関税政策を巡る市場のボラティリティ上昇とリアル・アセットへの影響

関税政策を巡る市場のボラテ⁠ィリ⁠テ⁠ィ上⁠昇とリ⁠ア⁠ル・ア⁠セ⁠ッ⁠トへ⁠の影⁠響

関税政策を巡る市場のボラテ⁠ィリ⁠テ⁠ィ上⁠昇とリ⁠ア⁠ル・ア⁠セ⁠ッ⁠トへ⁠の影⁠響

トランプ米大統領による各国に対する関税発動を背景に、足元で市場のボラティリティは急上昇しており、主要株価指数は大幅下落し、その他多くの資産クラスも総じて軟調な相場展開となっています。景気減速への懸念は高まっており、グローバルな関税引き上げの行方を巡る不透明感と市場の動揺に投資家は身構えています。

このような、不確実性とボラティリティが上昇し、成長見通しが見直される環境下においては、投資家の皆様には長期的な視野に立ち、ポートフォリオ分散の利点を再認識されることをお勧めします。

特に関税に関しては、上場リアル・アセット(不動産証券、インフラ株、コモディティ、天然資源株)がマイナスの影響を受ける可能性は広範な株式と比較して低いと見ています。実際に過去のケースを振り返りますと、トランプ第一次政権時代、2018-2020年にかけて関税が導入された局面では、上場不動産証券が株式を大幅にアウトパフォームしました。

その理由は、第一に、リアル・アセットは長期リース契約等により、予測可能な収益と高い配当利回りを生み出す傾向があるためです。こうした変動の少ない収益源泉は、歴史的に高いリターンをもたらしてきておりますが、市場の不透明感が上昇する局面では特に魅力的な特性となり得ます。

第二に、ほとんどのリアル・アセットは、他の多くの資産クラスに比べて関税への直接的なエクスポージャーがはるかに低いことが挙げられます。リアル・アセットは、一般的に輸出入動向に相対的に左右されにくく、また、関税圧力の有無にほとんど関係なく中長期的な成長ドライバーによってファンダメンタルズが下支えされると考えます。

第三に、昨年6月にリリースした、今後10年間の株式、債券およびリアル・アセットのリターン予想に関するレポート「資本市場の見通し」でも述べた通り、リアル・アセットのバリュエーションの出発点は相対的に魅力的な水準にあります。

最後に、リアル・アセットは歴史的にインフレ環境下(特にインフレ率が予想より上振れる局面)においてアウトパフォームしてきたことも注目に値するポイントです。関税の引き上げは、脱グローバル化や地政学的摩擦、コモディティ価格の上昇に大きく寄与し、それぞれがインフレ要因となり得ますが、関税政策の長期的な影響は未だ不透明な状況です。

上場不動産証券は、先に述べたリアル・アセットの特徴がよく現れている例です。

リートは、安定したビジネス・モデルが支えとなり、歴史的に力強いパフォーマンスを発揮してきました。リートのビジネス・モデルは、リースに連動して経常的な収益を生み出す優良な資産の取得と開発に重点を置いています。これは、関税の対象となる商品の輸出入とはまったく異なるビジネスです。

また、関税の影響をほとんど受けないと思われる中長期的なトレンドのシフトなどに裏付けられる成長ドライバーも、多くの不動産証券セクターに有利な価格決定力をもたらしています。クラウド・コンピューティング、5G、AIのニーズ加速により、データセンターに対する需要が継続的に高まっています。また、高齢者住宅はベビーブーマー世代の高齢化から、戸建住宅はミレニアル世代による世帯形成等からなど、人口動態によって恩恵を受け続けているセクターもあります。

しかし一方で、関税は特定の不動産セクターには一定の影響をおよぼす可能性もあります。ホテル/リゾートは、経済成長が鈍化すれば需要が先細りになる可能性があるため、消費者の低迷が逆風になり得ますし、ショッピング・モールでは、小売業者のテナントが大幅なコスト増に見舞われ、利幅が圧迫される可能性があります。また、建設業者は木材価格の上昇に苦しむかもしれません。このようにセクター間で影響の度合いが異なることから、アクティブ運用が重要であると当社は考えます。

上場不動産証券は、インフレによるマイナスの要因(土地、資材、人件費等の高騰による開発の潜在的利益減少や新規供給に対する経済的障壁引き上げ、既存物件の潜在的競争力低下等)を加味してもなお、歴史的に、インフレ環境下において相対的に良好なパフォーマンスを発揮してきました。

上場不動産証券は現在、伝統的な株式に対して大幅なディスカウントで取引されていますが、歴史的に見て、このようなバリュエーション水準で取引された後は株式を顕著にアウトパフォームしてきました。長期の過去平均で見た場合に株式に対してややプレミアムで取引されてきたことを考慮すれば、上場不動産証券は、関税を巡る市場の不確実性が高まる現在の環境下において、より一層有利な立ち位置にあると考えます。

インフラ株、コモディティ、天然資源株など、その他のリアル・アセットの中核である資産クラスに関しても、不動産証券と概ね同様の特性があり、足元で特に魅力度が増していると見ていますが、同時に、リアル・アセットはほとんどの投資家にとって恒久的に資産を配分すべき投資先という見方を当社は維持しています。

上場インフラ株も、上場不動産証券同様、上述のリアル・アセットの特徴をよく反映した資産クラスの一例です。インフラ株のサブ・セクターには、貿易動向に相対的に敏感なセクターもある一方、長期契約による予測可能な収益源が支えとなり、広範な株式と比較し高いディフェンシブ性を発揮する傾向があります。また、インフラ企業は、その収益モデルに基づき、コスト上昇を最終顧客に転嫁する能力も有します。

上場不動産証券と同様に、上場インフラ株は現在、過去の平均的なバリュエーション水準(株式に対してややプレミアム水準)に比べ、株式に対してディスカウントされた水準で取引されています。世界経済のデジタル化、電力需要の増加、脱炭素化、脱グローバル化など、長期にわたるトレンドや構造的な変化がインフラ支出を加速させていることも特筆すべき点です。

現在、我々は新たな市場サイクルに入っています。超低金利、相対的に低い景況変動、高リターンを創出した株式市場といった前回の市場サイクルとは大きく異なり、現在の市場サイクルにおいて米国債を除いて、直近の市場の大幅な下落による影響を受けなかった資産クラスはほとんど存在しませんでした。

粘着性の高いインフレ、株式の期待リターンの低下、金利の正常化、経済成長の鈍化、そしてより大きな景況変動がまさにこの新しい市場サイクルの特徴と言えます。新たな関税の引き上げに対する市場の反応は、市場サイクルの転換をさらに強化するものとなっています。

このような市場環境下、リアル・アセットへの投資による分散効果は特に有意となるように思われます。前回の市場サイクルで勝ち組となった株式は、直近の市場の大きく変動する環境において矢面に立たされています。

ご参考までに、当社が昨年暮れにリリースしたリサーチ・レポート「FOMOの心理、運勢の逆転、リアル・アセットに存在する投資機会」をお読みいただくことをお勧めいたします。多くの投資家が、新たな市場サイクルの勝ち組になりうるであろうリアル・アセットへの資産配分が不十分である一方、前回の市場サイクルにおける勝ち組であった株式への投資を高位で継続しているように見受けられます。

2024年において、米国株式は2年連続で25%を超えるトータル・リターンを創出しました。2025年1-3月期では、S&P500種指数は4.3%下落し、トランプ政権による大規模な関税政策が発表された翌日の4月3日には4.8%急落しました。直近の株価下落までは、株式市場のバリュエーションは2000年初頭の高水準まで上昇していました。

対照的に、上場リアル・アセットに分類されている資産クラスはすべて、新たな市場サイクルに入る早期のタイミングで再評価されていたため、バリュエーションは総じて妥当もしくは割安な水準で推移しています。株式や一部の実物資産を含むその他の資産クラスは、まだそのようなバリュエーション水準には到達していません。

上場不動産証券、天然資源株、コモディティおよび上場インフラ株で構成されるブレンド指数で計測される上場リアル・アセットは、2025年1-3月期において6.1%のトータル・リターンを創出しました。これは、同時期におけるS&P500種指数と10%以上の差異が生じたことを示しています。4月3日において、リアル・アセット・ブレンド指数は1.7%の下落にとどまったのに対して、S&P500種指数は上述通り4.8%の下落となりました。

一方、株式と債券のリターンの相関関係がますます強まっており、株式と債券のポートフォリオのみでは、投資家が期待するほどには分散効果をもたらさないことを意味しています。

当社の結論としては、我々は現在、新しい市場サイクルに入り、分散投資の重要性が再び高まっており、リアル・アセットが分散効果をもたらす最適な手段となる可能性があると考えています。

レポートをダ⁠ウ⁠ン⁠ロ⁠ー⁠ド
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