上場リートと実物不動産のリード・ラグ関係に関する考察

 
  • NCREIF ODCE指数で測定した実物不動産の2024年第4四半期のトータル・リターンはプラスとなり、実物商業用不動産のバリュエーションは底入れした可能性が高いとの当社の見方を裏付ける形となりました。
  • コロナ禍以降の実物不動産投資のパフォーマンスは、S&L危機や世界金融危機後のパターンと共通しています。実際、分析によると、トータル・リターンはプラスに転じるとその後はプラス圏を維持することが明らかになっています。
  • 実物不動産の不動産タイプ別パフォーマンスのパターンが変化しています。前サイクルで良好なパフォーマンスを上げたもの(産業施設と集合住宅)が、今サイクルでも同様のパフォーマンスを上げるとは限りません。

実物不動産投資の2024年第4四半期のリターン、上場リートとのリード・ラグ関係、実物不動産の不動産タイプ別パフォーマンスの変化

今月は、NCREIF ODCE指数のパフォーマンスについて掘り下げたいと思います。実物不動産の動きを捉えるこの実物商業用不動産指数を多くの機関投資家がベンチマークとしており、同指数は市場の重要なバロメーターとなっています。

1. 実物商業用不動産が2四半期連続でプラスのリターンを記録

まず、NCREIF ODCE指数は2024年第4四半期に1%近いプラスのネット・トータル・リターンを記録しました。

ODCEは、Open End Diversified Core Equity(オープンエンド型分散コア・エクイティ)の略です。この指数は、実物不動産を保有する25のオープンエンド型コア・ファンドで構成され、カバーする商業用不動産の規模は2,000億ドルを超えます。

2024年第4四半期のトータル・リターンは、+0.02%となった第3四半期に続いて2四半期連続でプラスとなりました。2022年第4四半期から2024年第2四半期までのネット・トータル・リターンは7四半期連続でマイナスでした。

重要な点は、2024年第4四半期にはキャピタル・リターンも2022年第2四半期以来のプラスとなったことです。

図1
実物不動産が2四半期連続でプラスのリターンを記録

資産配分目標(加重平均ベース)

これは、実物商業用不動産のバリュエーションは底入れした可能性が高いとの当社の見方を裏付けるものと言えます。実際、1990年代初頭のS&L危機および世界金融危機後のトータル・リターンの推移を分析してみると、トータル・リターンはプラスに転じるとその後はプラス圏を維持していることがわかります。

2. 上場リートと実物不動産のこれまでのリード・ラグ関係

2つ目の点は、実物商業用不動産と上場リートの短期的、中期的および長期的な相対パフォーマンスです。

ODCEの昨年第4四半期のリターンは上昇しましたが、上場リートは8%を超えるマイナスとなりました。一見すると両者は大きく乖離しているかのように映りますが、2022年以降、これを上回る規模でリターンが乖離した例は何度かあります。

当社は、四半期ベースのリターンですべてを把握できるとは考えていません。2024年の上場リートのトータル・リターンは5%でしたが、ODCEのリターンは-2%でした。その前年の2023年には、上場リートのトータル・リターンは実物商業用不動産のリターンを20%以上上回りました。これとは対照的に、2022年には上場リートのトータル・リターンは-25%となりましたが、ODCE指数は10%近く上昇しました。

当社は以前から、下降局面、回復局面のいずれにおいても上場リートは先行指標の役割を果たすと指摘してきましたが、今サイクルも例外ではありません。実際、上場リートは2022年第3四半期以来、ODCE指数を40%アウトパフォームしています。

図2
下降局面と回復局面のいずれにおいても上場リートが先行

実物商業用不動産が下落する中、上場リートは2023年および2024年に回復

しかし、2019年末以来、上場リートのキャピタル・リターンは-2%で、-5%となったODCEと同様にマイナスにとどまっています。言い換えれば、そのプロセスは異なるものの、コロナ禍前以降の最終的な結果は似通っています。

サイクルを通じた上場リートのトータル・リターンがODCEを上回っているということは、注目に値します。2019年以降、上場リートは18%上昇しているのに対して、ODCEは9%の上昇にとどまっています。これは、歴史的にみて、上場リートはトータル・リターン・ベースで中・長期的にODCEをアウトパフォームしているという当社の分析結果と一致しています。

3. 実物不動産の不動産タイプ別リターン

最後に、不動産の種類別でODCE指数のパフォーマンスについて詳しく見てみます。

パフォーマンスで最上位となったのは屋外型ショッピングセンター(NCREIFでは「ストリップセンター」に分類)で、レバレッジを考慮しないトータル・リターンは1.7%でした。これに対して産業施設および集合住宅は1.2%、ビジネス中心地区のオフィスは0.6%でした。

第4四半期の産業施設と集合住宅のリターンもプラスとなりましたが、オフィスはマイナスで、レバレッジを考慮しないトータル・リターンは-0.7%、レバレッジを考慮したトータル・リターンは-3.2%でした。

この結果、通年のレバレッジなしのトータル・リターンはストリップセンターが5.2%となったのに対して、産業施設は2.5%、集合住宅は1.5%、ビジネス中心地区のオフィスは-9.4%でした。

図3
実物不動産のセクター別パフォーマンスのパターン - ODCE指数、レバレッジなし

不動産の種類別でパフォーマンスを見ると、屋外型ショッピングセンターが2年連続で最上位となりました(ODCEファンドは、産業施設や集合住宅に比べてこのサブセクターをアンダーウェイトしています)。

結論として、実物不動産の不動産タイプ別パフォーマンスのパターンは変化しつつあると考えられます。前サイクルで良好なパフォーマンスを上げたもの(産業施設と集合住宅)が、今サイクルでも同様のパフォーマンスを上げるとは限りません。

2025年1月のリサーチ:The Real Estate Reel: 2025年における商業用不動産のリターンに影響を与え得る要因を見る

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著者について
Rich Hill リッチ・ヒルは、シニア・バイス・プレジデントで、不動産戦略・調査部門責任者であり、上場不動産証券および実物不動産投資戦略における投資機会の特定や関連するテーマや戦略についての調査を統括。2022年に入社する以前は、モルガン・スタンレーのマネージング・ディレクターとして商業不動産リサーチ責任者を務め、上場不動産証券のリサーチ、商業用不動産デッド戦略、マクロ不動産リサーチなどを担当。それ以前はRBS証券でディレクター、バンク・オブ・アメリカでバイス・プレジデントとして従事。ジョージタウン大学で理学士号を取得。ニューヨーク拠点。
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