実物不動産投資における商業施設の復興の兆し

実物不動産投資における商業施設の復興の兆し

実物不動産投資における商業施設の復興の兆し

生活必需品を中心に取り扱う小売店舗が主に入居する屋外型ショッピング・センターの不動産価格は底打ちしているが、ほとんどの投資家はその事実をまだ十分に認識していない

  • 生活必需品を中心に取り扱う小売店舗が主に入居する屋外型ショッピング・センターの不動産価格は底打ち
    米国の実物商業用不動産ファンドの価値は、平均的にはさらに下落する余地がありますが、その中でも生活必需品を中心に取り扱う小売店舗が主に入居する屋外型ショッピング・センターの不動産価格は既に底打ちしていると当社は考えています。
  • 適応力が高く、経営状態の健全な小売企業の業績は好調
    適応力が高く、経営状態の健全な小売企業は、小売業界の大きな変調を生き抜いただけでなく、インターネットに強いビジネス・モデルによって好調な業績を上げ、新規物件供給が極めて少ないなかで小売業界全体の復興を牽引しています。
  • 投資機会が到来
    当社は、収益成長の持続的な加速と相対的に高い直接利回りが合わさり、当面ショッピング・センターの投資パフォーマンスが押し上げられると考えていますが、市場はこの事実をまだ十分に認識していません。

実物不動産の再評価が進む一方、ショッピング・センターの価格は底打ち

多くの市場参加者は、米国の実物不動産ファンドの価値が底打ちしたと主張しようとしていますが、それを信じてはなりません。

不動産利回りが借入コストを持続的に下回っていることは、倉庫、集合住宅、物流施設などの人気の高い物件タイプの利回りがさらに上昇する必要があることを示唆しています(図1)。ネガティブ・レバレッジの状況がハッピーエンドを迎えることは稀です。

図1
商業用不動産の再評価が進行中

Green Streetのセクター・キャップ・レート、米国債利回り(10年物)、平均借入コスト(1)

実際、当社は2024年を通じて、上場REITの価格は2023年終盤に底打ちしたものの、米国の実物商業用不動産ファンドの価値は平均的にさらなる下落余地があると一貫して主張してきました。現在もこの主張を裏付ける証拠となる現象は見られます。

しかし、当社が既に底打ちしたと考えている物件タイプが一つあります。それはショッピング・センターであり、さらに具体的には、生活必需品を中心に取り扱う小売店舗が主に入居する屋外型ショッピング・センターです。

小売業界における大きな変調

長年にわたり、米国は小売店舗が過剰な状態にありました。戦後の郊外開発と州間高速道路網の整備が進んだことで、住宅街の近隣に平屋建ての地域密着型のショッピング・センターが急増しました。

小売企業は店舗の出店に対して、また不動産開発会社は建物の建設に対して非常に積極的でした。両者は協力して、往々にして需要に先行し、地方の各所にこうしたショッピング・センターを建設しました。

2000年代前半には、小売企業の販売効率が低下し、商業施設の稼働率と賃料収入も落ち込むケースが急増しました。このような状況は、世界金融危機の間において建設活動への融資が停止されたことで終わりを迎えました。

さらに、インターネット、eコマース、そしてAmazonの普及が、冴えない小売企業と財務状態が悪化した商業施設の所有者との脆弱な同盟に強烈なパンチを食らわせる形となりました。その結果、2010年代後半にかけて、小売業界には大きは変調が訪れました。

かつては投資家たちに信頼性の高いキャッシュフローを生み出す印象を与えていたショッピング・センターでしたが、その選好も失われました。

そして、商業施設において賃料体系は有効性を失いました。入居を継続する信用力の高い小売テナントは、低水準の賃料で多額の改装工事費用と長期の更新オプションを要求し、それを受け取りました。多くの投資家は投資するショッピング・センターの損切りを行いました。それでも投資をし続けていた投資家も、何とか手放そうとしました。

しかし、2017年には、事態は既に手遅れとなっていました。Amazonが小売商品の各カテゴリーで仲介業者を次々と排除するにつれて、同社の株価は上昇を続けました。まるで実店舗は時代遅れの代物になったかのようでした。スマートフォン、倉庫、配送トラックは、消費者が商品を受け取るための新たな物流システムになりました。

コロナ禍で実店舗の閉鎖が相次ぎ、eコマースとそれに伴う倉庫の需要が急上昇しましたが、これは上記のトレンドの究極の帰結になると予想されました。2017年以降に破産した実店舗を展開する小売企業は次の通りで、ほとんど信じられないほどの数となりました。具体的には、Toys “R” Us、Brooks Brothers、JCPenney、Lord & Taylor、Lucky Brand、Century 21、Sears、Guitar Center、Nine West、The Limited、Barneys、Diesel、True Religion、Modell’s、Neiman Marcus、J.Crew、Francesca’s、Brookstone、GNC、Gymboree、Pier 1、Bed Bath & Beyond、Claire’s、Forever 21などです。

小売店舗・企業の先行きは、これ以上ないほど暗い状態となりました。しかし、小売店舗・企業の終焉をめぐる報道は大幅に誇張されており、水面下では商業施設の復活の兆しが見え始めていました。

その背景として第一に、新たなショッピング・センターの建設のペースは、すべての主要な物件タイプの中で最も低水準にとどまっています(図2)。2008年には1億2,000万平方フィート以上もの新たなショッピング・スペースが建設されていました。しかし、建設は世界金融危機後の2年間で急速に落ち込み、低調に推移した後、500万平方フィートが竣工した2022年に底打ちしました。

一方、米国経済の成長は続いており、米国の消費者は消費意欲を失っていません。過去10年以上にわたって店舗(純店舗面積)の拡大が1%未満にとどまっていますが、小売売上高は年率3%のペースで安定的に成長を続けています。

図2
ショッピング・センターの供給減少が稼働率上昇を後押し

商業施設の復興:実店舗の新たな有用性

小売業界の大きな変調によって、進化論を思わせる大規模な創造的破壊が発生しました。特に適応力の高い企業は生き残り、経営状態の健全な小売業者や商業施設は自らをさらに強化しました。

小売業界の中で、ビジネス・モデルの面において倉庫ベースとしたeコマースに劣るセグメントは淘汰されました。経営状態が脆弱な小売業者や商業施設も同様です。一方で、特に強い小売企業は、大きな変調を生き抜くにとどまらず、好調な業績を上げ、eコマースの脅威に対してより強靭なビジネス・モデルへ移行しているのです。

実店舗小売の中で最大の割合を占める食料雑貨店は、倉庫からの配送によって代替できないことが明らかになりました。物流が極めて煩雑で、利益率が低すぎるからです。

同時に、オムニチャネル小売(実店舗がオンライン注文の処理を支援する「クリック&コレクト」など)が新たな現実となっています。TargetとWalmartのオンライン注文の大部分は、現在、実店舗で処理されています。

実店舗に代わる選択肢が台頭した今日、実店舗ベースの小売業者はもはや独占的に振る舞うことはすでに不可能です。こうした企業は、顧客が実店舗へ出向く理由として、すなわち体験や付加価値を提供する必要があります。

一部の企業(Warby Parker、Bonobos、Teslaなど)は実店舗をショールームとして利用しつつ、返品を受け付けるために実店舗を活用しています。返品は多くのeコマースのみを提供する企業にとって利益を圧迫する要因であり、顧客にとっては面倒なものです。

その他、Home DepotやCostcoなどは実店舗を主に配送センターとして活用しています。注目すべきことに、eコマースの売上高は、実店舗が近隣に存在する地域で大幅に高くなる傾向にあります。消費者から近い距離にある実店舗は、極めて有効な「ラストワンマイルの倉庫」となることが可能です。

また当然ながら、美容サービス、フィットネス・センター、飲食、医療サービス、娯楽など、多くのサービス業セグメントが明確な理由から仲介業者の排除による影響を受けにくいことが証明されています。これらのセグメントは、ショッピング・センターの中で繁栄しています。

当社の見解では、実店舗を中核とするオムニチャネル・モデルの登場は、オンライン/倉庫ベースの小売業者が実店舗ベースの小売業者から大きな市場シェアを奪う時代が終わりを迎えつつあることを示しています。あらゆる業態の成功した小売業者が現在、より実店舗を活用しようと進めています。

実店舗による反撃は有効に機能しているのです。

オムニチャネルの競争:Walmart対Amazon

WalmartとAmazonの2社は米国と世界で最大手の小売業者であり、両社のビジネス・モデルの検討は示唆に富んでいると考えます。

Walmartは100%実店舗ベースの小売業者として創業され、オンライン販売へ急速に移行しています。Amazonは100%オンライン小売業者(100%倉庫ベースの配送を伴う)として創業され、逆に実店舗ベースの小売事業への参入を試みています。

Amazonによる実店舗ベースの注文処理への移行に比べて、Walmartのオンライン販売への進出に大きく成功しています。Walmartは6,000億ドルの売上高のうち820億ドルをオンラインで生み出しており、その半分を実店舗で処理しています。

Walmartは、数十億ドル規模にも及ぶ試行錯誤を経て、オンラインの受注処理のフロントエンドを開発した後、eコマースの売上高を急速に成長させました。これは同社が非常に効率的で収益性と拡張性の高い実店舗ベースの商品配送システムを構築していたからです。

それとは対照的に、Amazonは実店舗ベースの拡大に繰り返し挑戦しているにもかかわらず、同社の小売売上高3,430億ドルのうち、実店舗の売上高はわずか200億ドルにとどまっています。買収したWhole Foodsの成功を除くと、Amazonによる実店舗ベースの商品販売への参入の試みは成功していません。Amazon Go、Amazon Books、Amazon 4-star、Amazon Freshはそれぞれ鳴り物入りでサービスを開始しましたが、計画通り広範囲に出店することはできていません。

より幅広いカスタマー・ソリューション(ウェブによって強化された実店舗でのショッピング、伝統的な実店舗での「カート」によるショッピング、店頭や駐車場での商品受け取り)を提供するというAmazonの取り組みは、同社が大規模な小売店舗のネットワークを持ってこなかったことによって足かせとなっています。同社はこうしたオムニチャネルの事業機会を獲得し損なっています。

顧客の居住地の近隣にすでに存在する店舗網の戦略的価値は、重要で有効利用が可能な、ますます役立つ競争優位性となっています。主要な実店舗ベースの小売業者(Walmartとその同業他社、特にTarget、Home Depot、Costcoなど)は、低コストで収益性が高い実店舗ベースの注文処理システムを確立しています。一方、Amazonはこうした実店舗ベースの優位性からますます締め出されているように見えます。

投資機会が浮上

商業施設の開発が長年にわたって非常に低水準で推移し、小売業者の再活性化によって実店舗の需要が新たに高まった結果、今やショッピング・センターは米国で最も稼働率の高い主要な商業用不動産となっています(図3)。

現在、商業施設の不動産所有者は有利な立場にあります。改装工事費用の水準は低下しており、コストのかかる共同テナント条項は削除されています。売上高の一定割合を賃料として支払う契約はますます稀になっています。当社は、旺盛な需要と非常に限定的な供給が相まって、商業施設の賃料の伸びが加速すると予想しています。

図3
屋外型ショッピング・センターの稼働率は高水準でかつ引き続き上昇傾向

主要物件タイプの稼働率

しかし、多くの不動産投資家が商業施設に対して依然として懐疑的であるのは無理もないことでしょう。過去20年間において、NCREIFベンチマークにおける商業施設の収益の年平均成長率は、あらゆる物件タイプの中で最低水準となる1%でした。

さらに、投資パフォーマンスも低調となりました。これはリースの収益性が悪化し、営業利益の伸びが予想を下回ったことで、最終的にバリュエーションが低迷したためでした。その結果、コロナ禍の苦境以降、投資家のセンチメントの悪化につながっており、一般的な不動産購入者の多くは資金調達ができないことを理由に様子見姿勢を取っています。

当社は当面の環境が非常に魅力的であると考えています。事実、足元の指標は回復してきています。所有者は新たに有利な立場に立ったことを認識し、それを活用しています。屋外型ショッピング・センターは、賃料の伸びが加速している唯一の主要な物件タイプです。

契約更新時における賃料と営業純利益の年間成長率のさらなる加速が見込まれると当社は考えています。資本価値が再調達原価の水準を大幅に下回る中で、新たな商業施設の供給の復活にはしばらく時間かかりそうです。

市場の賃料、ひいては不動産レベルのキャッシュフローには、非常に大きな成長の余地があると思われます。それにもかかわらず、投資利回りは歴史的に高い水準にあり、重要なことにシニア・モーゲージの負債コストを上回っています。

それとは対照的に、倉庫の賃料は過去最高水準にあり、利回りは過去最低水準に近いため、資本価値は再調達原価を大幅に超過しています。その結果、当然ながら、開発業者は賃貸倉庫物件の建設コストと資本価値の間の大きな利益ポテンシャルを活用しようとしており、過去最高のペースで新規物件の建設が進んでいます。

この建設ブームは、需要の伸びの鈍化と同時に起こっています。倉庫の賃料の伸びは減速、或いは明らかに低下基調にあります。それにもかかわらず、実物不動産ファンドが投資する倉庫の利回り、すなわち「キャップ・レート」は依然として過去最低に近い水準にあり、現在の借入コストを大幅に下回っています。これにより資金の借り換えは困難になります。当社は今後問題が発生すると考えています。

ショッピング・センターの分野では、マルチプルと業績が共に底打ちするという極めて稀な一致が起きています。こうしたファンダメンタルズとバリュエーションの大きなミスマッチは、一般的にあまり長続きせず、いずれ調整が始まります。

一方で、他の主要な物件タイプに対するショッピング・センターの相対的なパフォーマンスは、底打ちして上昇しています。金利の上昇によって不動産利回りが押し上げられたことで、ショッピング・センターの価値は2022年と2023年に速やかに調整されました。しかし、ショッピング・センターは以前から長年にわたって低迷していたため、歴史的な高値から下落した他の物件タイプに比べて、早期に底打ちした格好となりました(図4)。

図4
直近のサイクルの勝者が再び勝者となる可能性は低い

実物不動産におけるセクター別パフォーマンスのパターン

当社は、収益成長の持続的な加速と相対的に高い直接利回りが合わさり、当面ショッピング・センターのパフォーマンスが押し上げられると考えています。この現実を市場はまだ十分に認識していません。こうした状況が続く間、当社はこの商業施設の復興を積極的に活用した資本配分を行います。

レポートをダ⁠ウ⁠ン⁠ロ⁠ー⁠ド
著者について
James Corl ジェームズ・コールはエグゼクティブ・バイス・プレジデントで実物不動産戦略統括責任者。かつてコーヘン&スティアーズに11年在籍し、2004年から2008年までは不動産担当チーフ・インベストメント・オフィサーを務める。2020年に再び入社。直近では、シギュラー・ガフ&カンパニー社で、不動産統括責任者として、実物不動産市場に特化した不動産投資グループのリーダーを務める。それ以前は、ハイトマン・キャピタル・マネジメント社およびクレディスイス・ファースト・ボストン社で不動産投資業務に携わる。スタンフォード大学より学士号、ペンシルバニア大学よりMBAを取得。ニューヨーク拠点。
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