好調な地合いを追い風に:2026年 米国不動産市場 年央見通し
好調な地合いを追い風に:2026年 米国不動産市場 年央見通し
2026年上半期は、不動産の投資魅力を改めて確認する展開に。上場不動産証券市場および実物不動産市場ともに、底堅い業績、取引量の増加、そしてセクター固有の投資機会に支えられ、リスクが高まる市場環境の中でも堅調に推移。
要 旨
- 不動産市場の好調なスタートと投資家心理の改善
マクロ経済の不確実性や他資産クラスの高バリュエーションを踏まえると、不動産が持つ安定的なキャッシュフローと取引市場の持ち直しは、2026年を通じて良好なリターンとポートフォリオの耐性を支える要因になると考えられる。 - セクター別見通し:回復、リスク、成長機会
回復と成長のペースはセクターによって大きく異なる。産業施設と高齢者住宅が先行する一方、集合住宅や貸倉庫は回復に時間を要している。AI需要と人口動態は、今後の不動産市場を左右する重要なテーマである。 - 投資環境には予見可能な不透明要因が存在
政策運営や地政学情勢を巡る変動性は今後も継続する可能性があるものの、商業用不動産を取り巻く逆風の一部は2026年にかけて緩和に向かうと見込まれる。その結果、インカム獲得源および分散投資先としての不動産の相対的な魅力は引き続き支えられると考える。
上場・実物不動産市場の好調なスタートと投資家心理の改善
2026年、不動産市場は好調なスタートを切っており、当社が年初に示した見通しと概ね整合的な展開となっています。当社は、上場・実物双方の不動産市場について前向きな見方を維持してきました。経済成長の鈍化、マクロ環境を巡る不透明感の高まり、さらには広範な株式やプライベート・クレジットを含む他の資産クラスからの期待リターン低下が見込まれる環境下において、不動産は引き続き堅調な成長が期待できる魅力的な投資先であると考えています。
株式市場は、上場・非上場を問わず歴史的に高いバリュエーション水準にあり、上場株式のリターンは、人工知能(AI)関連の設備投資急増の恩恵を受けるごく一部の企業へ集中する傾向が強まっています。一方、クレジット市場ではスプレッドが歴史的な低水準近辺にあり、金利上昇や景気減速局面における下落耐性は限定的と考えられます。特にプライベート・クレジット市場では、一部でストレスの兆候も見え始めています。超低金利時代が終焉した現在、これらの資産クラスのリスク・リターン特性は以前ほど魅力的ではなくなっていると当社は考えています。
これに対し、不動産は信用力の高いテナントとの賃貸契約を通じて生み出される安定したキャッシュフローに支えられ、長期的に良好な投資成果を実現してきました(図表1)。また、商業用不動産(CRE)の取引額は、多くの物件タイプにおいて需給動向が改善していることを背景に、3年連続で増加することが見込まれています。
年初来の市場動向もこうした見方を裏付けています。NCREIF Fund Index – Open End Diversified Core Equity(NFI–ODCE)指数で測定される米国の実物不動産は、2026年1-3月期に1%のリターンを記録し、2022年末以降7四半期連続で続いたマイナスリターン局面を経て、現在では7四半期連続のプラスリターンとなっています。当社はこの好調なモメンタムが今後も続くと予想しています。
図表1
不動産市場の足元の相対的な強さは継続すると予想
リターン比較:2026年対2025年

2026年6月30日現在。出所:ブルームバーグ、NCREIF。
過去のパフォーマンスは将来の結果を保証するものではありません。2026年NFI-ODCE指数の3月31日までのリターン。
米国上場リート市場は、スタグフレーション懸念の高まりにもかかわらず、堅調な業績と底堅い経済環境を背景に、2026年6月末までに年初来で14.9%上昇しました。2026年1-3月期にはリートの約80%が市場予想を上回る利益を計上し、これは過去平均の55%を大きく上回る水準となりました。また、通期業績見通しを引き上げた企業は全体の約60%に達し、通常のペースのほぼ2倍となりました。
当社の見通しに大きな変更はありませんが、イラン情勢の緊迫化は、「解放の日(Liberation Day)」の関税ショックから1年が経過し、新たな外生的リスクとして浮上しています。それでも、米国リートのキャッシュフロー成長は、高金利環境にもかかわらず概ね堅調さを維持しています。関税問題と同様に、市場の注目は徐々に薄れる可能性があるものの、引き続きボラティリティ要因として意識されると考えています。
年初来のパフォーマンスは月ごとのばらつきが大きい展開となりました。イラン情勢を巡る不確実性により3月はマイナスとなったものの、1月と2月はプラスで推移し、その後4月から6月にかけて持ち直しました。地政学リスクに注目が集まる一方、上場・実物不動産の両市場においてファンダメンタルズの改善を示唆する前向きな兆候も広がりつつあります。
2025年の不動産市場は株式市場に劣後し、米国リートのリターンは2.3%にとどまったのに対し、米国株式(S&P 500種指数 時価総額加重ベース)は17.9%の上昇を記録しました。実物不動産市場のリターンも2.9%と、過去25年平均である5.2%を下回りました。 こうした低調なパフォーマンスは、2022年以降の11回に及ぶ利上げと実質金利の上昇の累積的な影響を反映したものといえます。また、パンデミック後の高い賃料上昇率を受けて新規供給が増加したことも、一部セクターの需給環境にとって重しとなりました。
その結果、米国リートはピークから底値まで33%下落し、実物不動産市場の評価額も20%下落しました。しかし、その後のリターンはプラス圏へ回復しており、上昇ペースこそ緩やかではあるものの、改善基調が続いています。
2024年9月に米連邦準備制度理事会(FRB)が利下げを開始した後も、米国10年物国債利回りは2025年下半期の大部分において4.0%〜4.2%の範囲で推移しました。これは、政策が転換しても、金融環境の改善が必ずしも一様には進まないことを示しています。
2026年に入り、不動産市場を取り巻く環境は改善しつつあり、その流れは商業用不動産(CRE)向け融資市場にも及んでいます。FRBによる金融引き締め局面を受けて、銀行は過去2年間にわたりバランスシート調整を進めてきましたが、足元ではCRE融資を再び拡大する動きが見られ始めています(図表2)。
図表2
信用市場の改善が不動産ファンダメンタルズを下支え
商業用不動産(CRE)向け新規融資額指数(2003年1-3月期=100)

2026年5月31日現在。出所:住宅ローン銀行協会。
過去のパフォーマンスは将来の結果を保証するものではありません。
銀行による資金供給が一時的に後退していた局面では、生命保険会社やCMBS(商業用不動産担保証券)市場が資金供給の役割を担ってきました。当社では、この資金供給構造の変化は持続的なものになると見ています。さらに、融資供給環境の改善に加え、調達済みでありながら未投資の待機資金(ドライパウダー)も潤沢に存在していることから、商業用不動産の取引額は2026年も増加し、3年連続の拡大が見込まれます(図表3)。また、銀行による不動産融資の再開は流動性改善のシグナルであり、不動産取引市場の正常化や価格の安定化、そして不動産市場が次のリターン拡大局面へ移行するための重要な前提条件となると考えています。
図表3
融資供給の改善と潤沢な待機資金が取引市場の拡大を後押し
商業用不動産(CRE)取引額(10億米ドル)

2026年3月31日現在。出典:Real Capital Analytics。
過去のパフォーマンスは、将来の結果を保証するものではありません。
積極的な融資前提のもとで組成された案件における延滞率は、2026年に上昇する可能性があります。特にオフィス・セクターではその傾向が顕著になるとみられます。しかしながら、市場には依然として潤沢な待機資金が存在していることから、その影響が不動産価格全般へ広範に波及する可能性は限定的と考えています。
市場では2026年中の利下げが期待されていましたが、当社では米国10年国債利回りは現行水準付近で推移するか、あるいは緩やかに上昇すると予想していました。このため、不動産のキャップレート低下(利回り低下)によるバリュエーション押し上げ効果は限定的になると考えていました。当初は市場コンセンサスとは異なる見方でしたが、地政学的リスクの高まりやインフレの粘着性を受けて、足元ではこの見方は市場でも支持が広がっています。
足元の名目金利の上昇は、インフレ圧力と底堅い経済成長が組み合わさった結果であり、金融政策に対する市場の見方にも変化をもたらしています。その結果、一部では再利上げの可能性も意識され始めています。しかし、現在のように健全な経済活動を伴う金利上昇局面では、一般に不動産市場のファンダメンタルズや賃料成長が支えられる傾向があります。すなわち、高い利回り水準は需要の強さに裏付けられた価格決定力の向上を反映している側面もあります。
仮に緩やかな利上げが実施されたとしても、キャッシュフロー成長が加速することで、資金調達コスト上昇の影響は相殺される可能性が高いとみています。供給制約が続く一方で需要は堅調であり、賃料上昇がインカムの拡大とFFO(Funds From Operations)の平均を上回る成長を後押しすることで、不動産市場全体のリターン創出余地を支えると見ています。
当社では、2025年が比較的低調な年となった後、2026年の米国上場リートは16〜18%のリターンを達成すると予想しています。一方、実物不動産市場のリターンは1桁台半ばにとどまると予測しています(図表4)。ただし、セクター間や地域によるばらつきが大きいと考えられることから、アクティブ運用においては指数を上回る超過収益(アルファ)を獲得する機会が生まれると期待しています。
実物不動産市場では、2026年も資産価値の緩やかな上昇が続くと見込んでいます。特にコア不動産では、リターンの大部分をインカム収益が占める展開になると考えています。一方、上場不動産市場は、より高い資金調達コストを実物市場に先行して織り込んできたことから、今後は利益成長が再加速する局面にあると見ています。
図表4
実物不動産のリターンは引き続き上場リートを下回る見通し
不動産市場の年間リターン予想

2026年5月31日現在。出所:ブルームバーグ、NCREIF、コーヘン・アンド・スティアーズ。
過去のパフォーマンスは将来の結果を保証するものではありません。予測は2026年および2027年の予想収益に基づいています。予測結果は経済情勢に左右され、たとえ予測通りの事態が発生したとしても、実際の結果は予想を大幅に上回るか下回る可能性があります。実際の結果は、示された推定値を大幅に下回る可能性があります。推定値には本質的に不確実性が伴い、実際の結果を反映しない場合があります。
セクター別見通し:回復、リスク、成長機会
不動産セクター全般の見通しにおいて、いくつかの共通テーマが浮かび上がっています。足元では不動産価格は総じて回復基調にありますが、その回復のタイミングやペース、そして現在の評価額が回復をどの程度織り込んでいるのかについては、依然として見極めが必要な状況です。
総じて、主要4セクターであるショッピングセンター、オフィス、集合住宅、産業施設では、2026年にかけて需給環境や賃料成長などのファンダメンタルズが底打ち、あるいは改善ペースを加速させると見ています(図表5)。一方、主要セクター以外では、データセンターおよび高齢者住宅が最も力強い成長を示すと予想しています。これに対し、貸倉庫については価格決定力が底入れする段階にあると考えています。
また、不動産は世界的な貿易活動への依存度が比較的低いことから、関税政策の影響も限定的にとどまると考えています。ただし、産業施設や商業施設など一部のセクターについては、貿易環境の変化による影響をより直接的に受ける可能性があります。一方で、新規供給が抑制された環境は賃料やキャッシュフロー成長を支える要因になると見ています。当社では、長期的な成長ドライバーを有し、高い価格決定力を備えた資産を選好しています。
その一方で、景気動向の影響を相対的に受けやすい一部のセクターについては慎重な姿勢なスタンスをとっています。また、AIの普及は特定の資産クラスにとって逆風となる可能性もあります。しかし当社では、AIは大規模な設備投資を伴う「ハードウェア主導の成長テーマ」であると考えています。具体的には、発電設備、送配電網、データセンター、輸送インフラ、さらには原材料需要への投資拡大が必要となるため、多くの不動産セクターに恩恵をもたらすと予想しています。一方、雇用の伸びが鈍化しオフィス需要が減速した場合には、オフィス・セクターが相対的に影響を受ける可能性があります。
図表5
主要セクターに関する現在の見方


2026年5月31日時点。出典:Cohen & Steers。
集合住宅:想定を下回る賃料成長を背景に、実物市場の評価額は下落する可能性
不動産市場ではあらゆる景気サイクルを通じて、特定の商業用不動産セクターにおいて、上場市場と実物市場の評価額に乖離が生じます。今回のサイクルでその乖離が最も顕著にみられるのが集合住宅セクターです。当社では、実物市場におけるキャップレートは2026年から2027年にかけて上昇し、それに伴い資産価値は下落すると予想しています。
上場集合住宅リートは、過去約2年間にわたり、総資産価値(NAV)に対して大幅なディスカウントで取引されてきました。また、上場市場に織り込まれているキャップレートと実物市場の評価に用いられるキャップレートとの乖離は、歴史的に大きな水準にあります(図表6)。一部の市場参加者は、足元の記録的な供給が落ち着けば、実物市場における内部成長率は再び長期平均を上回る水準へ加速すると期待しています。しかし当社では、回復はより緩やかなものにとどまり、市場の期待には届かない可能性が高いと考えています。
住宅所有コストの上昇や新規供給の減速は、賃貸住宅セクターのファンダメンタルズにとってはプラス要因ではあるものの、こうした好材料の多くは既に市場価格へ織り込まれていると考えています。今後は、賃貸集合住宅の主要需要層である若年世代の人口増加ペースが鈍化することに加え、新卒者の失業率上昇による需要減退や雇用成長の鈍化が、賃料引き上げ余地を制約する可能性があります。その結果、賃料成長率は徐々に平常水準へ回帰すると見ています。
過去に高いパフォーマンスを示したセクターへ資金が集中するのは、市場でよくみられる現象です。しかし、2026年に入り需要の鈍化やファンダメンタルズの弱含みがより明確になるにつれ、実物市場ではキャップレートの上昇と評価額の調整が進む可能性が高いと考えています。一方、上場市場ではこうした再評価の動きが既に株価へ相当織り込まれているとみています。
図表6
実物市場における集合住宅の評価額の見直しが進む可能性
集合住宅の鑑定評価ベースのキャップレート対市場評価ベースのキャップレート

2026年6月26日時点。 出典:Green Street、Cohen & Steers。
過去のパフォーマンスは将来の結果を保証するものではありません。
産業施設:長期的な需要拡大が続く一方、供給増加には注意が必要
産業施設は、パンデミック期において最も大幅な再評価を受けた不動産セクターの一つとなりました。パンデミック以前には、産業施設のキャップレートは賃貸住宅やオフィス、商業施設といった伝統的なセクターを平均で50bps程度上回る水準で取引されていましたが、新型コロナウイルス感染拡大に伴う消費活動の変化やラストワンマイル物流需要の高まりを背景に市場の期待が最も高まった局面では、実物市場における産業施設のキャップレートは伝統的セクター全体に対して約200bps低い水準まで低下しました。もっとも、その後は供給増加や価格決定力の低下を受けて、キャップレートは伝統的セクター全体に対して約125bps下回る水準まで足元ではやや上昇しています。それでも、成長鈍化への懸念が高まる中にあっても、実物市場における産業施設への投資需要は引き続き底堅い状況です(図表7)。
関税政策に関連する逆風についても、当初懸念されていたほど深刻ではないと考えています。
「解放の日(Liberation Day)」の関税発表以降、内見件数やリーシング活動は着実に改善しています。依然として関税発表前の水準には達していないものの、企業は設備投資や拠点戦略の意思決定を無期限に先送りすることはできず、マクロ環境を巡る不透明感が残る中でも、実需に支えられて市場へ戻り始めています。
上場市場は2025年4月の関税発表に迅速に反応し、当初は産業施設セクターの評価水準を引き下げました。しかし、その後産業施設リートは4月中旬の安値から回復し、市場全体を上回るパフォーマンスを示しています。現在、上場産業施設リートから算出される市場評価ベースのキャップレートは、関税発表前の水準を下回るところまで低下しています。
集合住宅とは対照的に、上場市場の投資家は実物市場よりも低いキャップレートを織り込んでおり、産業施設のファンダメンタルズは既に底打ちし、今後再び成長が加速するとの期待を反映していると考えられます。当社では、既存賃料の更改を通じた堅調な市場賃料成長を見込んでおり、NOI成長率は多くの不動産セクターを上回ると予想しています。ただし、現在の市場評価ベースのキャップレートは5.1%と既に低水準にあり、更なる上昇余地を正当化するためには、実際の業績が市場予想を大幅に上回る必要があると考えています。
産業施設に対する投資家の強い需要は、2026年を通じて実物市場の評価額を支えると考えています。市場には依然として十分な投資資金が存在しており、足元では5%台前半のキャップレートで投資が実行されています。もっとも、市場賃料の上昇率が鈍化するにつれてキャップレートは徐々に上昇すると見込まれますが、本格的な評価額の見直しは2026年以降に顕在化する可能性が高いと考えています。
図表7
産業施設の需要は底打ちし、再加速へ向かう見通し
米国の産業施設の純吸収量(百万平方フィート)

2026年3月31日現在。出典:CoStar、Cohen & Steers。
過去のパフォーマンスは将来の結果を保証するものではありません。予測には本質的に限界があります。いかなる市場予測も実現する保証はありません。
オフィス市場:選別的な投資機会が出現
オフィス市場について「勝ち組と負け組の二極化が進んでいる」との見方は既に市場の共通認識となっていますが、その格差の大きさは依然として見過ごせません。立地や建物品質による評価の乖離は極めて大きく、過去にeコマースの拡大局面で商業施設セクターに生じた二極化に匹敵するほどの構造変化と言えるでしょう。高品質なオフィスビルが、設備や資本力が劣る競合物件からシェアを獲得し続けているという認識は広く共有されており、この傾向は2026年も続くと考えられます。
足元では市場安定化の兆しも見え始めています(図表8)。オフィス出社回帰の進展に加え、競争力を失った旧式物件の除去・用途転換が進んだことで、空室率は2019年以来初めて改善に向かっています。同時に、パンデミック以降の市場環境悪化を受けて新規開発は大幅に抑制されており、建設中のオフィス供給量は世界金融危機後以来の低水準まで減少しています。
当社では、2026年のオフィス市場は大きく3つのカテゴリーに分かれると考えています。第一に、多額の改修投資を必要とする競争力の低い物件です。こうした物件は、解体や住宅など他用途への転換を通じて市場から徐々に退出していくとみています。第二に、大幅なディスカウントで取得される物件です。これらの物件は新たな所有者による再投資を通じて競争力を回復し、テナント需要を取り込む可能性があります。第三に、立地が良く比較的新しい高品質オフィスです。こうした物件は、需給改善や供給制約を背景に、引き続きプレミアム賃料を享受できると考えています。もっとも、実物市場では既にこれらの優良物件に対する評価は高く、投資妙味の乏しい価格水準で取引されるケースも増えています。そのため、長期前提での投資判断には十分な慎重さが必要と考えています。
図表8
空室率の低下と供給抑制がオフィス賃料成長を後押し

2026年3月31日現在。出典:CoStar、Cohen & Steers。
過去のパフォーマンスは将来の結果を保証するものではありません。
上場オフィス・リートは、長年にわたり実物市場の評価額を下回る水準で推移してきました。パンデミック以前、このディスカウントの主因は、競争力の維持に必要なライフサイクル全体を通じた設備投資(CAPEX)を上場市場の投資家がより適切に織り込んでいたことにありました。在宅勤務の普及はこうした課題をさらに顕在化させました。足元では、供給の減少や需要の安定化を背景に、優良オフィスの評価見通しは改善しています。しかし当社では、実物市場の評価額には依然として長期的な競争力維持に必要な資本負担が十分に織り込まれていないと考えています。
また、上場市場では、AIの普及がオフィスワーカーの需要や雇用環境に及ぼし得る影響についても、実物市場より敏感に織り込んでいるように見受けられます。AIによる生産性向上は、オフィス需要全体を押し下げる可能性がある一方で、企業の需要をより高品質なオフィスへ集中させる可能性もあります。AIの効率化効果が最終的にどの程度になるかは依然として不透明ですが、今後注視すべき重要なテーマであると考えています。
新規供給は当面限定的になると見込まれるものの、投資家は現在の優良物件であっても将来的な陳腐化リスクを考慮する必要があります。現在は信用力の高いテナントを抱える競争力の高いビルであっても、10~15年後に賃貸借契約が更新時期を迎えた際には、次世代の高性能オフィスとの競争に直面する可能性があります。この点は、オフィス資産を長期保有する際の重要な論点になると考えています。
一部の需給環境が良好で競争力の高いエリアでは、実物市場においては優先出資や共同投資等の個別案件を通じた投資機会も存在するものの、現時点では流動性が高く、将来リスクをより迅速に価格へ反映する上場市場の方が、投資資金の配分先として魅力的であると考えています。
図表9
かつてコア不動産投資の中核であったオフィスへの機関投資家需要は低下基調
コア不動産ファンドにおけるセクター別配分比率の推移

2026年3月31日現在。出典:CoStar、Cohen & Steers。
過去のパフォーマンスは将来の結果を保証するものではありません。
ショッピングセンター:緩やかながら着実なモメンタム
過去20年の大半において投資家から敬遠されてきたショッピングセンター・セクターですが、足元ではファンダメンタルズの改善や実物市場における投資意欲の回復を背景に、徐々に評価を取り戻しつつあります。新規供給は引き続き過去最低水準近辺にとどまる一方、資産価格は依然として再調達原価を大きく下回る水準で取引されています。このため、将来的な競争的供給の増加リスクは限定的と考えています(図表10)。
稼働率は、2024年に発生した一部小売企業の経営破綻による一時的な影響を除けば、この2年近くにわたり過去ピーク水準近辺で推移しています。また、コロナ禍後の反動によるNOI成長の押し上げ効果を除いても、過去3年間は過去25年で最も力強く持続的な成長局面の一つとなっています。こうした改善を受けて、実物市場の投資家も同セクターへの評価を高めており、コア不動産市場の中でも比較的良好なパフォーマンスを示すセクターとなっています。さらに、融資市場も再び開放されつつあり、同セクターに対する投資家の信頼感の高まりを反映しています。こうした要因を踏まえると、主要セクターの中ではショッピングセンターが最もキャップレート低下(バリュエーション上昇)の恩恵を受けやすいと考えています。
2024年末に発生したジョアン(Joann)、パーティーシティ(Party City)、ビッグ・ロッツ(Big Lots)などを含む小売業者の相次ぐ倒産は、2025年の稼働率に一定の下押し圧力となりました。しかし、足元では小売企業の破綻件数は減少しており、今後は稼働率の改善を通じてオーナー側の価格決定力向上につながるとみています。また、景気拡大の恩恵が中小企業にも波及すれば、インラインテナント(モール内専門店)の出店需要が拡大し、新たな需要創出要因となる可能性があります。
図表10
ショッピングセンターは、稼働率が過去最高水準に近い中で価格決定力が高まっている
米国のショッピングセンター市場の供給動向と稼働率

2026年3月31日現在。出典:CoStar。
過去のパフォーマンスは将来の結果を保証するものではありません。
データセンター:AI需要の拡大を背景に、2026年はより良好な投資環境へ
2025年のデータセンター・リートは、投資家の期待をやや下回るパフォーマンスとなりました。セクター全体で設備投資が急拡大しているという話題性とは対照的に、株価リターンは比較的低調に推移したためです。もっとも、2025年のパフォーマンスだけに着目すべきではありません。NVIDIAがAI主導の半導体需要の拡大を示唆して以降、Digital Realtyの株価リターンは累計で70%超に達しています。
確かに、このリターンはNVIDIAの500%を超える上昇率には及びません。しかし、2025年末までの広範な米国リート市場のリターン(約21%)と比較すれば、大きく上回る成果となっています。加えて、近年発表されたデータセンター投資の多くは、上場リートの保有比率が比較的低いセカンダリー市場を対象としており、上場データセンター・リートが直接享受できる案件ばかりではない点にも留意が必要です。
一方で、主要なデータセンターテナントは引き続き設備投資を拡大しています。2026年には主要テナント合計で6,500億米ドル規模の設備投資が計画されており、その投資余力は極めて大きい状況です(図表11)。こうした環境の下、データセンター・リートは2026年に入って持ち直しており、ハイパースケーラーによる継続的な需要拡大の恩恵を受ける好位置にあると考えています。当社では、この旺盛な需要が今後の賃料成長を支えると見ています。
図表11
データセンターはAIブームに対する相対的に低リスクな投資手段
世界的のAI関連データセンター追加需要予測(ギガワット)

2026年3月31日現在。出典:PMP Strategy、NVIDIA GTC 2026年3月、IEA、JLL。
予測には本質的に限界があります。いかなる市場予測も実現する保証はありません。
高齢者住宅:80歳以上人口の増加を背景に記録的成長へ
人口動態の観点からは、かねてより「シルバー・ツナミ(Silver Tsunami)」と呼ばれる高齢化の進展が注目されてきましたが、足元では80歳以上人口の増加が本格化しています。コロナ禍で低下した入居率の回復が進むなか、高齢者住宅市場は良好な需給環境の恩恵を受けています(図表12)。こうした構造的な追い風は2025年に広く認識され、セクターの大幅なアウトパフォーマンスにつながりました。もっとも、直近の上場リートの業績を見る限り、その勢いは今後も継続する可能性が高く、一部投資家が懸念していた成長鈍化リスクは以前ほど大きくないと考えています。
上場高齢者住宅リートは、実物市場との間に明確な先行・遅行関係を示しています。投資家の関心が高まる中、2026年は限られた投資機会を巡って資金流入が続き、評価額を支えると考えています。上場リートは純資産価値(NAV)に対してプレミアムで取引されているため、比較的低コストで資金調達が可能です。一方、実物市場では投資資金に対して投資機会が不足する状態が続いており、この需給ギャップは当面、評価額の上昇圧力につながる可能性があります。少なくとも、供給が再び増加し始める2030年代初頭までは、この傾向が続くとみています。
図表12
人口動態の追い風と限定的な供給増加が高齢者住宅市場を下支え
在庫に占める高齢者住宅の供給増加率

2026年5月31日現在。出典:Green Street。
過去のパフォーマンスは将来の結果を保証するものではありません。
メディカルオフィス:安定した逆循環的成長を提供
メディカルオフィスビル(MOB)は、高齢化の進展から恩恵を受けるセクターとして注目が高まっています。65歳以上の年齢層は人口の17%を占めるに過ぎませんが、医療費支出全体の37%を占めており、この割合は今後も上昇すると見込まれています。人口構造の変化は、今後長期にわたり医療関連不動産の需要を支える重要な追い風になると考えられます。
また、医療サービスの外来化(アウトペイシェント化)も需要拡大を後押ししています。近年では、従来病院内で実施されていた多くの医療処置が外来施設でも可能となっており、こうした施設の多くはメディカルオフィスビル内に立地しています。調査によれば、外来診療は医療コストを平均59%削減できるとされており、今後外来対応可能な医療サービスが増加するにつれて、メディカルオフィスに対する需要も拡大すると考えられます。
ファンダメンタルズも引き続き良好です。全国ベースの稼働率はコロナ禍後の最高水準まで回復しており、新規供給も長期平均を下回る管理可能な水準にとどまっています。一方で、資産価値は提携する医療機関や病院システムの信用力や質に大きく左右される傾向があります。そのため、一般的なオフィス不動産よりもオーナー・テナント間の関係性が重視されるセクターとなっています。この特徴は賃料上昇率を抑制する可能性がある一方、収益の安定性を高める要因にもなっています。
この結果、メディカルオフィスは比較的予見可能性の高いキャッシュフローを創出できる資産クラスとなっています。高齢化や医療サービス需要の増加といった景気循環に左右されにくい需要ドライバーを有することから、上場・実物双方の不動産ポートフォリオにおいて、有効な分散投資先になり得ると考えています。
貸倉庫:住宅市場の回復が反転の鍵
過去15年間で、貸倉庫は、機関投資家から見過ごされがちなニッチな不動産タイプから、低い資本集約度と安定的な賃料成長を特徴とする魅力的な投資対象へと変貌を遂げました。こうした再評価は、上場・実物の両市場におけるバリュエーションもに反映されています。
もっとも、近年は二つの逆風に直面しています。一つは、パンデミック期およびその後にかけて新規供給が大幅に増加したこと、もう一つは住宅市場の低迷です。貸倉庫需要の重要な原動力である住宅売買件数は、2022年の住宅ローン金利急上昇以降、過去30年近い低水準にとどまっています。
その結果、セクターのファンダメンタルズは過去4年間にわたり不動産市場全体の平均を下回って推移してきました。当社では、2026年は転換点となる可能性があるとみていますが、賃料成長の本格的な回復には住宅市場の持続的な改善が不可欠と考えています。政策当局は住宅市場の活性化に向けた施策を検討しているものの、短期的な改善シナリオは依然として不透明です。
同セクターのファンダメンタルズが安定化に向かう中では、上場市場が回復の兆候をいち早く映し出す可能性があります。当社では、貸倉庫市場のセンチメント改善が進む際には、上場リートがその先行指標になると考えています。
目先の投資環境には予見可能な不透明要因が存在
2026年にかけて、商業用不動産市場を取り巻く複数の逆風は和らいでいくと考えています。一方で、昨年および年初来の市場動向が示したように、現政権の政策運営に起因する市場変動性は今後も継続するとみています。
今後注視すべき主なリスク要因としては、イランを巡る地政学的緊張、FRBの独立性や金融政策を巡る不確実性、関税政策の継続的な影響、AIが生産性や雇用構造へ与える影響、そして現政権による住宅取得支援策の動向などが挙げられます。
こうした不透明要因が残る中にあっても、商業用不動産は魅力的なインカム収益と資本成長の可能性を兼ね備えており、分散投資ポートフォリオにおける有効な投資対象であり続けると考えています。
安定したキャッシュフロー、限定的な新規供給、および資本市場環境の改善を背景に、上場・実物不動産の双方において良好な投資機会が継続すると考えています。
指数定義/重要な開示事項
投資家は指数に直接投資することはできず、指数のパフォーマンスには、手数料、諸経費、税金などの控除は反映されていません。
過去のパフォーマンスは将来の結果を保証するものではありません。上記で示された、あるいは言及された過去の傾向が将来も繰り返されるという保証はなく、また、そのような傾向がいつ始まるかを正確に予測する方法もありません。本解説に記載された市場予測が実現するという保証はありません。本解説に記載された見解や意見は、掲載日時点のものであり、変更される可能性があります。
本資料は、特定の時点における市場環境の評価を示すものであり、投資アドバイスとして依拠すべきものではなく、有価証券やその他の投資商品の売買を推奨するものではなく、いかなる投資のパフォーマンスを予測または描写することを意図したものでもありません。本資料は受託者としての立場で提供されるものではなく、いかなる投資方針や投資戦略を推奨するものでもなく、また、いかなる投資家の具体的な目的や状況を考慮に入れることを意図したものでもありません。当社は、本資料に記載された情報が正確であると考えていますが、その情報が完全であること、または投資の適切性を判断する唯一の情報源として依拠すべきであることを保証するものではありません。 投資を行う前に、ご自身の個別の状況について、投資、税務、または法律の専門家にご相談ください。本資料で表明された見解や意見は、必ずしも証券会社やその関連会社の見解や意見と一致するものではありません。本資料で論じられた内容や提案された事項は、いかなる証券会社のポリシー、手続き、規則、またはガイドラインに優先したり、これを回避したりすることを許可するものと解釈されるべきではありません。
不動産証券への投資に伴うリスク。不動産証券への投資に伴うリスクは、不動産への直接投資に伴うリスクと同様であり、空室率の上昇による不動産価値の下落、経済的・法的・政治的・技術的な動向に起因する賃料の下落、流動性の欠如、資金調達の困難、分散投資の限界、金利変動や景気後退などの特定の経済要因に対する感応度、および特定の市場における類似物件の需給変動などが含まれます。 特定の戦略やファンドの有効性、あるいは達成される可能性のある実際の収益率については、いかなる表明も保証も行われません。
実物不動産への投資に伴うリスク。実物不動産への投資は流動性が低く、景気減速や不況、業界の景気循環の影響を受けやすいため、財務上の損失や、収益、純利益、資産の減少につながる可能性があります。実物不動産市場では流動性が低いため、原資産の評価が困難です。鑑定評価額は、不動産投資物件が実際に売却される価格と大幅に異なる場合があります。
特定の戦略の有効性や、達成される可能性のある実際の収益率については、いかなる表明も保証も行いません。
コーヘン&スティアーズ・ジャパン株式会社は、投資運用業者として関東財務局に登録しており(関東財務局長(金商)第3157号)、一般社団法人 日本資産運用業協会に加入しています。