるでしょう(図4)。カーボン・ニュートラルの要件には、幅広いクリーン・エネルギー技術の大規模な導入が必要とされますが、その多くは銅、リチウム、ニッケル、コバルト、希土類元素などの重要鉱物に依存します。需要が価格を大幅に押し上げると、ユーザーは通常、代替品を求めるようになります。しかし、重要な場面等において、必ずしも経済的に実現可能な代替品が常にあるとは限りません。

S&Pグローバル社によれば、エネルギー転換においておそらく最も重要な要素である銅の需要は、2050年までにネット・ゼロ・エミッションを目指す経済発展に伴い、2021年から2035年の間に82%増加すると予想されています。

(1)資本コストの上昇、(2)インフレによる運営コストの上昇、(3)供給余力の継続的な低下、(4)新規投資に依然消極的な経営陣、などを考慮すると、多くの金属の限界費用は時が経つにつれ大幅に上昇すると思われます。

図4
エネルギー転換は、多くの鉱物の需要を大幅に促進

特定のクリーン・エネルギー技術に使用される鉱物


2021年5月4日現在。出所:国際エネルギー機関、”クリーンエネルギー転換における重要鉱物の役割”。
クリーンエネルギー技術に使用される鉱物と他の発電源との比較、および電気自動車に使用される鉱物と従来の自動車との比較を記載しています。ここに使用されたデータの正確性について表明または保証するものではなく、いかなる予測または意見も実現することを保証するものではありません。その他の開事項示については巻末の注記をご参照ください。
農業

所得水準の上昇、食生活の変化、人口増加により、世界は今後数十年に亘って食糧生産量の大幅な増加を必要とします。一般的に、一人当たりの平均カロリー摂取量は、一人当たりの所得が上昇するにつれて増加します。さらに所得の増加は、動物由来のタンパク質消費の増加につながります。

大豆、トウモロコシ、サトウキビなどの農作物は、人間の飼料としてだけでなく、バイオ燃料生産の原料としても利用されています。世界各国における政府のグリーン・エネルギー政策に支えられたバイオ燃料需要の増加は、2000年代半ばから2010年代初頭にかけての価格高騰の一因となった食糧対燃料の議論を再燃させています。IEAは、2027年までの5年間に世界のバイオ燃料需要が20%以上増加すると予測しています。需要の増加に対応するための原料の増産には、さらなる資源が必要となり、耕地をめぐる競争が引き起こすため、価格が上昇し、生産者に恩恵をもたらす可能性があります。

農家の効率化を可能にする技術の継続的な導入は、こうした需要に応える上で中心的な役割を果たすでしょう(図5)。アグリビジネスと農産物の将来は、1エーカー当たりの生産量を増やすことにかかっており、この移行を促進する立場にある企業は、大きな利益を得ることができます。

図5
農作物の収穫量を増やすには精密農業技術が必要

精密農業技術の平均作物収穫量への影響


2023年11月30日現在。出所:米国農務省。
過去の実績は将来の結果を保証するものではありません。精密農業技術には、全地球測位システム(GPS)を利用したトラクター誘導システム、GPSによる土壌・収量マッピング、生産方法を調整するために変化する圃場状況に関する情報を収集するための可変レート投入アプリケーションなどが含まれます。本書に記載されたいかなるデータの正確性に関しても、表明や保証を行うものではなく、いかなる予測や意見も実現されることを保証するものではありません。その他の開示事項については巻末の注記をご参照ください。
精密農業の導入と、収穫量に影響する他の要因(化学薬品、種子品種など)の最適化により、作物の収穫量を大幅に増加させることができます。

実物資産への戦略的資産配分の必要性

インフレに連動する性質を持つ資産にとって有利な社会構造への移行

旺盛な需要と限定的な供給との間に予想される需給ギャップ、労働力不足などの潜在的な問題、より選択的な貿易提携への動き、地政学的不確実性の増大の可能性を考慮すると、今後10年間のインフレ率は平均3%以上になると予想されます。また、今後10年間はインフレのボラティリティが大幅に上昇し、定期的なインフレ・ショックが発生する可能性があると考えています。対照的に、過去10年間のインフレ率は安定しており、平均2%未満でした。

この新たな市場環境は、一般的にインフレに対して高く且つポジティブな感応度を持つ資産クラスであるリアル・アセットに有利に働くと考えます。

コモディティのリターンは、過去10年間と比べて著しく改善する可能性があります(図6)。その原動力となるのは、需給の不均衡、生産コストの上昇、期待される担保リターンの上昇の組み合わせでしょう。最後の点については、過去2年間の短期金利の急上昇(そして今後も金利が長期に亘って一定の高水準を維持する可能性)により、商品先物購入のために積み立てた担保の金利収入が増加する可能性が高いと考えます。

今後10年間の天然資源関連株のリターンは、広範なグローバル株式市場のリターンを上回ると予想されます。採掘コストの上昇、規制の強化、資源の希少性、そして足元における過小投資はすべてその一因となると見られます。

同時に、資源生産者が近年直面している収益への圧力は、資本規律の強化と収益性の重視を浸透させており、これもバリュエーションを下支えする可能性があります。

図6
新体制における天然資源への期待

コーヘン&スティアーズの資本市場における期待年率リターン対過去10年間の年率リターン(%)


2022年12月31日現在。出所:リフィニティブ・データストリーム、ブルームバーグ、コーヘン&スティアーズ。
過去の実績は将来の結果を保証するものではありません。予測には本質的に限界があり、いかなる市場予測も実現する保証はありません。2013-2022年のパフォーマンスは次の通りです。天然資源株式:S&P グローバル天然資源株式指数。コモディティ:ブルームバーグ・コモディティ・トータル・リターン指数。米国株式:S&P 500種指数、EAFE株式: MSCI EAFE指数。米長期国債: ブルームバーグ米国債7-10年指数、長期債:ブルームバーグ米国アグリゲート・コーポレート債券指数。期待リターンの前提条件および追加開示については、巻末注記をご参照ください。

伝統的な株式/債券ポートフォリオのカウンターバランス

インフレ率の上昇、金利の上昇、グローバル化の進展、労働市場の逼迫、地政学的リスクの高まりを特徴とする現在の経済環境は、実物資産、特に天然資源株とコモディティに対する長期的な投資家の関心を高める可能性が高いと考えます。

天然資源株とコモディティは、単独投資であれ、あるいは分散型の実物資産ポートフォリオの配分の一部であれ、バランスの取れたポートフォリオの恒久的なポジションに値すると考えます。

持続可能な開発と脱炭素化において重要な役割を担っていることから、コモディティと資源生産者は今後10年間に平均を上回るリターンを生み出す可能性があります。歴史を振り返ると、インフレが株式や債券に最もダメージを与えるのは、それが予期せぬものであった時です。これとは対照的に、当社の分析によれば、実物資産は、実現インフレ率が事前の予想を上回る時期にこそ、力強いリターンを達成する傾向があります。

図7は、”インフレ・ベータ”と呼ぶ指標を用いて、予想外のインフレの影響を示しています。インフレ・ベータは、1年前のインフレ予想との比較における、実現インフレ率の1%の上振れサプライズに対するリターンの感応度を測るものです。インフレ・ベータがプラスの資産クラスは、一般的にインフレ・サプライズに対してポジティブに反応するはずです。例えば、下図に示すように、コモディティは歴史的に、インフレ率が前年の推定値を1%上回るごとに、長期平均を7.3%アウトパフォームしてきました。これは、実物資産が効果的なインフレ・ヘッジとして機能することを示す有力な指標であると考えます(ただし、インフレ環境下でのみ強力なリターンが生み出されるというわけではありません)。

図7
実物資産はインフレ環境下で投資家に分散効果を提供

インフレ・ベータ
1991年5月~2023年9月


2023年9月30日現在。出所:バークレイズ、ブルームバーグ、ダウ・ジョーンズ、FTSE、S&P、Rリフィニティブ・データストリーム、コーヘン&スティアーズ独自の分析。
過去の実績は将来の結果を保証するものではありません。また、そのようなトレンドがいつ始まるかを正確に予測する方法はありません。インフレ・ベータは、予想外のインフレに対するリターンの感応度であり、前年比実現インフレ率と、ラグ付き予想インフレ率の水準を含むラグ付き1年先予想インフレ率との差に対する1年実質リターンの多変量回帰ベータを計算することにより求められます。期待インフレ率は、ミシガン大学による1年先インフレ期待調査によるインフレ期待中央値を反映したものです。実現インフレ率は、米国労働省労働統計局が発表する全都市消費者の消費者物価指数(CPI)を用いて測定されます。上記の情報は、コーヘン&スティアーズが運用またはサービスを提供するファンドまたはその他の口座のパフォーマンスを反映するものではなく、投資家が上記のようなパフォーマンスを経験することを保証するものではありません。指数定義および追加開示については、巻末の注記をご参照ください。

コモディティと天然資源株の現在のバリュエーションと財務体質は、過去と比較しても魅力的です(図8)。例えば、今日の天然資源生産者は全体として、過去のサイクルに比べ、多額のフリー・キャッシュ・フローを生み出し、負債資本比率が低く、資本支出も限られています。

図8
実物資産は株式に比べて魅力的な水準

グローバル株式に対するバリュエーション・スコア


2023年9月30日現在。出所:ブルームバーグ、S&Pエクスプレスフィード、コーヘン&スティアーズ。
過去の実績は将来の結果を保証するものではありません。月次データに基づき、四半期毎のパフォーマンスを示しています。上記の情報は、コーヘン&スティアーズが運用またはサービスを提供するファンドまたはその他の口座のパフォーマンスを反映するものではなく、投資家が上記のようなパフォーマンスを経験することを保証するものではありません。上記に示された過去のトレンドが将来も繰り返される保証はなく、そのようなトレンドがいつ始まるかを正確に予測する方法はありません。バリュエーション指標は、天然資源株とグローバル株については、キャッシュフロー対株価、配当利回り、ブック・トゥ・プライスの合成であり、コモディティについては、長期インフレ調整後のスポット価格に対するスポット価格のプレミアム/ディスカウントのZスコアです。天然資源株はS&P Global Xpressfeedデータベースから構築したコーヘン&スティアーズ独自データを使用しています。グローバル株式はデータストリーム・ワールド指数を使用しています。コモディティはブルームバーグ・コモディティ指数加重実質スポット価格を使用しています。その他の開示事項については巻末の注記をご参照ください。

ブレンド型のソリューション

現在進行中の社会構造の移行を考慮すると、分散されたマルチ型資産クラスによる実物資産へのアプローチは、投資の観点から明確な利点を提供します。

  • インフレ期における良好なパフォーマンス
  • ポートフォリオ分散によるリスク調整後リターンの向上
  • 全てのサイクルを通しての力強いトータル・リターン

単一の実物資産カテゴリー(天然資源株やコモディティのほか、グローバル不動産やグローバル上場インフラ株を含む)が、分散投資、期待リターン、潜在的なインフレ対策という3つの基準すべてに優れた特効薬のようなソリューションを提供することはありません。しかし、分散型の実物資産ポートフォリオは、投資家が各カテゴリーのトレードオフをうまく調整するのに役立ち、株式や債券に集中したポートフォリオのリスク・リターン・プロファイルを効果的に高める可能性があります。

ファンダメンタルズとバリュエーションが魅力的であることから、実物資産は今後数年に亘って良好なパフォーマンスが期待できると考えます。
レポートをダ⁠ウ⁠ン⁠ロ⁠ー⁠ド
著者について
Tyler Rosenlicht タイラー・ローゼンリクトは、シニア・バイス・プレジデントで、グローバル・インフラ株式戦略チームのポートフォリオ・マネージャー兼天然資源株式戦略の統括責任者を務める。
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