ハイブリッド証券の発行体の質、格付および長期投資によって得られるもの
ハイブリッド証券の発行体の質、格付および長期投資によって得られるもの
ハイブリッド証券は、質の高い証券への投資を通じて魅力的なインカムおよびトータル・リターンを提供:追加的なリスクが存在する一方、デフォルト率は証券信用格付が示唆するよりも低い可能性
要 旨
- 市場環境の追い風が力強いパフォーマンスの継続を示唆
利上げサイクルの終焉、発行体の強固なファンダメンタルズ、魅力的なバリュエーション、証券価格が額面に対してディスカウント水準にある点を勘案すると、ハイブリッド証券の見通しは引き続き良好と言えます - 信用格付は予想デフォルト率を反映
ほとんどのハイブリッド証券の証券信用格付はBBB-からBB+のレンジ内にあり、歴史的にデフォルト率が非常に低いカテゴリーとなっています。また、デフォルトが発生した場合でも、投資家に重大な損失が及ばなかった例もあります。 - トータル・リターンがリスクへの対価の全体像を明示
投資家はハイブリッド証券への投資を通じて、シニア債への投資よりも高いトータル・リターンを獲得してきました。過去実績を振り返ると、追加的なリスクに対しても十分な対価が支払われています。
市場環境の追い風が力強いパフォーマンスの継続を示唆
2023年、ハイブリッド証券は、1-3月期において銀行セクターを巡る混乱が発生したにもかかわらず、8.2%のトータル・リターンとなり、好調なパフォーマンスを発揮した1年となりました。今後を見通しますと、引き続きハイブリッド証券に対して前向きな見方ができるいくつかの背景があります。
利上げサイクルの終焉:インフレ率の鈍化に伴い、各国中央銀行の政策金利は既にターミナル・レートに到達した可能性が高く、2024年において利下げが予想されています。1990年以降、ハイブリッド証券は米連邦準備制度理事会(FRB)による利上げ終了後12ヶ月間で平均14.2%(利上げ終了後24ヶ月間で平均8.2%)のリターンを創出しています。
発行体の強固なファンダメンタルズ:ハイブリッド証券の発行体の多くを占める銀行の自己資本水準は引き続き健全であり、資産の質も概して高い水準にあります。また、2023年に発生した銀行セクターを巡る混乱が一段の規制強化と金融機関の安全性向上につながると考えられ、これはハイブリッド証券の主要発行体を下支える追加要因になっています。
額面に対してディスカウントの水準にある証券価格:通常、額面付近もしくは額面に対してプレミアム水準で取引されているハイブリッド証券の価格が、足元では依然として額面に対してディスカウントの水準で取引されています(図1)。したがって、現在の価格水準は、キャピタル・ゲインの可能性を示唆していると考えています。
魅力的なバリュエーション:ハイブリッド証券の現在の利回り水準は、長期投資家に株式に類似するリターンを提供できる可能性があるとみています。投資適格社債やハイ・イールド債の信用スプレッドが既に過去長期平均に対してタイトとなっている状況に対して、ハイブリッド証券の信用スプレッドは過去長期平均と同程度の水準にあります(5ページの図3)。
このような背景から、ハイブリッド証券に対する投資家の理解と実態には乖離があると考えています。以降のページにて、これらのポイントについて取り上げます。
図1
額面価格に対するディスカウントはキャピタルゲインの可能性を示唆
ハイブリッド証券の市場別証券価格の推移
資本市場におけるユニークな役割
ハイブリッド証券は、資本市場においてユニークな役割を果たしています。発行体にとっては株式のように資本性を有する証券の一形態であり、規制当局や格付機関に対して自己資本/負債目標を達成するために役に立ちます。一方で、投資家にとってハイブリッド証券は債券と同様な機能を有し、固定または変動クーポンの形でインカムを獲得することができます。債券のように額面価格で発行されますが、ハイブリッド証券の価格は金利やクレジット・ファンダメンタルズの変化によって変動するため、額面価格に対してプレミアムまたはディスカウントで取引されることがあります。
以下の簡略化した企業の資本構造(図2)に示すように、ハイブリッド証券には従来型永久優先証券とハイブリッド型優先証券の2つに分類できます。従来型永久優先証券は、高水準の配当を支払う特殊な形態を有する株式として分類されており、100年以上前から存在しています。一方で、ハイブリッド型優先証券は、1990年代に誕生したより近代的な証券であり、繰延可能な長期劣後債務の一形態となっています。負債としての形態であるため、これらの証券は利子を支払います。
優先証券はその名の通り、資本構造上、普通株式よりも「優先(優位な立ち位置)」であるため、発行体が倒産する際において優先的な請求権が付与されています。ただし、一般無担保社債(シニア債)を含む債券投資家よりは弁済順位が劣後します。
図2
ハイブリッド証券は弁済順位が従来型の債券に劣後
法的弁済順位
企業がハイブリッド証券を発行する理由
企業は通常、規制当局や格付機関の定める要件を満たすためにハイブリッド証券の発行を通じて資本もしくは負債のポジションを管理します。一般的にハイブリッド証券の利回りは同一発行体が発行する債券よりもはるかに高い水準にある一方、普通株式よりもコスト効率の高い、株式と同様な形態を有する証券とされています。対照的に、社債の発行は負債比率を高めることになります。加えて、ハイブリッド証券は税務上においては負債に分類されるため、発行体は支払い利息を償却することができ、コストを更に削減することが可能となっています。
大手銀行や保険会社の多くは、(消費者保護や金融システムの安定性確保のために)規制当局によって定められている資本要件を満たすためにハイブリッド証券を発行しています。しかしながら、規制当局からの指針により、株式構成におけるハイブリッド証券の発行が制限されていることが多くあります。企業は、普通株式よりもコスト面での優位性から、資本構成の中でハイブリッド証券を最大限に活用するのが一般的です。また、格付機関がハイブリッド証券を株式として分類するため、公益企業を含む多くの発行体は良好な信用格付を獲得あるいは維持するために、ハイブリッド証券を発行することが多くなっています。特に、信用格付は通常、一般的な資金調達コストと密接に関係するため、ハイブリッド証券の発行は企業の全体的な資金調達コストの低減につながる場合があります。
債券とは異なるリスク・リターン特性
インカムを提供する資産クラスとして、ハイブリッド証券には債券と同様に金利リスク、繰上償還リスクや再投資リスクがあります。信用リスクもありますが、ハイブリッド証券が有する信用リスクはややユニークであると言えます。
支払いリスク
ハイブリッド証券は通常、債券よりも支払いリスクが高いとされています。ハイブリッド証券のうち、従来型永久優先証券は配当が支払われますが、これは本来発行体の裁量による部分が大きい(普通株式の配当に類似する)ものです。ハイブリッド型優先証券は、負債の一形態であるものの、利払繰延条項が付いています。従来の債券とは異なり、通常は5年を上限に支払いを合法的に一定期間繰り延べることができます。
通常は、発行体はハイブリッド証券の支払いを停止する前に、普通株式への配当を止める必要があります。従来型永久優先証券には、未払い分の配当が将来支払われる(事実上繰延られているだけの)「累積型」と、停止した配当を遡って支払う必要のない「非累積型」が存在します。また、ハイブリッド型優先証券の場合、繰延可能な累積型が一般的となっています。
上述のように、ハイブリッド証券はクーポンの支払いを一時的に停止することは可能ですが、実際には、支払いを停止するのは通常発行体にとって大きな経済的なストレスが生じた場合にのみ発生します。ハイブリッド証券がクーポxンを支払わないことは、発行体に危機が生じた際のシグナルと捉えられることが多く、資金調達や資本市場へのアクセスに大きな影響が及ぶ可能性があります。
ハイブリッド証券のクーポン支払い停止と、従来型社債の利払い停止を区別することは極めて重要であると考えます。社債の利払い停止は、企業には支払い能力がないことを示しており、すぐに倒産につながる可能性があります。対照的に、企業はハイブリッド証券のクーポン支払いを停止することによって内部に資金を留保しながら回復するための時間を確保することができます。興味深いことに、ハイブリッド証券の支払いが停止されたものの、支払い停止された分のクーポンが後に補填されたために、最終的には投資家にとって重大な損害が生じなかった事例もあります。
劣後性
ハイブリッド証券は資本構造において下位に位置するため、ハイブリッド証券投資家の請求権は、上位に位置するほとんどの債券投資家に劣後します。
前述の通り、ハイブリッド証券のクーポン支払いを停止した企業は必ずしも倒産に至るとは限らないものの、仮に倒産した場合はその劣後構造により、損失の回収率が低くなる可能性があります。格付機関であるムーディーズ社が2009年に発行したレポートによると、シニア債の債務不履行を伴う企業倒産において、ハイブリッド証券の回収率は15.9%であったとしています(1)。ムーディーズ社の別の調査によれば、無担保シニア社債の過去における平均回収率が37%であったことと比較しています(2)。倒産という事象は非常に複雑であり、その結果も様々に異なる場合がありますが、ハイブリッド証券の投資家は通常、シニア債の投資家よりもより大きな減損を被ると考えられます。
劣後プレミアムとしての相対的に高いインカム水準
ハイブリッド証券の投資家は通常、その負担するリスクへの対価として、弁済順位が上位にあるシニア債の投資家よりもはるかに高いインカム水準を獲得できます。同一発行体が発行するシニア債とハイブリッド証券の利回り、つまり信用スプレッドは、しはしば「劣後プレミアム」と呼ばれています。この信用スプレッドは、発行体の質、特定のハイブリッド証券の証券構造およびその他の特徴に基づいて大きく変動する可能性があります。図3は、投資適格社債、ハイ・イールド債および投資適格ハイブリッド証券の各指数の過去における信用スプレッドの推移を示しています。現時点において、ハイブリッド証券の信用スプレッドが、投資適格社債やハイ・イールド債のタイトな信用スプレッドと比較して、過去長期平均に近しい水準で取引されていることから、相対的に魅力的であると考えます。
図3
ハイブリッド証券の信用スプレッドは他の債券クラスと比較して魅力的な水準
オプション調整後スプレッド
(1) ムーディーズ・アナリティクス:Preferred Stock Default Recoveries Approach Those of Senior Unsecured Bonds(2009年11月発行)(2) Moody’s Ultimate Recovery Database、スペシャルコメント(2007年4月発行)
信用格付は予想デフォルト率を反映
ハイブリッド証券に対する投資家の最大の誤解はおそらくデフォルト・リスクでしょう。この点への理解を深めるには、まずハイブリッド証券の資本としての取り扱われ方と、格付機関がどのようにして信用格付を付与しているのかについて見ていく必要があります。
異なるタイプのハイブリッド証券は、企業に異なる資本要件を提供します。一般的に、「普通株式に近い」特性を有すれば有するほど、高い資本性要件を満たします。発行体は自社の資本性要件の目標に沿った証券構造を有するハイブリッド証券を発行します。
世界金融危機後に施行されたバーゼルIII銀行規制改革以降、銀行は非累積型永久優先証券のみが自己資本(または、「Tier1資本」)として算入できるため、普通株式に類似した優先証券の発行が必要となりました。米国以外においては、偶発転換社債(CoCo債)が資本要件を満たす証券であるため、米国以外の銀行によって幅広く発行されています。CoCo債には、発行体の自己資本水準が所定の閾値を下回ったり、もしくは、発行体に存続不可能な事象が発生した場合、元本の減額や普通株式への転換が行われるという特徴があります。
銀行が劣後債を含む従来型のハイブリッド証券を発行するケースはほとんどなくなってきたものの、他の業界においては依然として広く活用されています。保険会社、公益企業、通信会社やその他の事業会社が資本要件に関連するニーズを満たすために従来型のハイブリッド証券を発行しています。普通株式に近しい資本性が低いため、従来型のハイブリッド証券は通常、格付機関から発行額の25-75%程度しか資本算入されません。その結果として、個々の証券の構造にもよるものの、こういった証券は通常発行額の一部のみが自己資本としてみなされる形となります。
格付機関による評価
ハイブリッド証券は、負債と同じ基準で格付が付与されています。では、格付機関はどのようにしてこれらのハイブリッド証券が有する構造の複雑さを格付に反映させているのでしょうか。
格付機関はまず、ファンダメンタルズ要因に基づき、企業の信用度に対するベースラインとしての見解を設定します。その後、各証券の特性を考慮し、ハイブリッド証券(およびその他の証券)の格付けをベースラインからノッチを上げ下げする形で調整します。発行体や証券構造にもよりますが、ハイブリッド証券の格付けは同発行体の弁済順位の高い社債の格付よりも最大で6ノッチ低くなることがあります。ノッチの幅は弁済順位の高い社債の格付が低いほど広くなり、これは不払いの可能性に対する認知を反映しています。
注目すべきは、格付機関はハイブリッド証券のクーポン支払い停止をデフォルトとみなしていることです。発行体は社債のクーポンの支払いを停止することなくハイブリッド証券のクーポンの支払いを停止することができるため、格付機関はハイブリッド証券のデフォルト率を社債よりも高いとみなしています。そのため、格付機関は通常、このデフォルト・リスクの高さを反映させるためにノッチを調整します。また、倒産した際におけるハイブリッド証券の回収率の低下の可能性を反映し、信用リスクをも反映する形でノッチを追加することもあります。その結果、ハイブリッド証券は、相対的に高いデフォルト率と、倒産を伴うデフォルトが発生した場合の影響がより深刻であるという2点から、より低い格付を付与される傾向にあります。
ハイブリッド証券であれ、社債であれ、格付が同じであれば予想デフォルト率も同じ
格付機関は、ハイブリッド証券のリスクを綿密に計算し、同証券を弁済順位の高い債券やその他の負債と同じ尺度で評価しています。ハイブリッド証券であれ、シニア債であれ、その他の債務証券であれ、格付が同じであれば、その平均デフォルト率は同じであることが予想されます。
2012年のムーディーズ社の調査では、ハイブリッド証券に対する同社の格付手法の頑健性が示されました。調査報告書では、同社が格付を付与したハイブリッド証券の減損率(デフォルトもしくは不払い)は、「グローバルな企業および格付カテゴリー別の平均累積デフォルト率と同程度である」と結論づけました(3)。
図4は、証券のデフォルト率が格付と相関関係にあり、格付の低い証券ほど過去におけるデフォルト率が大幅に上昇することを示しています。この結果は、S&Pグローバル社が最近行った、グローバルな金融機関(ハイブリッド証券の主な発行体)の格付カテゴリー別の過去におけるデフォルト率の平均に関する調査から得られたものです。ほとんどのハイブリッド証券の格付はBBB-/BB+のレンジ内にあり、このカテゴリーにおいて歴史的にデフォルト率が1%未満と非常に低水準に留まっています。過去に示すデータが将来の結果を完全に予測することはできませんが、過去の長い歴史の中においてこのような前例が存在することは事実です。
また、このS&P社の調査では、銀行および保険会社におけるデフォルト率は世界的に非常に低水準であり、世界金融危機を含む過去40年間においては約0.5%に留まっていることも示されています。
ノンバンク金融機関のデフォルト率についても低水準に留まっていることが見て取れます。このデータは、発行体の格付が考慮されていませんが、大手の金融機関のほとんどが高い発行体格付と強固なバランスシートを有していることを認識しておくことが重要です。これは、規制要件と市場要件の両方に起因しており、これらの発行体は質の高い発行体だけが享受できるメリットである低い資金調達コストを優先するためです。銀行規制に関しては、後段で取り上げます。
図4
デフォルト率は一般的に信用格付に連動
金融サービス業界の加重平均デフォルト率(%)
1981年‒2021年
グローバルな業種別年間デフォルト率(%)
デフォルト:追加的なリスクへの対価は支払われているのか
ハイブリッド証券において重要なのはデフォルトのみではありません。ハイブリッド証券の複雑さとそれに関連するリスクが存在することから、ハイブリッド証券の発行は通常、底堅く且つ予測可能な収益と資本を有する優良企業に限定されています。ハイブリッド証券の主な発行である銀行、保険会社や公益企業は、相対的に厳しい規制下にある機関であり、当局によって厳格な監督を受けることが投資家の安心感につながっています。前述の通り、これらのセクターのデフォルト率は歴史的に見ても非常に低い状況です。しかし、ハイブリッド証券のクーポン不払いの状況があったとしても、最終的に投資家に重大な損害が及ばなかったケースがあることを理解しておく必要があります。
投資家に重大な損害を与えなかったハイブリッド証券のクーポン支払い停止に関する興味深い事例の一つに、2000年から2001年にかけてのカリフォルニア州の電力危機が挙げられます。同時期において、電力会社であるPG&E社とサザン・カリフォルニア・エジソン社は、エンロン社による電力価格操作事件を背景に経営危機に陥りました。深刻な状況を受け、これらの電力会社2社は累積型ハイブリッド証券のクーポンの支払いを停止しました。幸いなことに、カリフォルニア州議会の支援を受け、数ヶ月で状況は回復しました。両社とも、複利計算された利息分も含め、すべての繰延されたクーポンを速やかに支払いました。その結果、ハイブリッド証券の投資家は、いわゆるデフォルトの状況に陥ったにもかかわらず、重大な損失を被ることはありませんでした。
カリフォルニア州の公益企業に関するこの事例はやや楽観的なシナリオではあるものの、企業のファンダメンタルズが回復した場合においては、ハイブリッド証券の投資家はある程度(場合によっては大幅な)価値回復を経験する傾向があると考えられます。したがって、ハイブリッド証券の投資家にとって最悪な結果となるのは企業倒産であり、これは資本構造にかかわらずすべての投資家に影響を与えます。世界金融危機時におけるリーマン・ブラザーズ社の倒産はその典型的な事例といえます。この事例では、社債およびハイブリッド証券の投資家を含む全投資家が多額の損失を被りました。
ハイブリッド証券のクーポンが支払い停止の状況になった場合でも、最終的には投資家に重大な損害が生じなかったケースも存在します。
トータル・リターンがリスクへの対価の全体像を反映
前述の通り、ハイブリッド証券のデフォルトの結果は大きく異なる可能性があります。したがって、ハイブリッド証券に関連する信用リスクへの対価を正確に理解するためには、デフォルト率のみでなく、実際に生じた損失も評価しなければなりません。その最善の方法は、トータル・リターンに着目することであると考えます。
図5に示す通り、投資適格ハイブリッド証券の過去10年間におけるリターンは、投資適格社債と比較した場合、インカム・リターンとプライス・リターンの両面において良好でした(年率トータル・リターンは投資適格ハイブリッド証券で4.6%、投資適格社債で2.6%)。
ハイブリッド証券のアウトパフォーマンスの大きな要因は、大幅なインカム・ゲインにあります。加えて、(クーポンがリセットされる構造を有する)ハイブリッド証券は社債よりもデュレーションが相対的に短いため、期間中において優れたプライス・リターンを発揮しました。また、プライス・リターンには、証券の質、デフォルトや減損による影響をほとんど受けていないことが反映されています。当社が知る限りにおいて、投資適格の証券格付を有するハイブリッド証券は指数ベースで減損が発生していません。
また、2023年に破綻したシリコンバレー銀行が発行する証券をも含む投資適格未満の証券格付を有するハイブリッド証券(平均格付BB+、投資適格の一つ下位のレーティング、ハイ・イールド債よりも上位のレーティング)のリターンをも示しています。データが示す通り、投資適格未満のハイブリッド証券のプライス・リターンは、投資適格のハイブリッド証券のそれよりも劣後する格好となりました。しかしながら、投資適格未満のハイブリッド証券が生み出すインカムは、マイナスのプライス・リターンを補って余りあるものとなりました。その結果、投資適格のハイブリッド証券をも上回るトータル・リターンを創出しました。
図5
ハイブリッド証券のインカムは追加的なリスクを十分に補償
過去10年における年率トータル・リターンの内訳(%)
ハイ・イールド債は、歴史的に投資適格のハイブリッド証券よりも相対的に高いインカムを提供してきたにもかかわらず、過去10年間におけるトータル・リターンは、投資適格のハイブリッド証券を下回る結果となりました(投資適格ハイブリッド証券が4.3%でるのに対し、ハイ・イールド債は4.6%)。データで示している通り、ハイ・イールド債のプライス・リターンのマイナス幅がプライス・リターンのプラス幅よりも大きかったことが背景に挙げられます。
このパフォーマンスの相違は、証券のデュレーションよりも、デフォルト率や信用力の低さに起因していると考えられます(実際、ハイ・イールド債はデータで示す各債券クラスの中でも最もデュレーションが短い)。ハイ・イールド債市場の平均格付はB+に留まっており、一般的に高いデフォルト率が予想されるカテゴリーに属します。図4では、S&Pグローバルの調査によると同カテゴリ―に属する金融発行体のデフォルト率は年率で1.8%の水準にあります。図6では、ハイ・イールド債と投資適格社債のデフォルト率に大きな差があることを示しています。
ハイブリッド証券の相対パフォーマンスは金融セクターのファンダメンタルズに依拠
発行体の大半を金融機関が占めていることから、ハイブリッド証券市場が金融不安の時期においてしばしば困難に直面するのは理解に難くないでしょう。図7(11ページ)では、世界金融危機を含む過去20年間のリターンの推移を示しています。投資適格のハイブリッド証券は、ハイ・イールド債のパフォーマンスを下回ったものの、同期間において投資適格社債をアウトパフォームしています(投資適格未満のハイブリッド証券の指数は2012年12月31日に設定されています)。
2023年に生じた銀行不安を背景とした銀行セクターのボラティリティの高まりを考慮し、直近の影響をご確認いただくために過去5年間におけるリターンも示しており、また、比較的新しいCoCo債指数のデータも含めています。過去5年ベースでも、投資適格のハイブリッド証券のリターンは魅力的であり、同期間における価格下落はハイ・イールド債の方がより大きい状況でした。注目すべきは、2023年においてクレディ・スイスが発行するCoCo債において評価損の計上があったにもかかわらず、CoCo債指数の過去5年のリターンは投資適格社債を大幅に上回っています。
図6
通常の景気循環によるデフォルトが、ハイ・イールド債のインカム面の優位性を相殺
米国における過去12ヶ月のデフォルト率(%)
図7
世界金融危機による大きな苦境を経ても、ハイブリッド証券は投資適格社債をアウトパフォーム
過去20年および過去5年における年率トータル・リターンの内訳(%)
銀行の信用力の周期性には銀行規制が関係
過去における銀行破綻の歴史を見ると、公に格付が付与されている大規模な銀行のデフォルト率は長期にわたって低いことが示唆されています。図4で示したS&Pグローバルの調査(過去40年間)はこの傾向を明らかにしており、年間のデフォルト率は約0.5%に留まっています。この調査機関には、1980年代に米国で起きた貯蓄貸付組合(S&L)の破綻問題や世界金融危機が含まれています。
銀行破綻は周期的に発生する傾向があり、共通の要因が複数の破綻を引き起こします。1995年に発生したベアリングス銀行の破綻(不正なトレーディングが引き金)のように、個別の銀行の特有な理由によって大きな銀行が破綻した事例もあるものの、銀行セクター全体のリスクは概して循環的なものであるとみています。
図8(12ページ)は、1970年以降の米銀破綻の周期性を示しています。この米連邦預金保険公社(FDIC)のデータは、ほとんど公募証券の発行残高がなかった中小銀行や相互会社を含むすべての銀行を網羅しています。1980年代にはS&L危機が発生し、多くの金融機関が破綻に追い込まれました。これは、高いインフレとFRBの積極的な利上げにより、資産と負債のミスマッチが大きくなったことが主な要因でした。さらに、S&Lは当初、預金金利に上限を設けられるというやや不統一的な規制を受けていたことも原因となりました。第2次銀行破綻は、言うまでもなく、世界金融危機です。1994年から2007年にかけての銀行倒産件数が平均で1年あたり2件となっており、2014年から2023年にかけても、同様に少ない状況でした。
景気変動は銀行のバランスシートに影響を与えますが、銀行規制が果たす役割も同様に重要です。当社の他のレポートでも言及している通り、銀行の規制強化は歴史的に銀行の信用力の追い風となり、投資家にとってプラス要因をもたらしてきた一方で、規制の緩和は警戒を高める必要があることを示しています。
世界金融危機以前は、特にグラス・スティ―ガル法の廃止に象徴されるように、銀行規制が緩和された時期がありました。この法律は世界大恐慌時代に制定され、銀行による投資銀行業務への参入を制限していました。同法律が廃止されたことで、銀行はそれ以前よりもはるかに大きなリスクを負うことが可能となりました。そして世界金融危機を受けて、銀行規制が大幅に強化されたことで、その後の10年は大規模な銀行破綻は起きませんでした。
残念ながら、銀行規制は大手銀行を対象としたものを除いて2018年に再び緩和され、この規制緩和に伴い、銀行破綻もまた増加しました。とりわけ、2023年に破綻した銀行には、売却可能な有価証券でさえ「時価評価」が義務付けられていませんでした。もし時価評価をしていれば、自己資本を増強せざるを得ず、破綻を回避できたかもしれません。
規制当局は現在、銀行規制の大幅強化へと再度舵を切っています。FRBは規制強化案の概要を記した1,100ページから成る報告書を発表しました。この規制改革により、少なくとも今後数年間にかけては銀行システムが強化されると予想します。こうした観点から、今後数年間にわたりハイブリッド証券が力強いパフォーマンスを発揮する余地があると考えています。
図8
銀行規制の強化は通常、ハイブリッド証券の投資家にとってクレジット面における追い風となる
米国の銀行破綻、1970年―2023年
まとめ
ハイブリッド証券は、発行体に対しては資本性を、投資家に対しては高いインカムの獲得機会を提供する複雑な構造を有する資産クラスです。ハイブリッド証券は、シニア債に比較するとクーポンの不払いリスクが高く、且つ劣後リスクも高い特徴があります。しかしながら、投資家はそれらリスクを軽減すべく発行体に一定の高い質を求める傾向があるため、ハイブリッド証券は通常、優良企業から発行されています。
格付機関は、資本構造上におけるハイブリッド証券の立ち位置とそれに付随する追加的なリスクを認識し、同一発行体が発行するより弁済順位が上位にある証券(シニア債等)よりも低い格付を付与しています。このような相対的に低い格付は、ハイブリッド証券が有する追加的なリスクを調整することを目的としており、ハイブリッド証券の質を他の類似する格付を有する資産クラスと比較できるようにしています。格付機関が行った研究では、過去における信用力に関わる各事象の発生を考慮すると、こうした格付調整の正確性がほぼ裏付けされています。例えば、BBB格付を有するハイブリッド証券のデフォルト率は、BBB格付のシニア債のデフォルト率と同程度だったことが示されています。
過去の実績が示すように、投資家はハイブリッド証券に投資することでシニア債よりも相対的に高いリターンを獲得することができます。トータル・リターンは関連するリスクへの対価を包括的に示すものであり、ハイブリッド証券は歴史的に魅力的なトータル・リターンを提供してきました。概して、ハイブリッド証券から成る分散されたポートフォリオを有する長期投資家は、同資産クラスに内在するリスクに対して十分な補償を得られていると考えています。
レポートをダウンロードする指数定義/重要な開示事項
投資家は当資料に記載された指数に直接投資することはできません。指数の実績は手数料や諸経費等を控除したものではありません。ボラティリティやその他の特性が特定の投資とは異なるため、指数の比較には制約があります。
ハイブリッド証券:投資適格:OTC市場:ICE BofA US IG Institutional Capital Securities Index(平均格付BBB)は、ICE BofA US Corporate Index のサブセットで、固定金利から変動金利、永久コール可能証券、資本証券を含む米国市場で発行された米ドル建てOTC市場のハイブリッド証券のパフォーマンスを計測。投資適格未満:ICE BofA High Yield Fixed Rate Preferred Securities Index (平均格付BB+)は、 米国市場で発行された米ドル建て固定金利ハイブリッド証券のパフォーマンスを計測。CoCo債:Bloomberg Developed Market Contingent Capital Index (平均格付BB+)は、発行体の自己資本比率やまたはその他のソルベンシー・マージン比率等の明示的なトリガーに基づく普通株式への転換または損失吸収メカニズムを有する先進国市場で発行された資本性を有するハイブリッド証券のパフォーマンスを計測。投資適格社債:ICE BofA Corporate Master Index (平均格付A-)は、米国市場で発行された米ドル建ての投資適格社債のパフォーマンスを計測。ハイ・イールド債:ICE BofA High Yield Master Index (平均格付B+) は、米国市場で発行された米ドル建ての投資適格未満の社債のパフォーマンスを計測。米国地方債:ICE BofA Municipal Master Index(平均格付AA-)は、米国の州、準州およびその政治的下部組織が米国市場で公的に発行する米ドル建ての投資適格非課税債券のパフォーマンスを計測。米国債:ICE BofA U.S. Treasury Indexは、米国政府が国内市場で公的に発行する米ドル建てソブリン債のパフォーマンスを計測。
過去の実績は将来の投資収益や運用成果を保証するものではありません。本資料に記載された見解や意見は発表日現在のものであり、予告なしに変更されることがあります。また、本資料に記載された市場予測が実現することを保証するものではありません。本資料は、特定の時点での市場環境に関するものであり、投資アドバイスとして依拠すべきではありません。また、特定の証券や投資の売買を推奨するものではなく、いかなる投資のパフォーマンスも予測または描写するものではありません。
当資料は、情報提供を目的としたものであり、作成時のコーヘン&スティアーズ社の見解を反映しており、信頼できると考えられる情報源を元に作成しております。当資料中に記載されている見通しや見解はその実現性を保証するものではありません。当資料は投資の助言を目的としたものではなく、コーヘン&スティアーズ社や関連会社などにより提供される金融商品やサービスのいかなる成果を保証するものではありません。
ハイブリッド証券への投資に関するリスク:ハイブリッド証券戦略への投資は、投資した元本全額を失う可能性があるなど、投資リスクを伴います。これらの有価証券の価値は、他の投資と同様に、急激かつ予測不可能に大きく変動する可能性があります。当社のハイブリッド証券戦略は、投資適格未満の有価証券およびアドバイザーが投資適格未満と判断した未格付け有価証券に投資する場合があります。投資不適格証券または同等の未格付け証券は一般的に、高格付けの証券に比べ、価格の変動が大きく、元本を割り込むリスクがあり、また、経済や競合する業界の現実または事実上の悪条件の影響をより受けやすい可能性があります。当戦略のベンチマークには、投資適格未満の有価証券は含まれていません。
デュレーションリスク:デュレーションとは、固定利付証券またはハイブリッド証券の平均残存期間を数学的に計算したもので、金利(または利回り)の変動に対する証券の価格リスクの指標となります。デュレーションの長い証券は、デュレーションの短い証券に比べて、金利(または利回り)の変動に対してより敏感に反応する傾向があります。デュレーションは、満期までの期間に加え、金利の潜在的な変化、および証券のクーポン支払い、利回り、価格、額面、コール機能などを考慮する点で満期とは異なります。ファンドのデュレーションを調整するためには、様々な手法が用いられることがあります。有価証券のデュレーションは、市場要因や満期までの時間の変化により、時間の経過とともに変化することが予想されます。
コーヘン&スティアーズ・ジャパン株式会社は、投資運用業及び投資助言・代理業者として関東財務局に登録されています。(関東財務局長(金商)第3157号)